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第107話:休むも何も何時もと変わらず03


 神都。


 ノース神国の首都だ。


 王族や貴族が屋敷を構える場所で、なお教皇の座も此処にある。


 この世界に於ける普遍の概念、


『唯一神教』


 の聖地であり、根幹でもある。


 こと政争関係において、


「絶対不可侵」


 を旨とされ、戦争と縁が無い国でもあった。


 コレについては偏に教皇の威光なのだが。


 あらゆる国から教皇や枢機卿の祝福を受けたい人間が訪れるため神都の市場は流動性が高く、経済的発展も自然と言える。


 その神都には教皇の認める貴族の血統もあり、アインはコレに分類される。


 クイン家。


 当国指折りの大貴族であるため広い屋敷を持つ。


 久方ぶりにそこへと帰ってきたが、


「趣味の悪い……」


 特に感銘しないのもアインらしい。


「あう……」


 とリリィは気後れしていた。


 そんなリリィの頭をポンポンと叩いてアインは屋敷に入る。


「アイン様。お帰りなさいませ」


 執事が慇懃に礼をする。


「とりあえずチョコレート。俺の部屋まで」


 サクッと指示を出してアインは屋敷の自室に直行した。


 リリィの方はアインの実父……クインに挨拶へと向かう。


「いいのかのう?」


「何がだ?」


 鬼一の危惧に疑念のアイン。


「きさんが当主に顔を出さんなくて」


「そこまでサービス精神旺盛にはなれんな」


 ハッと笑って鬼一を椅子に立てかける。


「きさんも損な性格じゃの」


「師匠に言われても」


「然りじゃ」


 呵々大笑。


 メイドに振る舞われたチョコを飲みながら禁術で室内の気温を下げる。


「腕は落ちておらんの」


「叩き込まれたからなぁ」


 こと禁術の精度に於いては特級だ。


 もっとも禁術の素養を持つのがアインの知る限り自身しかいないため誰それと比べることも出来ない事情もある。


「…………」


 無言で禁術を扱う。


 呪文の類は必要としない。


 一応、世間体として文言を用いる禁術もあるが、下手に放てば屋敷が吹っ飛ぶ。


 訓練として扱う禁術程度なら呪文いらずだ。


 結果、アインの手の平から炎が生まれる。


 それは身体を伸ばして蛇となり、体をくねらせる。


 炎の蛇は、しかし熱を周囲に発散しなかった。


 相も変わらず室内は涼やかだ。


 別に熱放射が出来ないわけではない。


 単純に暑いことをアインが嫌ったがための調整だ。


 炎の蛇は圧縮されて人魂のような炎になると、今度は人型を取った。


 それを自在に動かした後に鎮火する。


「どんなもんだ?」


「今更じゃの」


 師弟の阿吽だ。


「ふむ」


 チョコを飲む。


「それならいいか」


 程度は言う。


 禁術の精度そのものはアインにとっての生命線だ。


 厄介事を引き寄せる力ではあるが、それはそれとして修練を怠れない技術。


 その気になれば世界を滅ぼせる。


 とはいえカウンターの存在もあるため中々上手くもいかないのだが。


「夏期休暇中は屋敷で駄弁るのかや?」


 鬼一が問う。


「義父と義母の処に顔を出す予定だ」


「なるほどじゃのう」


 鬼一としても他人事ではない。


「翁と媼も心配はしているじゃろうしな」


「そゆこと」


 アインも頷く。


 チョコを飲んで吐息。


「宮廷魔術師はどうするつもりじゃ?」


「レイヴと話す必要があるな」


「望まんじゃろう」


「ではあるな」


 そこに異論は無い。


「であれば」


 嘆息。


「責任は未来に押し付けよう」


「どうせ何某かは起きるしのう」


「予言か?」


「事実じゃ」


 顔をしかめるアイン。


 チョコレートより苦い鬼一の言葉だった。


「世界平和はどうすればいいかね」


「ローズオブラウンドを滅却しやれ」


「とは言ってもなぁ」


 アインはそこまで関知しない。


 それは鬼一もそうだろう。


 魔族。


 人間に対するアンチテーゼ。


「あいつらも何考えてんだか……」


 ケイオス派の件もある。


 色々と思考の泥沼にはまる。


 別段気が滅入るほど悩む案件では無いが、


「やれやれ」


 チョコのほろ苦さ程度には苦しめる。


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