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第114話:休むも何も何時もと変わらず10


「国家共有魔術学院……」


「ええ」


 祖母の用意した夕餉……黒パンとタマネギのスープを味わいながらアインは自身の立ち位置を土産話にしていた。


「話に聞いたことはあるが……」


 神王皇帝四ヶ国。


 その運営する学園都市。


 大陸でも有数の学舎だ。


「しかしアインは魔術を使えんのじゃろ?」


 ごもっとも。


「アインちゃんはどうやって……」


 義母としても不思議らしい。


「クインの家督を継ぐに当たって愛人を用意されまして」


「まぁ」


 アインの愛人なら老夫婦にとっては義理の娘だ。


「ソイツから魔力を補填して貰って魔術師のふりをしています」


「なるほどのう」


「ついでに師匠にも」


「心底感謝するんじゃな」


 ダイニングテーブルに立てかけられている鬼一を蹴って倒す。


「暴力反対」


「じゃかあしい」


「師を立てんか」


「感謝はしている」


「その扱いがこれなのか?」


「やはり義母さんのオニオンスープは絶品ですね」


 軽やかにスルー。


「アインちゃんの口に合ったなら良かったわ」


 義母はまこと嬉しそうに破顔した。


 貴族扱いの堅苦しい食事より、麦酒に酔う義父と穏やかに笑う義母を肴に安穏とした素朴な食事の方がアインの心には刺さる。


「学院はどうじゃ」


「あったま悪い奴らばかりで」


 事実だ。


 どういう星の下かはアインも認識していない。


 が、ホモに迫られたり女装させられたり。


 視線が自然と天井を向く。


 オニオンスープを一口。


「大変そうじゃの」


「然程でも無かろうが」


 鬼一が茶々を入れる。


「勉強はついていけてるの?」


「まぁそれなりに」


 老夫婦の家に厄介になってはいるが、同時ソレは鬼一に厄介になっている時間とイコールで結べる。


「成績に関しては此奴を慮る必要は無かろうの」


「鬼の字さんがそう言うのならそうなのでしょうけど」


「アインは器用じゃからな」


「一応成績優良者にも選ばれとるじゃ。小生のおかげじゃな」


 ムフンと自負する鬼一。


 剣だが。


「夏期休暇中はどうするんじゃ?」


「色々とやることがありまして」


「ほう」


 と義父。


「とりあえず此処を拠点にさせては貰えませんか」


「構わんぞ。なぁ婆さん」


「ええ。アインちゃんが滞在するなら歓迎ですとも」


「小生は?」


「無論じゃ」


「鬼の字さんもゆっくりしていってね」


「むはは」


「ところで此処を拠点と言うことは、またフラリと姿を消すのか」


「場合によっては」


 あまりコレについては楽観論でいられないアイン。


 鬼一も似たような心境だろう。


「大丈夫じゃ」


 とこれは鬼一。


「アインには小生がおるからの」


「わしらの息子を宜しく頼む」


「承ろう」


 色々と通じている鬼一と義父らしい。


「アインちゃんも無理しちゃ駄目よ?」


「自重します」


 色んな意味で、


「不可能事」


 と割り切ってはいるが、老夫婦には頭が上がらないアインだ。


 余計な心配を課すのはこの際減点対象と言える。


「しかし本家も何を考えているのやら」


 一応親戚ではあれど、老夫婦はクイン家の端も端。


 あまり上下関係を意識してはいない。


 商都での親戚とは大した違いだ。


 アインの心象で言うのなら老夫婦の方が好ましい。


 言葉を選ばないなら、


「クイン家なぞどうでもいい」


 は先述した。


 剣術と禁術を磨き、老夫婦に恩を返す方がむしろ意義あるだろう。


 世の中は上手く行かないが、他者にゴマをするのが決定的に苦手なアインらしかった。


 ある種の義父は実父以上の父親の体現だ。


 母については義母しか知らない。


 幸せの一時。


 体に染みるオニオンスープを嚥下して、


「美味し」


 至福を噛みしめる。


 だいたい嵐の前の静けさ。


 だからこそ貴重で、何より代えがたい。


 食事が終わるとアインは風呂を勧められた。


「どうも」


 くすぐったそうに笑うアインの子心。


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