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第125話:魔族が街にやってくる07


「ここだ」


 と一人無事に残した山賊の案内でアジトを突き止めるアイン。


 別に正義感からの道徳の発露ではない。


 網を張っていた山賊四人。


 内一人が魔術を使ったことが根幹だ。


 ケイオス派。


 俗に、


「魔族と契約して魔術師となった愚者」


 と認識されている。


 一般人が安易に魔術師になる手段ではある。


 血統にも才能にも依存しない魔術の獲得。


 そう聞けば中々忍ばせるが、ケイオス派は魔術の行使に正比例して意識を魔族に乗っ取られる。


 その本質が、


「人類のアンチテーゼ」


 であれば、ケイオス派の末路も窺える。


 で、ケイオス派が山賊に組み込まれて、一人だけとの楽観論をアインは持てないのだ。


「ここまで案内したんだから俺は逃げていいよな?」


「ああ」


 サックリとアインは答えた。


 鬼一の人外な感知能力で、


「山賊のアジトに相違ない」


 とは確認済みだ。


「息災でな」


 離れていく山賊に言葉をかけるのだった。


 自然の中のコテージ。


 そこが山賊のアジトだ。


 中々森の深いところにあるため油断もあるのだろう。


 見張りも警戒もいなかった。


 特別施錠されているわけでもないので、


「お疲れ様でーす」


 悠々と中に侵入するアイン。


 その腰に差している鬼一。


「誰だお前は!」


「名乗るほどの者では」


 謙遜にしては白けた空気だ。


 人数は六人。


 先行した四人と足して全十人。


 あまり大集団になると身動きが取りづらくなる。


 なおノース神国との国境が近いため軍警察も控えているのだ。


 そういう意味では少数で運営した方が能率は良い。


 褒めそやす気もアインには無いが。


「軍警察か……!」


「単なる冒険者だ」


 真っ赤な嘘だが懇切丁寧に説明する場でもないだろう。


「オタクらの見張り役を無力化してな」


「っ」


「ついでに根元から根絶しよう……とそういうわけだ」


「アイシクルランス!」


 一人が魔術を使った。


 鞘から抜刀された片刃剣が氷の槍を霧散させる。


 アンチマテリアル。


 現象に抵抗する鬼一の魔術である。


 アインが魔術師を名乗る際に重宝する手品の類ではあるが、有益さでは比類ない。


 尤も魔術相手に剣閃を当てるという離れ業あっての物で、アインでなければ取り扱いの難しい魔術でもある。


 第六感を極めた先の天見にも似た能力あって初めて猛威を振るう技術。


「馬鹿な!」


 と魔術を撃った山賊の一人が狼狽えたが、


「馬鹿はそっちだろ」


 がアインの回答。


 魔族と契約してケイオス派に堕落する行為の非生産性はこの世界では常識の一つだ。


 別段山賊に恨みも無いものだが、


「ケイオス派の誅伐」


 は唯一神教の教義であり聖務でもある。


 別に好きで枢機卿になったわけでもないが、


「禍根を残さない」


 という意味で山賊への戦力介入を行なった次第。


「ま、いいんだが」


 時は一瞬。


 手は六度。


 水平に六度振るわれた鬼一は山賊の双眸から光を奪った。


 手心を加えたにしても中々忍びない手段ではあるが。


「しっかし」


 何時もの嘆息。


「山賊が魔族とね……」


『ぞく』同士気が合った……というのは簡単だが、さすがに憂慮程度はする。


 魔族そのものには慣れている枢機卿猊下だが、


「こんな僻地の人間を籠絡して何の意味があるのか?」


 必然思考はそっち寄りになる。


「……っ!」


「……ぁ!」


 苦悶に呻く山賊らはとりあえず処置を施し、それから財産を根こそぎ奪って馬車に戻る。


「えーと……え?」


 宝石から食料まで雑多な戦利品を馬車に載せると、商人の方が困惑していた。


 それはまぁ甘やかなマスクの美少年一人が、


「山賊のアジトを潰して溜め込んだお宝をさらってきた」


 と云えば何某かとは思うだろう。


 アインの能力については疑っていない商人ではあったが、信頼を良い意味で裏切った形と相成る。


 とりあえず食料だけ確保して、栄養にならない類の物品は商人に無償譲渡した。


 貴金属や宝石の類だ。


「頂いても宜しいので?」


 狐につままれる……そんな表情で商人が確認する。


「俺が持ってても意味ないしな」


 干し肉を囓りながらアインは素っ気なく。


「は~……規格外ですね」


 報酬を払う立場にしてみれば立つ瀬がないところ。


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