卒業
速いもので、リフトリア皇国に来て一年になる。
今日はアカデミーの卒業パーティーだ。
なんとか四人全員単位がとれた。
一年で単位を取ると宣言したものの、流石は最高峰の教育機関。
その道のりは厳しかった。
エドワードなんて、死んだ目をしていた。
パーティーは格式張らなくて、賑やかで楽しい。
アカデミーの自由な雰囲気に合っていて、心地いい。
首席はユリウスを抑えてクロード殿下。
次席に甘んじたユリウスはめちゃくちゃ悔しそうだ。
この一年でますます凄みを増した美しい顔をしかめた。
「殿下は、1日三回もブラッシングに時間を費やしていたのに。」
恥ずかしいから、止めて…。
「アンドレアのブラッシングは、私の至福のひとときだからな。頑張る原動力だ。ユリウスは、エドワードの勉強を見るハンデがあったじゃないか。」
「エドががんばって成績をあげていくのが、わたしの至福です!ハンデなんかじゃない。」
「お前ら論点ずれてるぞ。」
エドワードはさらに男らしさに磨きがかかって、カッコいい。周りの令嬢がチラチラと見ている。
ユリウスが、そんなエドワードの袖をひく。
周りからキャーっと令嬢達の黄色い歓声があがった。
ふたりの人気がすごい。
「エド、あっちに美味しいお肉あるみたいだよ。クロード殿下達なんて放って、お肉食べに行こう。」
ユリウスは、ゲームで主人公に勉強を教える度に好感度が上がるキャラだった。
主人公の点数があがると、好感度が爆上がりする。
そして、給餌行動もあるおかんキャラだ。
対して、エドワードは主人公レンから、お弁当をわけてもらうなど、胃袋を掴まれると弱いタイプ。性格が正反対でお互いをライバル視していてあんなに仲が悪かったのに…。
リフトリア皇国での一年は私達4人にとって楽しい日々だった。
この国を離れたくないな。
「アンドレア、少し庭を散策しないか?」
クロード殿下が綺麗に結い上げてくれた髪は、わざとひと筋の後れ毛を残してある。
クロード殿下はその私の後れ毛に指に絡めながら誘ってきた。
予期せぬ接触に顔が赤くなる。
入り組んだ庭園の奥で、クロード殿下は足を止めた。
私の前で、膝をつく。
まるで騎士の求愛の礼のようだ。
「アンドレア、私の運命の番。私の伴侶になって貰えませんか?」
運命の番って、認識してくれたんだ。
心の奥底から、喜びが沸き上がってくる。
ゲームでのクロード殿下は、最期までアンドレアを運命の番と認識してくれなかった筈だ。
そして、運命の番だと必死で訴えるアンドレアを嘘つき呼ばわりするのだ。
わかってくれた。
たとえこれから主人公レンが現れて、ゲームの強制力で嫌われて喰われる羽目になったとしても、本望だ。
だから、クロード殿下の手を取った。
私はこの手をもう絶対に離さない。
「私だけを愛してくれますか?」
「もちろん。私の愛の証として、この鱗を捧げる。」
クロード殿下が、喉元を指し示した。
喉元に金色の鱗が一枚顕れた。逆鱗だ。
竜は自らの伴侶に逆鱗を与える。
逆鱗は生涯ただ一枚しか持たない貴重なものだ。
逆鱗を持つ者には逆らえないし、危害も加えられない。
それは、即ち自らの生殺与奪の権利を委ねる重要な決断となる。
ゲームで主人公レンに捧げた愛の証。それが逆鱗だ。
痛いんじゃないかな?
ゲームでは全然抜けなくて、抜いた後、一週間クロード殿下は高熱を出して寝込んでた筈。
そっとその喉元のキラキラ光る逆鱗に触れる。
それは自ら意思を持ったように、するりと形をかえながら私の指に絡み付き指輪へと変化した。
へ?取れた?指輪になった?
「婚姻成立だな。」
クロード殿下に抱き上げられ、パーティー会場の一画で婚姻証明書を受け取った。
アカデミーの卒業式にはひとつの伝統がある。
愛を誓って指輪を贈り、相手が受け取れば婚姻が成立するのだ。
そして、その誓いは何人たりとも破ることは許されない。
これは、国際交流が盛んなアカデミーで国や種族の違いから結ばれないカップルを救う為に作られた伝統といわれている。
婚約は回避したけど、婚姻は回避できなかったので、愛する推しの隣で幸せになることに決めました。
これからは、煩悩と本能に忠実に生きます。
了
長らくお読みいただきありがとうございました。
これから不定期に番外編を更新していきたいと思います。主人公レンはどうなったのか?クロード視点の後日談などもそちらで書いていこうと思っています。また、読んでいただけたら嬉しいです。
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