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第127話:魔族が街にやってくる09


「起きろ」


 同日。


 夜。


 寝室のベッドに立て掛けられていた鬼一の言葉で睡魔を滅ぼすアイン。


 一瞬で思考をクリアにする。


 ことハレとケの使い分けは鬼一に師事してから今まで叩き込まれている心の有り様だ。


「どした?」


「魔族じゃ」


「あー……」


 眠いわけではない。


 が、


「眠ってしまいたい」


 も本音と言える。


 辺鄙な村だ。


 別に何がどうのでも無い。


 穏やかな割腹の良い女主人の営む宿屋の一室。


 魔族が現われた。


 鬼一の冗談ならそれ以上はないが、付き合うのも義理の内。


 鬼一の方も笑えない冗談は言うし、別に魔族が出たからとて斟酌する立場でもないが、


「とりあえずは仕事じゃろ」


 程度の意見ではあった。


 先の山賊に続いて、今度は魔族。


「いつからガギア帝国は魔窟になった?」


 これはアインの不満だが、実のところ思索のとっかかりであった。


 まだアインにしろ鬼一にしろ指を引っかけてもいないが。


 速やかに黒衣礼服に着替えて腰に鬼一を差す。


 そして外に出ると、夜の中に光明を見た。


 灼火。


 火事。


 炎が立ち上り家を焼く。


 茅葺き屋根の家が大半であるため炎の魔術は都合が良い。


「働いても給料が出ないというのは如何な物か」


 思念で提議すると、


「超頑張れ枢機卿猊下」


 鬼一に切って捨てられる。


「まぁそうなるよな」


 パチンと指を鳴らす。


 禁術の行使。


 燃えている家が鎮火した。


 水ではない。


 風でもない。


 言葉を選ばないなら映像の編集に似る。


 此方の世界では通用しない概念。


 コマ落ち。


 まさにその通りの効果だ。


 一瞬かつ脈絡なく立ち上っていた炎が消え失せる。


「何故?」


「誰が?」


 そんな思惑も追いつかない。


 単純に恐怖と混乱が近隣の村人を煽っていた。


 アインとしては都合が良いのだが。


 魔族は村を蹂躙している。


 一体だけだが、無力な村人には十二分だ。


「なんか嫌な予感がするな」


 禁術の行使。


 コマ落とし。


 サクッと消え去る魔族。


 殺人は教義で禁じられているが、魔族そのものの殺害はむしろ推奨される。


 であるため、


「これで終わるわけないよな」


 そういうことだった。


 ケイオス派。


 魔族と契約している人間が魔術を振るう。


 対するアインはカウンターで魔術を封じた。


 魔術の起こりと並列した禁術の起こり。


「っ?」


 何が起きているのか?


 ケイオス派の表情がそう云っていたが、


「ま~な~」


 特に説明の労力も必要としない。


 チャキッと鬼一が謳う。


 アインが柄に手を添えて、目を細めた。


「死ね!」


 ケイオス派が炎の魔術を取り扱う。


 熱塊が炎弾となってアインを襲うが、


「遅いな」


 最小限の動作で躱す。


「死ね!」


「お前がな」


 殺しは御法度だが、それを一々言語化もしない。


 神速。


 縮地。


 和刀こと鬼一法眼が鞘から抜き放たれる。


 抜刀術。


 それは綺麗にケイオス派の双眸から光を奪った。


「こういう時に宗教の限界を感じるな」


「破戒僧になれば良い」


「ご尤も」


 ある種の悟りはアインも持っている。


 神は信じないにしても人の善性を高らかに謳うことそのものまでは否定できないのが宗教の運営だ。


 その枢機卿ともなれば、


「絶対に猊下から労災をふんだくってやる」


 程度の思考はむしろ自然だ。


 並行して神都のレイヴがくしゃみをしたことまではアインにも鬼一にも知りようがなかったが。


「しかし……魔族にケイオス派ね」


 取り押さえられているケイオス派を見やりながら鬼一を鞘に収めるアイン。


「もしかして……」


 あまり考えたくない思惑がアインと鬼一を襲っていた。


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