【番外編】ユリウスだってブラッシングしたい。
Merry Christmas!
ユリウスは、宰相子息として厳しいが子煩悩な父と優しい母の元に産まれた。
一人息子で可愛らしいユリウスは、両親の癒しだったらしく、毎日両親にブラッシングされて甘やかされて育った。
しかし、ユリウスは、可愛がられることに疲れはてていた。兄弟が欲しい。兄弟を思いっきり可愛がりたい。
毎日モフりたおされるのはもう嫌だ。モフりたい。
そんな彼は、五歳にしてクロード殿下のご学友の選出メンバーに選ばれだ。
両親に施された英才教育。珍しい銀狼であり、毎日手入れされた美しい毛並み。
僕以上の逸材はいないに違いない。
そう思い、迎えたお茶会の日。
耳無しとバカにしていたクロード殿下は、ヤバい傑物だった。倒れそうになるのをなんとか抑えるので精一杯だった。僕と一緒になんとか立っていた毛並みと目付きの悪い奴だけがご学友に選ばれた。
もうその頃には僕の自尊心は粉々だったけど。
人には全く敵わない何かがあるとわかった五歳。
貴重な体験だった。
クロード殿下は、アンドレアが側にいると、雰囲気が柔らかくなって近寄りやすくなった。アンドレア様々だ。
クロード殿下は、アンドレアのブラッシングを日に三回していた。
そして、番持ちの大人がよくやるように、ポケットに櫛を差していた。アンドレアの白い毛がポケットに微かについている。これは、獣人社会での最大のマウント。
『俺にはブラッシングできる番がいるんだぜ。』にちがいない。父も、毎日わざわざ母をブラッシングしてから、その櫛をポケットにいれて出勤してるくらいだ。
羨ましい。あんなに可愛い真っ白な虎耳を思う存分モフれるなんて。
ひたり
威圧を感じた。
ああ。危険思想を察知されたらしい。
クロード殿下が怖い。怖すぎる。
ユリウスは、危険思想から逃れるため、目の前にいるエドワードに目を向けた。
アンドレアの事を考えてはいけない。
それは五歳のユリウスが身につけた処世術だった。
エドワードはやんちゃだが、同じ年なのに身体は若干ちいさく彼の毛並みは乱れきっている。
短毛種である黒豹でなければ、もつれてしまって大変な事になっただろう。
誰か、ブラッシングしてやればいいのに。
ふと、自分のポケットに目を落とした。父にねだって買って貰ったブラシが目についた。
そうだ。あいつをモフろう。
あれだけ乱れているんだ、口実に事欠かない。
体術では負けるが、口では負けたことがない。
丸め込める、丸め込もう。
クロード殿下がブラッシングに使う昼休憩。
僕は今気付いたかのようにエドワードに声をかけた。
「エドワード、毛並みが乱れてるぞ。」
エドワードが目を伏せた。こいつ気にしてたのか?
なんか可愛いじゃないか。
「ブラッシングしてあげるから、こっちにおいで。」
出来るだけ優しく言ってみた。
とてとてとエドワードがやってきた。
可愛いじゃないか。
体術の授業の時の敏捷さと打って変わった愛らしさに胸がいっぱいになる。
僕は弟が欲しかったんだ。
僕の膝に頭を素直に乗せて寝そべったエドワードの耳を撫でる。
気持ち良さげにゴロゴロと喉を鳴らし、目を細めるエドワードが可愛い。
そうか、気持ち良いか。
エドワードの乱れきったしっぽの毛並みがだんだん綺麗になっていく。
毛足の短いベルベットの用な上質な毛皮が気持ちいい。しっぽが絡み付いてくる。
充実感が僕を充たしていった。
クロード殿下の視線が僕のポケットの櫛を見つめ、にやりと笑った。同志になった気分だった。




