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第117話:休むも何も何時もと変わらず13


「やっほ」


 教皇……レイヴが聖櫃の間でアイスを迎えた。


 オートマトンが奉仕しており、和やかに紅茶なぞ飲んでいる。


 玉座もあるが、今レイヴが座っているのは簡素な椅子で、カップが置かれているのは簡素なテーブル。


 有り難みもクソも無いが、


「まぁレイヴだし」


 で済む問題だ。


 少なくともアイスにとっては。


「よく来たね」


「分かってて云ってるだろお前」


「まぁまぁお座りよ」


 簡素なティーテーブルのもう一つの椅子を指し示すレイヴ。


「アイス様。お飲み物は如何しましょう?」


「チョコレートで」


「承りました」


 そしてオートマトンの執事は業務に励む。


 謁見の間で茶飲み話というのも奇妙なモノだが、アイスと鬼一には今更だ。


 レイヴの気質は十全に理解しているし、レイヴの方もアイスの気質は十全に理解している。


「うまうま」


 焼きたてのクッキーをサクサク食べているレイヴには威厳の欠片も無いが、それはむしろアイスに気を許している逆説的証明だ。


 王族や信徒と相対する際は猫を被るのが鉄則。


 これは別にレイヴだけではなくアイスにも言える。


「クッキー美味しいよ?」


「いや、特に口寂しくはないな」


 振る舞われたチョコレートを飲みながらそんなアイス。


「言い飽きたけど苦くないの」


「慣れた」


 薬用チョコレートを砂糖も無しで飲めるアイスも中々だ。


「いいんだけど」


 サクサク。


「んで? 何の用じゃ?」


 埒があかないと鬼一が切り出した。


「アイス枢機卿……というよりアインに用があって」


「?」


「?」


 二つのクエスチョンは師弟のものだ。


 基本的に唯一神教において教皇レイヴの言葉は絶対だ。


 アインはクイン家の一倅だが、アイスは枢機卿であり代行師。


 教会の持つ懐刀である。


 過去を思い返してみてもレイヴが使い倒してきたのはアインでは無くアイスの方である。


 アイスはアインにとっての覆面であるため禁術の使用にも制限が要らない。


 その威力はレイヴを例外とすればあまり対抗馬が想定できないほどである。


「とりあえず変身を解いたら?」


 紅茶を飲みながらレイヴが言う。


「…………」


 光学干渉が取り止められて、アイスはアインへと変じる。


 チョコレートをゴクリ。


「また何か厄介事か?」


 不遜とも言えるが、アインにとって階位や名誉はあまり判断基準には含まれない。


 父親が見ていれば卒倒モノではあろうが。


「うーん。やっぱりアインはいい男」


「恐縮だ」


「いいことしよ?」


「別の人間を見繕え」


 介錯。


 あくまで形而上だが。


「リリィは抱いた?」


「まだだ」


「私は」


「一生待ってろ」


「にゃ~」


 クッキーをサクサク。


「で、面倒事なんだけど」


 閑話休題らしい。


 というか、当の本人が、


「面倒事」


 と確定事項で話す当たりに苦みを感じる。


 薬用チョコレートより苦い。


「わはは」


 鬼一は笑った。


 大凡アインの業を肴にしている側面もあるためこれはしょうがない。


 立て掛けていた師匠を蹴り倒すアイン。


「暴力反対」


「じゃかあしい」


 心すさむは必然だ。


「で?」


「ガギア帝国が不穏っぽい」


「…………」


 すぐには飲み込めなかった。


「あー」


 とか、


「うー」


 とか悩んで、


「…………」


 チョコレートを飲む。


 レイヴはクッキーをサクサク。


「不穏と仰いますと?」


 この際の敬語は皮肉だ。


「ガギア帝が乱心したらしく……」


「はあ」


「軍備増強に精を出しているとのこと」


「戦争準備……か」


「だね」


「ガギアも中々大変だな」


 アインとしては他人事だが、


「多分標的はこっち」


 あまりと言えばあまりなレイヴの言に、


「…………」


 チョコレートを飲む動作の途中で固まるアインだった。


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