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第108話:休むも何も何時もと変わらず04


 翌日。


 当主のクインに呼ばれるアインだった。


「どうも」


 屋敷の主室でのことだ。


 アインの隣にはリリィが座っている。


「中々上手くやっているようだな」


 実父……クインの言は皮肉から始まった。


「まぁそれなりに」


 アインとしては機嫌を気にする柄でもない。


「リリィを抱いていないのだろう?」


「だな」


 振る舞われたチョコレートを飲みながら。


「別段正室ではないのだから気にすることもあるまい?」


「正室の候補はお有りで?」


「クイン家とも為れば選ぶ立場ではある」


「でっか」


 特に喜ぶところでもない。


 貴族主義。


 クインの精神の有り様だ。


 愛人のリリィとは別に魔術師の正室を以て正当なクイン家直系の魔術師を造る……というのはメンツ商売としてわからないでもないが。


 アインにしてみれば、


「勝手にしろ」


 相応だ。


 が、クインは本気だ。


 貴族として愛人を抱えるのは当然で、その上でクインは多数の愛人を持っている。


 自身の領地に住まわせ、魔術師の種をばらまいて一種の発言力の根底と為しているのも事実と言えば事実。


 何も直系だけではない。


 愛人の子も魔術の素養を受け継げば、クイン家の武力の大元となるのだ。


 当然貴族としての発言力も増す。


 アインは不幸にもクイン家の直系に生まれてしまったため跡継ぎに目されているが、単純に、


「魔術の素養」


 で言えば傍系の子どもが一家言を持つ。


 単に正室の子でないため発言力を持たないだけで、その気になれば自在に魔術を使えるのだ。


 アインとしては特に気にもしないが。


 アインの自負はそことは別の座標に存在する。


「何でも成績優秀者に選ばれたらしいな」


 クインの声は浮ついていた。


「特に」


 弁論にも値しない。


「無能なりにやるではないか」


「まぁあれくらいはな」


 ぼんやり。


「魔術の方はどうだ」


「中々ね」


 どうしても会話をする気が無いらしい。


「まぁそうでなければ困るのだが」


「はあ」


 チョコレートを飲む。


「休暇の間はこっちにいるのか?」


「いや、義父さんと義母さんに顔を見せる」


「む」


 すっとクインの目が細められた。


 面白くない。


 そう眼光が語っている。


 アインの知ったこっちゃないが。


「貴族としての自覚はあるのか?」


「ねぇな」


 それについては今更だ。


「今更老体の機嫌を伺ってどうする?」


「育ての親だしな」


 クインより優先。


 その通りではある。


「私に大恩があろう」


「何が?」


 侮蔑の意は隠しきれなかった。


 そもそもにおいて、


「魔術を使えないから」


 と言って翁と媼のところへ放逐したのが実父……クインだ。


 愚兄のツケで実家の相続権を受け継いだとはいえ、


「だから何?」


 以上の感情をアインは持っていない。


「別段クイン家が滅んでも世界にとっては些事だろ」


「貴様!」


「…………」


 怒号しようとしたクインは、


「……っ!」


 息を呑んだ。


 素早く抜かれた和刀が首に突きつけられたためだ。


「何か?」


 威力交渉。


 アインの十八番である。


「クイン家の直系が義務を蔑ろにする気か?」


「期待するのはそっちの勝手だが、応える義務もないな」


 いっそ無情な言葉。


 貴族の誇り。


 貴族の矜持。


 それらを、


「へぇ」


 で済ませるアイン。


 ある意味でノース神国に於ける最高顧問の肩書きは得ているが此処で話すことでもない。


「恨むなら俺じゃなくて自滅した愚兄たちにな」


 爽やかに言って鬼一を鞘に収める。


 チンと鞘が謳った。


「む……ぐ……」


 クインとしても劣等生のアインの不遜は許しがたいだろうが直系の子孫がアインしかいないため反論に窮する。


 アインはすまし顔でチョコレートを飲むのだった。


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