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第126話:魔族が街にやってくる08


 学院への道のりの途中。


 アインは商人と共に村に立ち寄った。


 畑を耕して細々と暮らす村人たち。


 外来者向けの宿屋で一泊する。


 宿代は商人の懐から出るが、先の山賊退治の報酬と思えばむしろ間接的にアインの支払いである。


 誇るアインでもなかったが。


 歓待を受ける合間に剣の修行。


 ほとんど日課だ。


 素振りを繰り返す。


 鍛錬に使う木刀は即席で用意した物。


 こちらは禁術に属する。


「どう思う」


 素振りをこなしながらアインは鬼一に問うた。


「何がじゃ?」


「ケイオス派」


「旨みはないの」


「だよな」


 木刀が空間を薙ぐ。


「とはいえ珍しいかと云われればややもすれば疑うところじゃが」


「それは……まぁ」


 アインとしてもケイオス派と暗闘してきた身だ。


 今更ケイオス派の二人や三人程度では、


「心胆寒からしめるはずもない」


 と言うに否やはないが。


「そもついでじゃろ」


 鬼一は楽観としたものだった。


「きさんに与えられた任務は平和に於ける原因の発露じゃろ?」


「ガギア帝……ね」


 実際に武器商人から戦力をかき集めているのだから、


「何だかな」


 と云った所。


「本気でノース神国に攻め入る気かね?」


「その真偽を明らかにして抑止力となるようにレイヴは望んでいるのでは?」


「軍備を増強しているのは事実らしいが……」


 それにしても建前がない。


 唯一神教の聖地。


 ノース神国。


 異端虐殺のプロフェッショナルである審問官を多数抱える国際裁判国家。


 レイヴの気質が伴って異国への興味はないが、こと魔術を根幹とする戦力は大陸でも屈指だ。


 大義名分を得た隣国を刺激しながらノース神国を攻め入るメリットが何か?


 アインと鬼一の思考は自然そっちに向くが、情報が足りない。


「型が崩れてきておるぞ」


「失敬」


 四桁ほど素振りしながら初心に返るアイン。


「結局ついでなのかね」


「あまり意味があるとは思えんの」


 その、


「ついで」


 で滅ぼされる山賊も不幸だが。


「とりあえず」


 木刀を振る。


「聖務としては正しいんだよな」


「一銭にもならんがの」


「ソレなんだよなぁ」


 何が哀しくて枢機卿?


 アインのアイデンティティの問題だ。


「まぁこういうこともあろうの」


「それで済めば良いんだが」


「後は軍警察の管轄じゃろ」


「他国ながら難儀な案件だ」


「然りじゃな」


「隠れ蓑に使われた審問官はどうしているのやら……」


「建前としては無事じゃろが……」


「ライトが巻き込まれないのは心安んじるがな」


「あまり一緒に居るとアイス猊下との関連性が疑われるしの」


「だぁな」


 アインが国家共有魔術学院に入学してから、その学院街のシスターとなる。


 アインが実家に帰ると神都の聖人に。


 ここでアインと一緒にガギア帝国に来れば勘の良い人間なら察知するだろう。


 であるから留守を任せているのだが。


「何はともあれ」


 素振りを続ける。


「ガギア帝の意向を聞くところか」


「魔術学院も国家運営なら外れではなかろうの」


 魔術師。


 神秘を扱う戦力。


 一騎当千といって過不足ない能力。


 その威力はアインも把握している。


 あまり重視はしていないが。


 元より枢機卿として教皇の良いように使い倒される存在。


 悪徳魔術師から魔族関連まで、多種多様に戦ってきた。


 魔術と対称的な禁術。


 その破格の威力と正比例して理性が慢心を上回っているのだから、ある種の聖人ではあろう。


 褒められた精神は有していないが、


「使えるなら如何を問わない」


 とも猊下に云われていた。


 鬼一による教養の講義で、認識と文明に於いて同世界の住人より一歩ほど先には進んでいる。


 全知全能が如何な存在か。


 ソレを知れば、


「まぁやる気も無くすよな」


 との言葉も吐いて出る。


 お得意の嘆息だ。


「師匠の世界は楽しいのか?」


「酒が美味いのは否定せんのじゃが」


 しれっと答える鬼一だった。


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