第11話:国家共有魔術学院04
午前中の講義が終わり昼食の時間となった。
「どうするね?」
アインがリリィに聞く。
「私はアイン様のご希望に添います」
「じゃあ学食を利用してみよう」
「仰せのままに」
そして二人は学食に顔を出した。
とは言っても魔術学院は学院敷地内だけでも相当に広いため、学食は複数存在する。
とりあえず手近な食堂に入って料理を注文。
アインはピッツァを、リリィはグラタンをそれぞれ頼んだ。
ちなみに無料で利用できる。
二人して席に腰を落ち着けると、視線が気になった。
遠巻きに見やる衆人環視。
それは学院に在籍してから顕著ではあったが、学食で人が密集するとさらに酷くなる。
アインにしろリリィにしろ魅力的なのだ。
アインは黒髪黒眼の隔世遺伝。
顔の造りは母親似で年齢相応に愛らしい。
とは言っても、
「美貌」
と言うより、
「ちょっと格好いい男の子」
と言った印象だ。
学ランを着ているため色としては完全に浮いており、なお漆黒の鞘に収められた和刀が周囲を威嚇している。
帯刀は合法だ。
元々攻性魔術の研究が盛んであるため学院は武器の持ち込みを許可している。
魔術戦闘の補佐やマジックアイテムとしての所持には寛容なのである。
「魔術を基本として近接戦闘で和刀を使う」
と口頭で述べただけで書類も無しに許可が下りた。
そんな真っ黒な男の子と食事をとっているのは金髪碧眼の美少女。
こちらはまさに美少女だ。
神懸かった美貌を持つ。
服装は光沢のある生地は使われているが、デザイン自体は質素なものだ。
それがまた謙虚さと誠実さをアピールしていると当人は気づいていない。
平民の出であるため当人は恐縮しているが、玉は石と混じっても価値を損なわない。
なお先日入学したばかりなのでノーマークだったという事情もある。
「あの……アイン様……」
「なに?」
「何か注目を集めてませんか?」
「リリィは可愛いからな」
あっさり言ってのけた。
「あう……」
赤面してグラタンを救って食べたスプーンを囓るリリィだった。
「悪党」
「黙らっしゃい」
思念でやりとりするアインと鬼一。
「アイン様も格好良いですよ?」
「恐縮だな」
淡々とピッツァを食べるアインだった。
狼狽えもしない。
そこに、
「あら、可愛い子」
そんな女性の声が降ってきた。
アインはそちらをチラと見て、興味を持たず食事に戻った。
リリィは、
「あう……」
と引け腰だ。
燈色の髪の美少女だ。
リリィほど神懸かってはいないものの垢抜けていて派手。
服装はドレスで自負を感じさせる。
自意識過剰なのだろうか。
そんなことさえアインは思った。
「黒髪黒眼ってことはサウス王国出身?」
どうやら、
「可愛い子」
の言葉はリリィではなくアインに向かってかけられたらしい。
さすがにその程度は察せる。
「残念」
と無愛想にアイン。
「隣、いいかしら?」
「どうぞ」
リリィはアインの対面だ。
カルボナーラを机において馴れ馴れしくアインの隣に座る少女。
「名は?」
「アイン。こっちはリリィ」
「アインね。見ない顔だけど」
「最近十六になったばかりでな」
つまり新入生というわけだ。
「リリィとはどんな関係?」
「主人と従者」
「へぇ」
「それで? そっちの名は?」
「アンネって云うの。今覚えて」
「先輩と呼ばせて貰う」
「名前で呼んでほしいな」
「なら名前で呼んでくれる人間を探せ」
ピッツァをアグリ。
「あれぇ?」
不思議そうにアンネは云う。
「私に惚れないの?」
「間に合ってる」
アインはけんもほろろだった。
「誰か好きな人でも?」
「ハードボイルドってだけだ」
呼吸するように嘘を吐く。
「可愛い顔には似合わないよ?」
「知ってる」
ピッツァをアグリ。
「実際の所どうよ?」
「さあてのう」
思念で会話するアインと鬼一だったが、いきなり話しかけられたアンネに対しては距離感を掴めないでいる。