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第104話:学院祭ときどきイビルパニック21


 アインは研究室……その教授室をノックした。


「どうぞ」


 そんな言葉に応えて、


「失礼します」


 と丁寧に言葉を繕って入室する。


 アインが入ったことのある教授室だ。


 アインとリリィを運営委員に選んだ教授……、


「エルザ教授」


 その部屋であった。


「何か用でも?」


「無ければ来たりしねえよ」


 アインは皮肉気だ。


「とりあえず何か飲みますか?」


「チョコレート」


 不遜に言ってのける。


「砂糖は?」


「いらね」


「そうですか」


 サクリと言ってエルザ教授は水を魔術で沸騰させてチョコレートを淹れる。


 二人分だ。


 そしてアインに振る舞って自身はデスクワークに従事する。


「肝が太いなお前は」


 アインは苦笑いをした。


「恐縮です」


 エルザ教授はそう言った。


 アインはチョコレートを一口。


 カチンとカップを受け皿にぶつけて、


「さて」


 と言う。


「何か弁明は?」


「何に対して?」


「ソルトの魔族契約に対して……だ」


「何故私だと?」


「消去法だ」


 アインはそう言った。


 正確ではない。


 アイスがソルトから直接聞いたのがこの際のアドバンテージだ。


「召喚魔術の権威……エルザ教授が魔族を召喚してソルトと契約させた。これが一番自然だろう?」


「そうですね」


 エルザも中々のモノだった。


「何でケイオス派を作った?」


「懇願されたからです」


 エルザはサクリと認めた。


「懇願?」


「ソルトは言いました」


 チョコレートを飲みながら。


「『シャウト様はこんな俺でも愛してくださった』……と。『シャウト様の行方不明がアインに関係しているのなら復讐したい』……と」


「それに応じたのか?」


「まさしく」


 特に誤魔化す気も無いらしい。


 エルザ教授の言は真摯の一言だった。


「それがケイオス派を生み出すこと……引いては血を流すことに繋がってもか?」


 追求するアインに、


「真摯な愛を感じさせるものでしたから」


 エルザ教授は心の底からの感情をぶつけた。


 アインとて怯む。


「正気か?」


「そうは言いますけど……」


 エルザ教授は書類を処理しながら言う。


「人が人を愛するが故に人を憎むのは美しいと感じませんか?」


 まるで、


「当たり前だろう」


 とでも言外に表明する言葉だった。


 人を愛するが故に別の人を憎む。


 その心の在り方をエルザ教授は至高かつ希少だと云う。


 たしかにシャウトを退場させたのはアインである。


 シャウトの表向きの言動とアインの無下をイコールで結べば真相には簡単に辿り着く。


「それでソルトに魔族という力を与えたのか?」


「はい」


 特筆すべき事でも無い。


 エルザ教授はそう言った。


「私は罰せられるのでしょうか?」


 錆色の瞳に気負いはなかった。


「別にギロチン刑でも問題は無い」


 双眸がそう語っている。


「俺は一介の生徒だ。そんな権限はねえよ」


 アインは肩をすくめる。


 実際は枢機卿で代行師だがここでバラすことは得策ではなかった。


「罰しないのですか?」


「そのつもりなら審問官を連れてくるさ」


「……そうですね」


 エルザ教授も納得はしたらしい。


「――前鬼戦斧――」


 アインは呪文を唱えた。


 禁術。


 本来呪文は必要ないがはったりとしての効果はある。


 強大な斬撃がエルザ研究室をぶった切った。


「ほう……」


 とエルザ教授。


「素晴らしい魔術ですね」


 禁術なのだが。


「次に面倒事を起こしたらコレをくらわせる」


「ええ、承知しました。生徒アインを敵に回したくはありませんし」


「しかして純粋な愛には感応するんだろう?」


「ええ。人の望むことを叶えるのが召喚魔術の本質なれば」


「ま、ほどほどにな」


「てっきり教会に報告するモノかと……」


「教授に罪はないだろ?」


「でしょうか?」


 エルザ教授は首を傾げた。


「アインはソルトの召喚した魔族に襲われたはずですが……」


「それはそれだけのことだ」


「懐が深いんですね」


「それとはまた違うが……」


 アインは人差し指で頬を掻いた。


「とにかく」


 と軌道修正。


「別段禁止するわけではないがケイオス派の量産は自重してくれれば助かる」


「場合によっては?」


「極刑」


「では気をつけましょう」


「そうして貰うと助かる」


「結局ソルトは復讐を果たせなかったのですね」


「ま、それも人生だろ」


「その愛を覚えているのは私とあなただけですか」


「できれば忘れたいが」


「純情は何より優先すべきです」


「云いたいことは分かるがな」


 アインは嘆息してチョコレートを飲んだ。


 口内に苦みが広がる。


 それは後ろめたさの具現のようにも思えた。


 無論……アインの感傷には相違ないのだが。


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