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六話 麓の街-龍江-

 朝日が登り目が覚める。この身体になってから規則正しく気持ちよく起きられてる気する。アイちゃん目覚ましもあるけども、それに今日も頼らずに起きれた。


「おはよう御座います。水を汲んできたので顔を洗うのにどうぞ。」


 横に誰も居ないなと思っていたら、もう起きて居たらしい朱願凜は水桶を持ってやってきた。もう昨日からつくされっぱなしだ。この行為を突っぱねるのもアレなので有り難く使わせてもらう。

 本当、この主人公とどうやって許思浩は敵同士なり、最終的に殺意を抱かれる仲になったのやら。

 ふっ、とそんな事を思えばそう言えば王芳の憑依したキャラは朱願凜の同期で愛称で呼ぶ程に仲良し設定なのに近くに居ないのだなと不思議に思う。


「阿願、言われた物を持ってきたわ。昨日から少し人使いが荒いんじゃないかしら?」


 噂をすれば何とやらと言うのは何度目だ?もうこの世界って考えたら思い人が来てくれるの?それだったら幾らでも祈ろじゃない。

 思わず、今し方思い出した王芳がやってきた事で2度ある事は3度目あるとは正直とはよく言ったものだと感心する。

 彼…まぁ、中身が彼だから彼と呼ぶけど、彼はお盆に食事を三人前持って現れる。登場の言い分からして昨日から朱願凜に何やら頼まれて色々やって居たから私は見掛けなかっただけの様だ。


「助かるよ、阿蝶。今日は給餌の手伝いは平気なの?」


「昨日、貴方と先輩達に散々こき使われたのよ。別の人に任せたに決まってるじゃない。」


「君が居てくれて僕は本当助かったよ。」


「もー!調子がいいんだから!…冷静歌君も身を任せてるだげじゃなく自分で何とかしてくださいよね!」


 そう言って王芳は器をズイッと渡す。側面には紙が貼られて居て恐らく、この間は中途半端で会話が終わったからそれに関係の内容の手紙を気を遣って書いてくれたのだろう。後でこっそり見るとしよう。


 “ありがとう。“


「……ふん、お礼なんていいです。…それより、阿願。昨日は本当に驚いたんだからね!なんでいきなり冷静歌君と同伴なんて…あの清酒劍士に喧嘩売る様にしてまで申し出たのよ。」


「んー、先に同伴を提案したからかな。それに胡師兄と乗るくらいならとあの荷馬車に乗ってしまいそうだったから、心配で。」


 うはっ…!!本当、この主人公光属性だわ…。そんな事を心配してくれるし、言ったことを曲げないとか…さすが主人公。私としては正直どうして良いかわからないし、相変わらず違和感のあるモヤモヤするからって私めっちゃ態度悪いのに……このナチュラルに善行をしてしまう性格。私の余裕の無さが恥ずかしいわ。


「あ、師兄!申し訳ありません。煩かったですよね。お前ここで食べるならもう黙って食べてろ。師兄に迷惑だ。」


 どうやら私は結構険しい顔をしてしまったらしく、彼に謝らせてしまった。だからと言って食事中に筆を取るのも端ないと思いそのまま食事をするしか選択肢はなかった。

 黙々と食事を終え食器を王芳が回収して、朱願凜は馬を迎えに離れた。

 今のうちに王芳からの手紙を読んでしまおうと開くとそこには英語で書いてあった。


 アイちゃん、これ翻訳お願いします!


【かしこまりました。スキャン中。翻訳完了しました。別ウィンドウにて表示します。】


【綾咲へ

 原作中の鬼姫編に付いての大まかな流れを箇条書きにした。


 ・下山中は許思浩と胡悠天が馬に同伴で乗って許思浩は歌を歌いながら下山していた

 ・麓の街に付き師尊と胡悠天と補佐には今回の依頼主の元へ

 ・それ以外は情報取集も兼ねて自由時間になり主人公と李梦蝶は市場に出る(その時の許思浩の行動は不明)

 ・夜には夜狩が始まる

 ・許思浩だけが一人で行動して居たのを主人公は不思議に思い追い掛ける(この時の許思浩の行動理由は謎)

 ・しばらく先の橋付近にたどり着くと歌が聞こえる

 ・その橋には鬼姫と許思浩が居る

 ・鬼姫は主人公を見るとそのまま姿を消して残るのは許思浩と数多の凶屍

 ・許思浩はその中で剣を握るだけで立ってるだけ

 ・凶屍を倒した後に主人公が問い詰めるも許思浩は黙秘

 ・そのまま許思浩は楊師尊に連れらる

 ・依頼は胡悠天が活躍して解決した為に帰る事になる

 ・鬼姫編はここで終わり、詩白龍派の本拠地に帰る


 追記:許思浩がどうしてそう言った行動していたかは不明なので注意を、それとかなり主人公の動向が原作と異なる故にこの通りに進まない可能性があるので注意されたし。

 王芳】


 彼は何かと真面目な性格な様だとこの手紙を見て感心する。有り難い協力者が味方に付いて本当有り難い。

 しかし、許思浩よ!お前はどうしてそんなに行動が謎なんだ…。


「師兄、お待たせしました。お手をどうぞ。」


 頭を悩ませていれば朱願凜が戻って来た。こうして馬に乗って朝日を浴びて手を伸ばす姿は一枚のイベントスチルの様だ。昨日はそんなのあの険悪ムードの中で乗ったから気にも出来なかったがこれは本当に目の毒だ。

 私がその一枚の絵の様な美しさに固まってると「師兄?」と首を傾げて尋ねるもんだから本当に。

 私は意を決してその手をとって馬の莉莉に跨る。


「…馬の核には麓の街の龍江(ロンコウ)に着くでしょう。」


 私がしっかりと乗ったことを確認して歩き出すと朱願凜はそう言った。

 スケジュールを教えてくれるのは有り難いけど、朱願凜は何故許思浩にそうも親切にしているのだろうか。


 今日貰ったメモの雰囲気から原作の朱願凜はさして許思浩に関わって居なかった様に思えるのに…。この馬の同伴も原作では最初に楊師尊が“いつも通り胡悠天の馬に“と言った様に原作では胡悠天の馬に同伴するだけでなく歌まで歌っていた様だ。

 まぁ、今も胡悠天は近くで睨みを効かせてるけど。

 それに、物語は基本主人公目線だからこそ、主人公の興味関心が向いてない限り他のキャラの動向は解らない事が多い。そこから推測すると許思浩の動向がメモにある様にわからないとされてるのは主人公が見ていなかったのと許思浩にスポットが当たらなかったからだ。

 原作との違いとして今、許思浩は私の所為で声を出せない。それ以外の違いはよくわからないけど、王芳からの説明だと主人公との初対面もこの間の湖だと推測できる。会った時の朱願凜の口ぶりから考えてると違和感はあるけど、何分許思浩の記憶が分からないから何も確信はない。

 今、私を馬に乗せている背後の男は大人しく馬の手綱を握って前を見ている。私が横目で見てるのに気が付いて笑う。心臓に悪過ぎる。


 結局気晴らしに景色を楽しみながら馬に揺られて半日。「許師兄、街が見えて来ましたよ。」と指をさしてしめした。

 前を見ると大きな街が見える。その街はどうやら真ん中に川が有りそこに橋が掛かっているらしい。それがもう特徴だと言う程だ。

 それにまだまだ遠いが広く、活気のある街だと言うのが伺える街だ。


「恐らく後初刻もすれば着くでしょう。」


 見えてきたと言えど確かにまだまだ距離はある。

 でも、少しばかり疲れる馬の旅も終着が見えて少し嬉しく思う。やはり乗りなれてないからこそ疲れる。


 街に着くとまず贔屓にしてる宿屋の馬舎に馬を預けて、楊師尊と胡師兄、それからその弟子を一人ずつ連れて依頼者の元に行くという事と酉の刻までは自由に街を散策していいと言われる。

 これはメモ通りなので把握できてるって素晴らしいと思った。


「師兄、もし良ければ私共と市場を巡りませんか?」


 この旅と言うかこの鬼姫編とやらが始まってから終始主人公様は許思浩に付き纏う。今回は王芳も居る。

 王芳に目線を向けるとニコッと笑顔を向けられるから一人で居ない方が良いのかなと言う都合の良い方に解釈して、コクリと頷く。


「ねぇ、阿願。本当に一緒に行動するの?」


「阿蝶が嫌なら他の先輩方について回れば良いじゃないか。」


「別にぃ、ただ不思議なだけ。ねぇ、冷静歌君もそう思いますよね?」


 私はチラッと二人に目線を向けるだけのどっち付かずの回答をする。正直、私なりの許思浩は余りこう言う事に真面目に回答する事はない気がするのだ。

 それはどうやら正解らしく二人の反応は特に気にした様子はなく二人が会話を再開させる。


「不思議も何も許師兄の歌声と琴の調のどちらかを一度耳にすればもう虜だ。この方の歌を誰もが新雪の冷たい雪解け水の様に澄んでいて心静かになる様な美しい調故に冷静歌君と言う号が付いたのだから。」


「…えぇ、確かに冷静歌君にはそれしか無いと誰もが口を揃えて言うわね。」


 んん?なんかアイちゃんの説明した言葉よりもやたらと褒めちぎられた気がする。確かに数回ばかり声は出したけど、冬の冷えた空気に触れた様でそれでいて私が喧しく喋ってだとしても静かな声だった。こうして幾日も許思浩として過ごしたけど嫌われてたってのに大切にひてる喉が無事なのも不可思議だった。普通、虐められてれば大事なモノと言うのは格好の的だろうに。許思浩はただ陰口を言われ、避けられ、ハブられるぐらいなのだ。そして、取り巻きもいない。そう考えるとこのキャラ本当に悪役なのかと苦笑するしかない。


「それで?僕は許師兄と過ごすけど、阿蝶は?」


「私も一緒に行くわ。…その、散々言ってしまったけど…お許し頂けますか?」


 見た目可愛いな。確か元のキャラの名前は李梦蝶だったっけ。そんなしゅんとした表情されたら虐めてるみたいじゃ無いか。中身が男って知ってると何というか女の子にそうされたいと言う願望を少し感じてしまう。


 私は"お好きにどうぞ"と言うメモを見せて歩き始める。多分、私が勝手に歩き出した所で何故付き纏ってくるか分からない主人公様は勝手に着いてきてくれるだろう。それに王芳も多分サポートする為にそばに来てくれたと信じたい。


 馬舎を出るとそこは直ぐ市場の大通りで彼方此方に出店や店がある。後、名前は知らないけど中華系の作品を観ると時折出てくる赤い飴の様なお菓子。何というか、一時期流行った苺をりんご飴の様にコーティングしたお菓子が彼方此方で藁に刺さって売られてるのを見つける。


【お応えします。あれは山査子飴(さんざしあめ)です。山査子と言うバラ科の果実で、中国中南部やヨーロッパを原産として、豊かな芳香と上品な甘酸っぱい味がする果物です。それをりんご飴の様に飴をコーティングした値段も安価な中国の冬は必ず見かける様なポピュラーなお菓子です。】


 へぇ、あの飴って本当に果物だったのか…。日本じゃ全く馴染みのない果物みたいだけど、昔の誰かが真似してりんご飴作ったのかななんて思ってしまう。

 他にも見慣れた様で何処か違う食べ物や私から見て中華っぽいと思える色鮮やかな刺繍を施された衣類品や多分三国志とかの映像とかで見た事ある様な装飾品に茶器や食器に見た事ない様な物もたくさんあった。

 思わず今日は祭りでもやってるのかと思う程だ。


「やはり、龍江は交易が盛んなのでいつ来ても活気が溢れてる。」


「でも、今日はと言うよりも今は鬼姫の仕業と言われてる怪異が起きてるので流石に少ないみたいね。」


 これで少ないのか。これでも十分混んでるとは思うが…確かに原宿の竹下通りの様な窮屈さはないから普段がそれくらいだと仮定すればこれは確かに空いてるかと納得する。


「それはさておき、適当に出店でも見ながら情報集めなきゃ。」


「商人や酒場の客の噂程役に立つし、今回は特に鬼姫の関与が曖昧で情報が少ないから、実際、この人数で来たのは人海戦術なんだろうね。」


「自由時間って言う割にね。」


 前を先導して歩き出した二人の後ろを歩きながら会話を聞いて、え、そう言う事なのと驚いた。確かに連れてこられた弟子は多い気がしてたけど、こう言った事は平均何人とかという詳しい事は私が理解してない。何作か読んだ夜狩はグループの時も有れば、バディだったり、はたまた単体でなんてのもあった。けど、それの基準までは理解するには余りにも読んだ物語が少なかったのだ。せめて10作品以上は読みたい。けれど、原作の日本語訳がそもそもない。漫画はなんだかんだで見かけるけども…読みたいのは原作で原本を買ったが読み進むのが一苦労で魔翻訳…。漢詩なんて出てきたもんなら魔翻訳必須で名詞とか専門用語系は最早感が必要だ。人物名ならまだそれっぽいと思えるが、オリジナルの地名や必殺技やことわざやら熟語だったりすると本当に知識と感の戦い。1ページ読むのも一苦労。

 まぁ、読みたい欲で色々参考書とか探し始めるのだけども…。


 話が脱線した、まぁともかく、どうやら今回の夜狩は大規模なのだろう事は分かった。それにこの情報収集じゃ、喋れない私は役に立たない。誤字率も恐らく日本の様に誰でも読めるとは思ってはいけないだろう。何というか、何故あんなに日本語ってコスパ悪いのに不思議だ。ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字って…何故4つも文字があらのだろうか…、英語とか24文字の大文字小文字の48文字の組み合わせと記号だけという何ともコスパ最高なのにね。

 少しは共通で読める中国語だからお店を見る分には困らないのだなと周りを見渡しながら不意に思う。


 見慣れない物も多いけど、見慣れた物も多い。これは中国から日本に伝わったのかななんて思うとここ最近の異国文化に参っていたのが少し和らぐ気がした。


「師兄、髪を少し失礼しても?」


 店先をそれぞれ付かず離れずで眺めていると朱願凜が髪を触らせて欲しいと突然言う。

 何故と思いつつもまぁ触るくらいと思い軽く頷くと嬉しそうに礼を良い、髪を触る。


 許思浩は髪を纏める習慣はなく、いつも何もせずに下ろしたままで過ごしていたらしい。まともな髪留めがなかったし、あの冠みたいな…確か束髪冠とかアイちゃんが最初の三日の色々細かい説明講座をしてくれた時に言ってた気がする、それも許思浩は持ってなかった。簪もないしとかゴムなんて時代的にもない。昔の中国では髪は生命の源?とかそんな信仰があったらしく、髪は罪人以外は切らないみたいだ、お陰で髪が長い。これを洗うのは大変だったからまぁ切りたくなったからアイちゃんに説明されて止めらた。


「出来ました。やはり似合いますね。」


 何が出来たのかと見ると髪が緩く編まれた三つ編みに纏められて、そこには鮮やかな蒼いと白のまるで空の様な組紐で結われていた。

 私は慌てて“これは一体?"と問いかける。


「師兄に似合うと思い先程購入しました。思った通りお似合いだ。」


 余りにも突然にそれもこの世で一番の幸せを見つけたとばかりの嬉しそうな朱願凜の顔に息を呑む。贈られたのにも驚いたし、その渡し方のスマートさにも度肝まで抜かれた気分だ。正直、声帯ロックを掛けてなかったら今頃悲鳴を上げていたにに違いない。


「わぁ、冷静歌君。本当お似合いですね。しかし貴方が髪を結ってる姿は初めてかもです。」


 やっぱり、そうなのか。と内心王芳の一言で髪を下ろしてるのがデフォである事が確信できた。しかし、なんでまたこんな贈り物を…。

 嬉しそうだし髪も邪魔だったのも事実。ありがたく受け取っておこう。


「そこの仙師様方、もし良かったら腹ごしらえにどうだい?ウチの葱油餅はここいらじゃ一番って評判だからね!」


 そう声をかけて来たのは何やら焼き物を売ってる叔母さんでなんだか見た事ある様な外見の食べ物だ。それに書いてある看板の文字も葱とか餅って書いてある。


【お応えします。この食べ物は葱油餅(ツォンヨウビン)と言う葱を生地に包んで焼いた食べ物です。例えるならおやきの様な食べ物と言うのが近いでしょう。】


「美味しそうですね。せっかくなので三つ下さい。」


「はいよ!一番できの良いのを召し上がってく下さい!」


「ありがとうございます。」


 朱願凜がお金を払って店主の叔母さんは一つずつ私たちに葱油餅を渡す。受け取って頭を軽く下げる。

 二人ともすぐにパクリと食べ始めたから、私もすぐに食べると外はパリッと油に焼かれ、中はしっとりとした具材と共に葱の甘さと味付けの塩加減がシンプルで美味しかった。


「おいしいかい?仙師様方はアレでしょう?最近、騒ぎになってる、怪異を解決する為に来てくれたんだ。栄養つけてもらわなきゃねいけませんから。」


「もし宜しければどんな噂になってるか教えて頂いても?」


 そう、まるでくどく様に朱願凜が言う物だから屋台の叔母さんはうら若き乙女時代でも思い出したかの様に頬を赤める。


「ええ!ええ!喜んで語りますとも。この噂の始まりは新婚の娘が始まりだったと噂させていまして、その新妻はそれはそれは良く働き人当たりも良く、そして可愛らしかった。そんな出来た妻を持った夫は幸せ者だと皆が言っていました。しかし、その夫はどうしようもない女垂らしでして、浮気をしたのです。そして、その女と子を成した。当然、新妻はそんな夫の裏切りに耐えかねて、激しい雨の日、川も増水した夫婦橋の欄干に紐を括りそこから首を吊って自殺したのです。その死に様の悲惨さは今思い返しても悲惨でしたとも。」


 意気揚々と語り出した叔母さんはその新妻の死体は実際に見た様な口ぶりで語る。しかし、飛び込みだけじゃなく、嵐の日の橋で首吊りなんて…やたらと手が込んだ死に方をするものだ。


「それからしばらくしてからです。その新妻を捨てた夫が川の辺りで乱れ刺され股間のブツは切り刻まれた酷い死に様で発見されたのは。こりゃ、嫉妬の鬼姫が新妻を配下にして恨みを晴らしたに違いないと街では噂されました。」


「ふむ、それでその事件は終わったのかしら?」


「いいえいいえ、それが今度はとある洗濯婦の酒を飲むとタチの悪い夫が同じ死に方をしたのです。それからと言うもの新妻程の酷い裏切りではないのに立て続けに三人。計五人も同じ死に方をしたのですよ。こりゃ、本当にあの新妻が鬼姫の縁者となったってもっぱらの噂さ。男も女もちょっとの嫉妬なんてしようものなら殺し殺されかねないと不安に思うばかりですよ。」


「成る程、その夫婦橋ってどこら辺の橋ですか?」


「この街の名物橋だからすぐ解りますよ。このまま大通りを真っ直ぐに行った大きな立派な橋です。」


「ありがとうございます。後三つ追加で葱油餅を包みで頂いても?」


 そう言って朱願凜は少し色を付けたお金を渡して商品を買う。何ともまぁ、上手い手立てだ。叔母さんは上機嫌ならなって、そうそうと語り出す。


「五人目の被害者はあの金持ちの(ドゥ)って言う酒屋の息子でね。何でも数多の女を侍らせる恨みの多い男でさ、それでようやく仙師様を呼ぼうって話になったのさ。本当は早く呼んでくれと頼んだのだけどね。お陰で商売がし難くて敵わない。早い事解決してくれる事祈ってるよ。」


 叔母さんは景気良く手を振って、また新たな客を呼び込み始める。

 今回の夜狩のあらましを聞けた事は収穫だ。それに今師尊達が訪問してる依頼主は確か杜と言う大きな酒屋の屋敷。


「先程、許師兄に贈った髪紐を買った時にも似た話を聞きました。一応橋を見にいきませんか?」


 私も李梦蝶も朱願凜の言葉に頷く。

 この謎解き感覚で事件を調べる感じは正しく仙侠モノらしい展開かもと思う。


「この龍江の街は長江から分岐した小川が街を西側と東側に分けてる広い街で、川を使った交易が盛んです。そして、上流側は富裕層、下流側は貧民層と貧富の差が分かれています。雑貨屋の店主から聞いた話だと三人目と四人目は貧民層に住む男女だったそうです。どちらも浮気をしていたのは公然の事だった。そしてこの五つの事件はここひと月ちょっと前から起きています。」


「週に一回ペースね。三人目辺りで知らせが来ても良さそうなのに。」


「貧民層、それも浮気者達だ。鬼姫の事件で厄介なのは善人が必ずしも殺されない所からね。時には逆恨みの様な嫉妬で殺されてしまう事もあるけども。」


 聞く話、鬼姫と言うのはどうやら嫉妬から生まれた鬼と考えるべきなのだろう。日本にも昔に平家物語の話の一つだったか、源氏の重宝としての名刀と名高い太刀・髭切の切った嫉妬の鬼。橋姫の様な存在なのだろかと思えた。何処にでも似た話があるのだなと感心する。

 橋にたどり着けば、すでに何人か同じ噂を聞いてやむてきたのか一緒に来た師兄や弟子達がいる。


「皆、この噂にたどり着いたみたいですね。」


「私も何人かに聞いたけど、似た話しか聞かなかったし、そろそろ師尊達も宿に戻る頃だから戻りましょう。」


「それもそうだね。師兄もそれでよろしくでしょか?」


 正直言って私は何もしてないし、何をすれば良いかもよくわからないで二人に身を任せていたのだから二人がそうと言うなら従うしかない。本物の許思浩ならもっと何かしたかも知らないが私は一人行動なんてしたらこんな広い街迷子になるのはわかってるから大人しく頷いて二人と馬舎の横にあった宿に戻る事にする。


今度、中華気分と料理を手頃に味わう為に中華街に行こうかと悩みます。

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