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第115話:休むも何も何時もと変わらず11


 早朝。


 日課として木刀の素振りを繰り返すアイン。


 壁に立て掛けている鬼一の指導の下で剣術を練る。


 数千数万と型を肉体に刻みつける。


 全く怠らない……どころか中毒にすら見える熱心さだ。


「結局いつも通りねアインちゃん」


 井戸に水を汲みに来た祖母が嬉しそうに声をかける。


「もう慣れてます」


 アインとしても消化事項だ。


 剣だけで魔族を打ち倒す。


 そのための布石だ。


 無論、老夫婦の知るところではないが。


「今朝の食事はパンとチーズのスープで良かったかしら?」


「義母さんがお作りになるなら何でも」


「お上手ね」


「本心です」


 暖かい空気が流動する。


「きさんはほんに老夫婦が好きじゃの」


「師匠もだろ?」


「まぁの」


 基本的にアインの不遜は鬼一を真似たモノだ。


 師弟が似かよるのはしょうがないが敵を作って、


「だから何?」


 で済むのだからタチが悪い。


 特にすることもないため型稽古に腐心するアインだったが、


「アイン」


 と言葉ではなく思念で鬼一がアインを呼んだ。


「…………」


 沈思黙考。


 老夫婦はアインをインテリジェンスソードだと理解している。


 その上での思念言語。


 二人を憚る内容と言うことだ。


「何か?」


 素振りをしながらアインが問う。


「少し間が開きましたね猊下」


 ライトの声だった。


 猊下。


 要するにそっちの内容だ。


「何か?」


「教皇猊下が望んでおられます。であれば猊下に顔を見せていただければと謹んでお願い奉り候」


「レイヴの野郎」


 最後のは思念ではあるが言葉ではない。


 心中の愚痴だ。


「伝言は?」


「大変ですね、とのことです」


「性格が悪いにも程がある」


「猊下。滅多な事を仰いますな」


「悪かったよ」


 素振りを続けながら。


「それから鬼一様にも……」


「じゃろうのう」


 特に不自然でも無い。


「お手を煩わせて恐縮の限り」


「暇じゃし構わんよ」


 もっと言うなら、


「苦労するのはアインじゃしな」


 との結論。


「…………」


 面白くはないが事実の一側面だ。


 鬼一自身は魔術も使うし器用に世界にも干渉できるが、


「アインの剣」


 程度にしか働かない。


「自主性の尊重」


 と嘯いてはいるが、本当にそうなら苦労はない。


 根性のひん曲がった師匠有りきで今のアインがいるのだから。


「とりあえず昼に顔を出すとレイヴに伝えてくれ」


「承りました」


 そして思念チャットは途切れる。


「わはは」


 鬼一が笑った。


「よくよく縁があるの」


「まぁレイヴの手の上で踊ってはいるさ」


 仕方ない事情でもあるが。


 基本的にレイヴの魔術特性には逆らえない。


 ほとんど諦観に片足ツッコんでいるアインと鬼一だった。


 素振りを終えて井戸の水で汗を流す。


 禁術の訓練で水をお湯に変えて、である。


 さっぱりとして老夫婦と同じ席に着く。


 パンとスープ。


 それからサラダ。


 簡素ながら愛が籠もり、アインは舌鼓を打つ。


「申し訳ありません」


 とアインは言った。


 少し座を離れる、と。


「全くアインは」


 と義父が笑った。


「あまり無茶しちゃ駄目よ?」


 と義母は案じた。


 世話になっていた頃も教会の意向で出張することはあったのだ。


 老夫婦にも慣れたものだ。


「何をするかは聞かんが残念なくな」


「危ないことはしないでね」


 心を砕く老夫婦の心情がアインにとっては人間の温もりだ。


「まぁチョロッと使い倒されるだけですので」


 枢機卿。


 偏に教皇が望むのはアインのそんな側面だ。


「何じゃろの」


 とは思念での鬼一の言葉。


「碌でもないのは確かだ」


「じゃな」


 否定の余地も無い未来予知だった。


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