第121話:魔族が街にやってくる03
「学生さんね」
冒険者ギルドに顔を出すとアインは受付からしげしげと観察された。
黒髪黒眼。
黒衣礼服。
そして腰に差した和刀。
「強さに自負はありますか?」
「敵による」
本人は大真面目に答えたが普遍的すぎて妄言の類だ。
「一応護衛職……でいいんですよね?」
「まぁ」
魔術学院までの足としてアインは商人の護衛を選んだ。
金銭を稼ぎ、足の確保も相成る。
別に貧しているわけでもないが、手っ取り早い足の確保としてはまず真っ当だ。
「山賊や野盗の類なら問題にならんな」
「はあ」
と受付。
それから、
「ではお待ちください」
と言われてアインはギルドに身を任せる。
書類が奥に運ばれ、合致するクエストを選出する。
案の定というかベタというか……ギルドは酒場にもなっているため、冒険者のたまりも出来ていた。
「盛況じゃの」
「ギルドならこんなモノだろう」
思念による会話。
そしてアインは酒場の席に座って蜂蜜ミルクを頼んだ。
酒は自重している。
ミルクを飲んでいると、
「おい坊や」
冒険者の一人が粗野な口調で話しかけてきた。
「何か?」
ミルクを飲みながら答える。
が、視線は向けない。
無視……とは違うが、
「軽んじられた」
と冒険者が思っても致し方なくはある。
「その年で冒険者か?」
「色々と因業がありまして」
仮に正直に話しても一笑に付されるだけだろう。
「ノース神国の間諜で、ついでに枢機卿だ」
などと察してのける人間がいるなら、ある意味で魔族以上に脅威だ。
「何のクエストだ?」
「馬車の護衛」
「はっ。坊主がか?」
「おや、信用いただけないので?」
「てめぇみたいなひょろっちい餓鬼が居ていい場所じゃねぇ」
ちなみにアインに云わせれば、
「肉体の完成度なら勝負にもならん」
などとうそぶける。
別に冒険者ギルドに寄せられる依頼の全てが危険なわけではない。
が、護衛職はある種の戦闘巧者の特権でもある。
学ラン……黒衣礼服で鍛え上げられた肉体を隠しているアインは、見た目だけなら年齢相応。
むしろ甘いマスクであるから、
「お坊ちゃん」
と取られるのも自然。
「で、どうしろと?」
「出て行け」
「謹んでお断りします」
「餓鬼は大人の云うことを聞けばいいんだよ」
「いるよなぁこ~ゆ~奴」
ミルクを飲みながら精々、
「心底呆れてます」
と態度に出すアインだった。
「舐めてんのかテメェ!」
あっさりと頭に血が昇る冒険者。
能力的には脅威では無いが、状況的には脅威だ。
禁術。
外的干渉に自動で排除を行なう、
「レジデントコーピング」
と呼ばれる防御技術。
ここで見せるのはうまくない。
仕方がないので飲んでいたミルクを勿体ないながら絡んできた冒険者の顔にかける。
標的を見失った拳を躱して首を掴む。
押さえつけるのは頸動脈。
四十秒もあれば意識を奪えた。
「南無三」
十字を切るアイン。
決着は着いたが、呼び水でもあった。
「よくも!」
複数の激昂があがる。
似たような冒険者のグループだ。
おそらく気絶した当人の仲間なのだろう。
アインは倒れている男の頭を乱暴に蹴って、
「とっとと此奴を回収しろ」
いっそ敵対的に言ってのけた。
面倒事は嫌うタチだが、こと此処に及んで厄介事を回避できないとなれば別のアプローチが必要にもなる。
「かか!」
大笑する鬼一。
「師匠は気楽でいいな」
「きさんもよくよくトラブルに巻き込まれるな」
「そういう星の下なんだろう」
「然りじゃ」
「酒は飲めんが血を吸えるわけだ」
「小生を抜くのか?」
「状況次第だな~……」
かくも浮世は度しがたい。
あまり教養が有利に働かない世界というのも問題ではあるのだが。




