第101話:学院祭ときどきイビルパニック18
濃霧を生み出す魔術である。
視界を奪い、アイスの特級戦力を封じる作戦である。
「参ったな」
別段禁術で濃霧を消すことは出来るが、その場合濃霧に取り込まれた全てを消滅させることになりかねない。
「ケイオス派も馬鹿一辺倒では無いんだな……」
とはいえ心眼を使えば視覚に頼る必要も無い。
鬼一に聞いて此度の根幹……即ちソルトの居場所を聞くと、
「審問官たちよ! 教会の威光と意地を見せよ!」
枢機卿として士気を上げ、
「っ!」
ソルト目掛けて一直線に奔った。
その速度はまるで疾風。
濃霧の中にあって、なお地理を把握することはアイスには造作も無かった。
「――フレイムレイン――」
直訳して炎の雨。
ケイオス派の一人が無差別に戦術級魔術を行使する。
視界が塞がれており、尚遠慮の必要が無いための戦術だろう。
アイスも把握していないため禁術の適応が出来ない。
自身に向けられた炎はレジデントコーピングでどうにでもなるが、逆説的にそれ以外はどうにもならない。
「南無三」
アイスは十字を切った。
溢れる魔族を切っては捨て切っては捨て。
そしてアイスは鬼一の導きの下、
「よう」
ソルトの前に立った。
濃霧の中でも視界で捉えられる距離だ。
「アイス卿か……」
ソルトはそう言った。
「ああ」
アイスも気後れせず答える。
「よくもやってくれたな」
「こっちの台詞だ」
少なくとも理はアイスの方にある。
アイスが脱力するのも無理はない。
「この人間の願いはアインと呼ばれる青年への復讐だ」
まさか、
「そのアインが目の前に居る」
とはケイオス派も思ってはいないだろう。
「誰の仕業だ?」
「私だが?」
「お前を召喚したのが誰だって聞いてんだよ」
アイスにしてみればそれが肝要だ。
ソルトは一人の名を出した。
「理由は?」
「知らぬ」
嘘の気配は感じられない。
であれば、
「その通りなのだろう」
とアイスが納得するのも自然だった。
「とりあえず代行師として処置を下すぞ」
ユラリと脱力するアイス。
同時に、
「馬鹿が! 私の能力を忘れたか!」
四方八方から魔族が襲いかかってきた。
視界に入らない濃霧からの全周囲襲撃。
確実に殺せる一手。
が、
「やれやれ」
アイスは更にその上を行った。
濃霧から襲いかかった魔族十匹。
全て鬼一法眼の錆となる。
「何者だ貴様!」
ソルトの肉体を乗っ取っている魔族が狼狽した。
「お前ら魔族の天敵だよ」
サラリと口にするアイス。
「代行師……といえば分かるか?」
「神の御使いか……!」
「そうだとも」
「信じているのか?」
「今更だな」
答えにはなっていない。
だがアイスにはソレで良かった。
「ちぃ……!」
さらに魔族を召喚するソルト。
だが幾ら召喚してもアイスには届かない。
「魔族の無尽蔵召喚」
場合によっては一国すら落とせる破格の戦力であるのに、その悉くが代行師には通用しない。
鼻歌交じりに切り滅ぼされる。
「代行師」
神威の代行。
神罰の執行。
神信の現行。
ことケイオス派にとってこれほどの恐怖はない。
そう思わせるアイスの戦力であった。
「手品の種は尽きたか?」
アイスは既に和刀の間合いに入っていた。
「――ストライクウィンド――」
ソルトを乗っ取った魔族が魔術を行使するも顕現はしなかった。
既に視界に入っているため禁術の対象だ。
「ま、安心しろ」
アインはさも平然と言う。
ソルトの双眸を和刀で切り裂いて。
「殺しゃしない」
「がああああああああっ!」
痛みに悶えるソルト。
「それこそお前が敬虔な信徒に与えた痛みだ」
人格者のようなことを言ってのけて、アイスは魔族の襲撃を収めるのだった。




