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第110話:休むも何も何時もと変わらず06


 寝室でのこと。


 アインは禁術の修練を積んでいた。


 たちどころに的を用意してその全てを消滅させる。


「きさんの冴えも底無しじゃの」


 師匠の鬼一は呆れ果てていた。


 元より器用の身だ。


 魔術の素質を持たない代わりに禁術の素質を持つ。


 鬼一に会わなければ開花しない才能だとしても、十六そこらで到る境地ではなかった。


 何も禁術に限った話ではない。


 剣術や一般的な教養に関しても同じ事が言える。


 無尽蔵に知識を吸収するスポンジ。


 なおアウトプットする器用さ。


 これで猊下と呼ばれていなければどれほどのことをやってのけるのか?


 鬼一の戦慄も致し方ない。


「半分くらいは師匠のせいだろ」


 サクリと皮肉る。


「とはいってもじゃのう」


 教皇猊下の懐刀。


 教義の体現にして神罰の代行師。


 縁あってカーディナルと呼ばれる身なのだから。


 幾度も代行師として過ごし、研磨された技術。


 その集大成だ。


 無論全ての因果は教皇と鬼一に依存する。


「むぅ」


 と鬼一。


「感謝はしてる」


 アインにしてみれば苦笑を誘う。


 少なくとも倉庫で泣いていた頃のアインではもはや無い。


 あらゆる意味で、摩耗しきっていた。


「そっちでは……あーと……」


「?」


「袖擦り合うも……っていうんだろう?」


「じゃな」


 肯定。


 元より鬼一は無間地獄の住人だ。


 人の業を楽しむのは酒の肴に丁度良い。


「何でインテリジェンスソード?」


 とはアインの長らくの疑問だが明瞭な回答は得られていない。


 とはいえ、


「仮に師匠がそのまま異世界に顕現すると……」


 そう思うと震えた。


 今でさえ規格外だ。


 リリィの魔術もある種突き抜けているが、比べることさえおこがましい。


 口幅ったいともいう。


「師匠の魔術で魔術師にはなれんのか?」


「得物に依存するなと口を酸っぱくして言っておろう」


「しかりだな」


 それについての異論は無い。


 剣術についても同じだ。


 達人は得物を選ばない。


 戦いの駆け引きは剣術にしろ禁術にしろ独自のルールで運営される。


 であれば鬼一の魔術に頼り切っては勘が鈍るのも必然だ。


 この際自分自身にだけスポットライトを当てたとしても、


「一人で生き抜く力」


 それをこそアインは求めているのだから。


「きさんが何を思うかまでは干渉せんがの」


「感謝はしてる」


「殊勝で結構」


「はっはっは」


 感情なく笑う。


 それは皮肉の一つも言いたくなる。


「…………」


 空中に浮遊する的を作り出す。


 マジックトリガーはない。


 禁術の訓練。


 表では魔術の訓練をしているため、尚更禁術の勘を維持しなければならない。


「業じゃの」


 鬼一は言う。


「慣れたもんだ」


 アインは嘆息。


 嘆息してばっかりな気が当人にもする。


 さて、


 動く的を空間座標で把握。


 視線で確認して対象に干渉。


 ボッと燃えた。


 次の瞬間鎮火し、氷となる。


 浮遊する氷を斥力で操って手元へ。


 紅茶の入った水筒に。


 冷却の手段とする。


 それから冷えた紅茶をカップに注いで飲むのだった。


 キンと冷えている。


 暑い時分には福音だ。


「これで食っていけないかね?」


「中々の」


 こと事象の停滞に於いては魔術より禁術に一日の長がある。


 今更ではあるが。


「しばらくは屋敷かの」


「いや」


 否定。


「明日にも義父と義母に会いに行く」


「早いの」


「ここで父親の皮肉を聞いたところで一銭も得をしないからな」


 事実だ。


「それもそうじゃの」


 鬼一とて最終的にはアインの味方であるため反論もない。


「久方ぶりの帰郷じゃの」


 実際に心の故郷はそちらにある。


 心が弾むのはアインの少年らしさの証左と言えよう。


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