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第123話:魔族が街にやってくる05


 とはいえ仕事は仕事。


 馬車の荷台でのんびりしているアインだった。


 あぐらをかいて陽気を浴び、


「良い天気だな~」


 鬼一を体に立て掛けてまったり。


 商人は武具の類を運んでいた。


 何でも帝都では軍備増強に伴い武具や防具の類が高騰しているらしい。


 商売として見過ごせない状況ではあろう。


 アインとしても他人事ではないが、焦っても帝都が近寄って来るわけでもないので、馬車に便乗してガギア帝国を北上する。


「こういう日が毎日続くなら神を信じてもいいんだがな」


「じゃな」


「リリィは今頃何してるかね?」


「さてのう」


「家族と親交を深めていれば良いんだが」


「通信を飛ばしてみるかや?」


「師匠の器用さには舌を巻く」


「然程でもないんじゃがなぁ」


 サラッと言って思念チャット。


「テステス」


「アイン様ですか?」


「然りだ」


「ええと」


「師匠の能力」


「はあ……」


 ポカンとしているらしい。


 映像は付随しないが何となく想像が付く。


 愛らしい困り顔だろう。


「家族とは上手く行ってるか?」


「ええと……はい」


 喜色に塗られた声だった。


 心なしか弾んでいる。


「アイン様と鬼一様はどちらに?」


「黙秘権を行使」


「以下同言じゃな」


「危ないことはしていませんよね?」


「絶賛日向ぼっこ中」


 嘘ではない。


「魔力は足りていますか?」


「十分にね」


 精霊石に込められた魔力は多量で、すぐ枯渇するほど貧してはいない。


 これはリリィの功績だ。


 とはいえ、


「魔術が必要か?」


 と顧みる気持ちもあるが。


 意識的に使えてはいるが、そこはそれ……剣術と禁術の方が慣れ親しんでいる。


 アインをして代行師に任じられる根拠だが、それ故に今の状況があるとなれば皮肉の一種とも言える。


「あのですね」


 とはリリィ。


「アイン様」


「はいはい」


「お帰りはいつ頃に?」


「未定」


 杜撰の一言だが、


「こっちにも事情がある」


 とまでは言えなかった。


「鬼一様もお付き合いですか?」


「ま、アインの業は無聊の慰めじゃからの」


「おい」


 アインの怒りも尤もだが、過去のデータを抽出するに、アインが厄介事に巻き込まれるのは統計的な根拠があり、鬼一いなくば何度か死んでいる類の人生なので、あまり強行に反対意見も言えなかった。


 恨むには値しない。


 鬼一がいなければアインは禁術の可能性を知らずに生きていただろう。


「レゾンデートルの獲得」


 と云う意味では恩師である。


 敬いはしないが、師匠と呼ぶのにもそれなりの理由はあるのだ。


「鬼一様がいらっしゃれば万に一つもないのでしょうけど……」


「んじゃんじゃ」


「その根拠は何処から来る?」


 意思も有るし言葉も話す。


 が、究極的に鬼一は剣だ。


 アクションという観念が欠落している。


「私もアイン様と日向ぼっこしたいです」


「おいおいな」


 苦笑。


「ま、ともあれ今は羽を伸ばしておけ。俺が居ない方が愚痴も出やすいだろ?」


「アイン様に対するご不満なぞ持っておりませんっ」


「ん。良い子良い子」


「もうちょっと傍若無人でもいいんじゃがの」


「鬼一様までからかわないでください」


「師匠はこれで平常だから」


「どういう意味じゃ」


「そういう意味だ」


「あの……喧嘩は……」


「してねーよ」


「してないじゃ」


「そうなんですか?」


「主観の齟齬のすり合わせは何時ものことだしな」


「はあ」


「小気味よい弟子という事じゃ」


「はあ」


 納得しようにもアインと鬼一の顔色を窺えないリリィ。


 距離は国境を挟んでいるため絶望的だ。


 思念チャットで会話くらいは出来ても、今のアインの状況を知る術は無い。


 巻き込んでいい案件でもないため二人にすれば都合が良い。


 もっとも鬼一の方は巻き込んだところで困りもしないだろうが。


 そんなこんなで馬車は進む。


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