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第116話:休むも何も何時もと変わらず12


 とりあえず神都に戻って宮殿に顔を出す。


 白い髪に白い瞳。


 宗教礼服を着こなして、煌びやかな鞘に片刃の剣を収めている。


「アイス卿……」


「アイス様……」


「お麗しゅう」


 アイン……転じてアイスとしては、


「なんだかなぁ」


 と云った様子。


 アインは基本的に俗事に塗れた凡俗であるため、信仰心豊かとは言えない。


 というより家の事情と心労の溜まり具合を考えて、あまり教会に関わろうとしない。


 レイヴに目をかけられてはいるが、


「めんどい」


 で済ませる剛の者だ。


 結果として鬼一の魔術で覆面を造る。


 黒髪黒眼の少年から白髪白眼の少女へ。


 前者をアインと呼び、後者をアイスと呼ぶ。


 所謂、


「パーソナリティの使い分け」


 だが、アイスは教会の枢機卿だ。


 ハッキリと言ってしまえば、実家のクイン家より立場としては上位に居る。


 誇るアインでも無かったが。


 そも全知全能については鬼一から実態を聞いているので尊崇できるはずも無く……枢機卿の立場も全て教皇のお膳立てと言えた。


 南無三。


 とはいえ仕事は仕事。


 アイスは与えられた枢機卿の部屋から廊下に出て、慇懃に司祭の案内を受けた。


 今此処。


「何事じゃろ?」


 鬼一の思念。


「まぁ面倒事ではあるよなぁ」


 アイスとしても気が重い。


 枢機卿ならば厚い信仰心を持って教皇にこうべを垂れるべきだが、アイスは例外の外の領域にいる。


 主に精神の面において。


 宮殿は王族と教会が共同で使っており、それぞれに縄張りがある。


 クインの屋敷も神都の中では広い方だが、神都の宮殿とはさすがに比較しようにも役者不足の体がある。


 アイス曰く、


「広けりゃ良いってもんじゃねえぞ」


 とも認識されるが。


 天井を見れば静謐な絵画。


 廊下の柱は彫刻があしらわれている。


 床は磨いたような大理石のソレ。


 アイス並びにアインは俗人だが、あまり荘厳な宮殿を有り難いとは思わない。


 アイスを見る司祭や信徒の尊崇の目が煩わしく、


「スマイルゼロ円って要するにただ働きだよな」


 と労働条件に今更疑問符を持つ程だ。


 アイスを目にかけて祈り出す信徒までいるのだから手に負えない。


 ノース神国はこの世界に於ける聖地であり、宗教国家だ。


 スタートゲイザー。


 教皇ことレイヴが居座る場所であり、あらゆる政争に於いて不可侵を定義づけられている。


 なお教会の保有する戦力は莫大で、


「仮に戦争が起きても問題は無いな」


 とアイスは言うが、


「おまいう」


 と鬼一がツッコんだ。


 枢機卿であり、同時に神罰の地上代行師。


 教皇直属の粛正戦力。


 それがアイスでありアインだ。


 審問官の類ですら下級魔族程度なら一蹴する。


 アイスのレベルになると中級魔族を腰に差した剣一本で滅ぼせるレベル。


 というか実際に何度か滅ぼしている。


 アイスが、


「剣聖」


 と呼ばれる所以だ。


 その背中に掛かる信仰心は、


「ある種の鬱陶しさ」


 であるものの、とりあえず自分の立場を弁えていないではない。


「アイス猊下……!」


 信徒の一人が近づいてくる。


「畏れ多いぞ!」


 アイスの道案内である司祭が止めようとするが、


「構いませんよ」


 アイスは和やかに信徒に接近を許した。


「是非とも神のご加護を」


 アイスに傅き祈り出す。


 心中、


「何が楽しいのやら」


 との感情だが、外面では、


「あなたに神の祝福がありますように」


 印を切って祝福の言葉を授けた。


 信徒は感動のあまり心身を振るわせている。


「それでは私はこれで」


 もういちど営業スマイルを浮かべてアイスは歩みを進める。


「猊下の勤労精神も大したものじゃの」


「不信心は極刑だからなぁ」


 ぼんやり思念チャット。


 それから宮殿の奥。


 司祭では入れない禁足地に踏み入る。


 教皇が居座る区域であり、足を踏み入れるのは枢機卿くらいだ。


 王族ですら教皇の許可無しには入ることの許されない領域。


 宗教国家であるため致し方なくはある。


 あまり広い区域では無いため、アイスはサクサクと進む。


「次は一体どんな厄介事じゃろうな」


 鬼一の方はむしろわくわくしていた。


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