第13話:国家共有魔術学院06
「ふっ……ふっ……ふっ……」
軽い木刀で正確に型をなぞって振る。
いつもの訓練だ。
汗をダラダラ流しながらアインは剣を振る。
十年間続けたことで型通りの素振りには成功している。
「やはは」
と音声で鬼一は笑った。
場所は寮部屋。
広く取られた私室で……その場所に関してなんの憂慮もなくアインは千を越える素振りをしているのだった。
「はあ……」
と未だ慣れないリリィ。
「何か意味があるんですか?」
今更な事をリリィが聞く。
「型に沿って剣を振るうことで反復運動をするのじゃ」
鬼一がそう答えた。
「剣には型がある。それを押さえねば次の段階にはいけない」
「鬼一様……」
「もっともアインは優秀じゃがのう」
「皮肉か師匠?」
「本音じゃ」
鬼一は言う。
「きさんはまっこと剣術に向いておるな」
「恐縮だ」
木刀を振り続けながらアインは皮肉った。
「アイン様は魔術より剣術を得手とするのですか?」
「実際その通りだろ?」
「あう……」
言の葉を失うリリィだった。
「嘘をついている」
それは事実だ。
だが本音をぶちまけるわけにもいかない。
禁術。
その訓練は誰にも知られてはならないのだから。
禁断の秘術。
パラダイムシフトさえ起こしかねない禁忌。
そうであるが故に三流魔術師を装っているのだ。
「業が深いのう」
思念で鬼一がからかう。
「レゾンデートルだ」
アインはふて腐れて言った。
実際その通りだ。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
アインは素振りを続ける。
「ところでじゃの」
これは鬼一の音声。
当然大気を振動させているためアインとリリィの鼓膜に響く。
「ふっ……」
アインは木刀を振りながら、
「なんでしょう?」
リリィはポカンとして、それぞれ鬼一の言葉に耳を傾ける。
「アンネについてはアレで良かったのかや?」
そんな鬼一。
「他にどうしろと?」
アインは仏頂面で言う。
「それはたしかに私も感じました」
リリィも鬼一に同調する。
「別段気にする事でもないだろ」
アインは一蹴した。
「きさんがそれならそれでいいがな」
鬼一は軽く言ってのける。
「しかしてアンネ様は発言力が高そうでしたが……」
「別段気にすることでもあるまいよ」
サラリとアイン。
「アイン様に悪意を持つ人間が現れれば問題ですが……」
「それこそ問題ない」
「然りじゃな」
アインと鬼一は以心伝心だった。
「何か?」
首を傾げるリリィに、
「ま、色々あってな」
誤魔化すアイン。
まさか禁術について話すわけにもいかない。
惚けるのは必然と言えよう。
「あまりアイン様に業を背負わせたくは無いのですが……」
それは真摯な言葉だった。
「大丈夫」
アインはリリィの金髪を撫でた。
素振りを中止して。
「リリィは俺の安定剤だから」
お顔の整っているアインにそう言われて、
「あう……」
と赤面するリリィ。
「可愛いなぁ」
とは心中の言葉。
アインと鬼一の通念だった。
アインは型通りに木刀を振るう。
それをジッと見やるリリィ。
「型が崩れてきておるぞ」
一言添える鬼一。
「……っ」
その忠告にアインは気を引き締める。
「ふっ……」
次なる斬撃を繰り出す。
汗を掻いて何度も何度も。
その努力の結晶を、
「何故に魔術の訓練に回さないのでしょう?」
疑問に思うリリィだった。