三話 主人公エンカウント
ナビ通りに歩けば人にも殆ど会う事もなく、池にたどり着いた。
アイちゃんからの資料で部屋に籠っている間に少しばかりここの土地の事について少しだけ学んだ。そのお陰でここ詩白龍派のある場所は四川省にあたる場所との説明だったから私はてっきり北の方だと思っていたけど、どうやら西南部にある場所らしい。それに寒い土地なのだろうと勝手に思い込んでいたがどうやらその中でも東部は盆地らしく夏は暑く、冬もそれなりに暖かく、春は乾燥していて、秋には雨が多いらしい。辛い食べ物のイメージがあったから勝手に寒い地域だと思って、盆地の様な気候だとも思わなかった。因みにここは西部高原地帯の山地らしく気温は東部の盆地、以前に亜寒帯で年間通して寒いらしい。省って言わば県みたいなのだと思ってるけど、その中で気候が違うとか中国は広い。
そして、アジア最長の川である長江が流れており、他にも国内最大級の湖もある場所らしく、水産物は豊富で、ここ最近食べてる粥は魚や貝類、海藻類の出汁がよく出たいてとても美味しい。四川だから何でもかんでも辛いかと不安に思ったが何とかなりそうでこの許思浩と言うキャラもあまり辛い物を好んでいなかった様で本当良かった。
この今いるとある山は山頂部分には大きな城と言う感じのが立っているが少し下がれば門弟の住む小屋に、竹林や森に小川もあるし、小さな池もある美しい山だ。何よりパンダが生息してるらしい。見てみたい。
その許思浩がよく来ていたらしい池は美しくそこまで透き通る蒼い水と一帯に咲き誇るピンクの蓮の花が美しかった。
私は蓮の池なんて、記憶にあるのは観光で観た鎌倉の鶴岡八幡宮の境内にあるのぐらいしかしっかり観た事がないがそれとは比べ物にならない程に美しかった。
この池は余り広くは無いけれど開けた山頂に有り、修行場や本殿からも一番離れた場所故に人気はない。
だから、きっと許思浩はここに良く来てきたのかも知れない。
そんな事を思いながら、部屋には何故か鏡がなかったからちゃんと確認出来なかった容姿を確認しようと水面を覗くとそこには美人が写っていた。元から髪は美しいと思っていたがこの夜空でもそのまま写し込んだかの様な長い枝毛すら無いしなやかな髪に劣らない、キツく釣り上がっているが凛々しい目元ににスッとした鼻立ち、色素の少し薄い黒の瞳はガラス玉の様に美しい、そして何よりもその身体付きは線が細くしなやかなのにしっかりとした無駄のない身体付きだ。背は小さめだが文句なんて付けられない程にの美形…!こんな、美形が嫌われてるとか…!もはやアイドルとかモデルとかやってる人でしょ…!いやいや、ここのメインの男達は皆んなそうだけどっ!!えっ…こんなイケメンに生まれ変わったとか…え〜〜現実味がない!!!もう変に語ったっちゃうじゃん!語彙力〜〜〜!!!
「許師兄。」
その声を耳にした時、ズキリと胸が痛んだ気がした。それはまるで胸騒ぎとでも言うか、よくわからない自分の心とは別の所から来る様なモヤモヤとした曖昧な何か。
それよりも自分の容姿に打ちのめされてすっかり周りに気を遣っていなかった私は全く人が近づいてきた事の方が問題だ。
声がした方に振り返るとそれは本当に驚いた。そこには絶世の麗人…いや眉目秀麗は彼の為にあるのかと言う程に美しく麗しい少年がいた。
その出立ちは美しく吸い込まれる様な漆黒の髪を陽の光に輝かせ、その髪をポニーテールに高く縛り、顔はもう私の語彙力では言い表せない程美しく、その瞳は透き通る琥珀の様だ。背丈は許思浩より少し高いが体型は同じくらいだろうか。許思浩も中々の美人だが彼には敵うとは到底思えない。彼こそ美の化身だろう。
え、誰?アイちゃん、この絶世の麗人は…?
【お応えします。彼こそがこの作品の主人公。字を朱願凜。姓は朱、名は望。今はまだ知られていませんが号を蒼空原谅。その人です。】
…!?!?主人公様ですか!?!そりゃ絶世の麗人な訳だ!!と言うかここでエンカウント果たすの!?出会いイベント?これは公式??え、私大混乱なのだけど??どうしてこの子私に話しかけてきたの??
「お声が出なくなったと言う噂は本当だったのですね。」
少し残念そうな声がして元から近かった距離は触れるか触れないかの距離に詰めてられてることに驚いて思わず後退りをして池に落ちそうになれば彼は私の腰を抱いて受け止める。
抱き止められて思わず私の心臓はバクバクと音を立てる。そのまましばらく見つめあってしまう。
これなんて言うラブコメ?と言うかなんでこんなにドキドキしてるの?いや、本当こんな麗人に腰なんて抱かれたらマトモな彼氏も彼女もいない歴年齢の私には無茶ってモノだよね!
「すみません!驚かせてしまったのですよね…。ここでは危ないのでこちらに…。」
しばらくの沈黙の後にそう言って朱願凜はエスコートして少し離れてはいたがこの池を一望出来る、きっと1番良い眺めの場所に案内される。
え、なんか主人公にエスコートされて、なんか映えスポットに案内されたのだけど??私、喋れないから咄嗟に何か言えないし…あ、メモ…そうだよメモをここで使うべきだよ!!
私はメモを取り出そうと懐を漁る。
それを朱願凜はじっと見つめているから正直焦る。
ようやく、取り出したメモにアイちゃんのオートマ翻訳で文字を書く。そして、それで少し落ち着きを取り戻して許思浩らしくメモを見せる。
“私に何か?”
「ここ、僕も良く来るのです。」
ん?何か突然語り出したけど…?本当、どうした主人公?私は攻略キャラじゃないはずでしょ?
「許師兄の事は良くお見掛けしてきました。」
本当この状況なんなの?何かすっごい見つめられてるし…居心地が…。
「でも、今日お見掛けしたら思い詰めた様子で池を覗いていたので入水自殺でもするのでは無いかと不安で声を掛けさせていただきました。」
……あー…成る程…。確かに今の許思浩は一頭大切にしていた声が出なくなった絶望で自殺してしまいそうな程に見えるのか…。そりゃ、正義感の強いと思われる主人公は助けようとするよね。
“勘違いさせたならすまない。”
「勘違いでしたら、良かったです。……それより、その腕のお怪我はどうされたので?」
腕の怪我?と思うときっと痛み止めの薬でも塗ってあったであろう胡悠天に捕まられて鬱血して痛めた腕の包帯を指さされた。
なんて、お優しい主人公だろうか。こんな怪我まで心配してくれるなんて。人が出来てる。
“これは気にしなくていい。少し痛めただけだ。”
だけど、これはこの主人公とこれからいい感じになるらしい攻略キャラから付けられたものだ。詳しく言う必要なんてないだろう。
「……。そうですか、何かあれば僕はいつでも助けになります。」
一瞬何か冷んやりとした気がしたけど主人公は眩い笑顔でそう言う。
本当なにこのメチャクチャないい子!そりゃ、比べられた許思浩は嫉妬して劣等感に塗れる訳だ!
「あ、そろそろ戻らないと。許師兄。今日は下山する為の打ち合わせがある日です。行きましょう。」
怪我をしてない方の手を優しく掴んでまるで一枚のスチルの様だ。
それにまたドキリとしてしまうの恋愛耐性ゼロで更にはこの主人公に当てられてる所為だと自分に言い聞かせる。そんなドキドキは人気が増えると違うドキドキに変ってしまう。そのまま手を引かれて歩く姿はログがひっきりなしに流れる。何故?と嫌われ者と何故?と。
むしろ、この後の行く末の方にドキドキが止まらない。もう打ち合わせに向かうって言うのなんで私まで?元からの予定だったの?アイちゃんの見せてくれた予定表って日常限定でしたか…。
【アイと許思浩の記憶のリンクにエラーが生じてる為に起きてた障害です。】
記憶のリンクエラー!?そんなリンク機能なんてあるの!!憑依転生ってオリジナルの記憶って受け継いでるのってあまり見ないから考えもしてなかったよ。
そのまま、アイちゃんのびっくり発言はともかく腕を振り払う事も出来ずにたどり着くと当然注目の的だ。その場にいるのは楊師尊に女仙師が数人に胡師兄と他にも男仙師も数人いる。
し、視線が痛い…。
「…ゴホン、許思浩、朱願凜。君たちが最後だ。」
「すみません、師尊。」
どうやら、少し遅れてしまった所為でもあったらしく私も主人公に習って謝るポーズを慌てて見せる。
そして、空いてる席に座る様に言われ、お互い空いてる離れてる席に座る。
「……それでは話を始める。今回は管轄の街にて奇妙な事件が起きているとその街の者からの依頼だ。聞く話だと凶の鬼、血髪之花嫁。もしくはその配下が関わりを持っている事件である事が危惧される。鬼に関する事件はそう多く無いが、血髪之花嫁関連の事件は鬼の中でも群を抜く。それ故に我が弟子達には経験を積んでもらいたい。」
楊師尊の説明を聞くと今回は何か凶の鬼?血髪之花嫁?って言う強そうななんか?が関わってる可能性があるから楊師尊と実力のある胡師兄も同行する。過分な戦力を割く故に弟子達も多めに連れて行って経験を積ませたいって事らしい…って内容は何となくわかったけどこの世界って何か鬼とか神様とか仙人とか魔族?ってのが出たり出なかったりするけど、アイちゃんなんなの?
【お応えします。この世界には人が死に無念を残すと屍、俗に言う殭屍になり、さらに怨念が強くなり、死んだ霊魂や生きた霊魂を喰らう事で鬼へと進化します。殭屍にも鬼にもそれぞれ四段階の脅威度が設定されています。低級には“悪“。中級には”厄”。上級には"凶"。そして絶望級の災害として”絶”。それぞれ、悪屍、厄屍、凶屍、絶屍、悪鬼、厄鬼、凶鬼、絶鬼。と区分別に呼びます。屍は基本鬼の下位になります。屍は本能のまま、妖術や邪術は使えず、鬼は人の様に狡猾で妖術や邪術、鬼術を使う事が可能です。霊魂や屍の多くは仙師によって払われる事が殆どです。鬼の凶と絶は仙師や導師の力を持っても払う事は難しく、神ですら余程出なければ手出しはしない存在です。ここで出る神は徳を積んで天界に上がった人だった者達。武人や賢王と言った者達。それから長年祈られ続け、力を付けた石像や樹木が主あります。彼等は信仰によって法力なる力を使い天界より神官を使わしたり、自然物からの神で有れば災をもたらす場合も有れば守り神にもなり得えます。そして最後にこの世界には魔族などおりません。以上です。】
おっと…そりゃ…まぁ…だいぶ詳しくどうも。さっき愚痴った時はあまり応えられなかったからってその分まで喋ってくれるじゃない。これってもはや仙侠モノならありきたりな設定なのかな?それともオリジナルなのか?まぁ、セオリーって奴だと思っておこう。中華BLに多少手を出したモノの完璧な理解には程遠いかったしね。
アイちゃんに解説してもらってるウチに細々とした話は終わり、解散となった。
そそくさと部屋に戻ろうとするとさりげなく主人公がまた近寄ってくる。
「許師兄、何かお手伝い出来る事が有ればこの弟弟子は喜んでお手伝いします。」
え?何故?手伝うとか突然?私は疑問に思いながら取り敢えず断る為にメモを取り出して書く。
“私に構う必要はない”
「…。でも腕を怪我されてます。」
"自分の事をしなさい"
「…わかりました。自分の事をしっかりと終えてからまたお尋ねしますね。それでは後ほど。」
そう言って去って行く主人公を唖然と見送る。
……いや、腕の怪我を心配して手伝いを申し出るなんて…良い子過ぎるでしょ。なんなのあの子。本当イケメン過ぎて心臓に悪い。と言うか他の攻略キャラ達って軒並み攻めっぽいのに主人公まで攻めっぽいのは何?まさかの攻略キャラ達は抱かれる側なの!?
「あの、お時間宜しくて?」
主人公の事を考えながら部屋に戻る途中の人気のない場所でまさかの女の子に待ち伏せをされてるなんて誰が思うのだろうか。
と言うか今日イベント多すぎるでしょ!!
この子無視して良いの?と言うかこの子誰なの?この話のキャラのなの?ねぇーアイちゃん!!
【お応えします。彼女は主人公と同期の門弟。字を李梦蝶。名を舞。姓を李。と言います。原作では時に主人公の背中を押して、時に悩みを聞く。身近なアドバイザーポジションでした。】
あーなるほど。よくBL系にいる幼馴染系の女の子ね。……なんでその子が私に用事があるの?裏で暗躍する系の子なの?
【そこまではお応え出来かねます。】
…原作読みたい。これはあれだ単行本派故に本誌で盛り上がってるSNSを見て死ぬ程気になる奴だ…。後海外書籍故に原作完結してアニメの方が先に上陸して日本語翻訳がないから満足に読めないジレンマだ。
「ねぇ、ちょっと聞いてるの?喋れないなんて嘘ついてどう言うつもりなのかしら?」
ん?喋れないなんて嘘?思わず思考にどっぷり浸かってた私は悩まされていた彼女のセリフに視線を向ける。
どうして、嘘だと言い切れるのだろうか。今声が出ないのは声帯ロックをしてるから本当だ。
「貴方に一つ聞きたいの。“你和我們的歌。“って言葉に聞き覚えは?」
……アイちゃん、あれってこの原作のタイトル名だったよね?
【はい。その通りです。】
えっ!じゃあこの子原作知ってる憑依転生者!?私の希望の光!!この子バリバリの中国語だから日本人じゃないのわかるけど!!
私は思わずガシッと彼女の肩を掴んで、頷いた。
「やっぱり。原作の許思浩と全然違うからおかしいと思った。どう言うつもりで失声症なんて偽ってるんだ?」
彼女は私が憑依転生者だと確認できた途端に男口調になる。それに違和感を感じながらも、私はここで声帯ロックを解除したとしても日本語じゃあきっと碌に会話も出来ないし、一門着起きないとも限らないと思い、詳しい話は私の部屋でとメモを取り出して書く。
「……わかった。」
割と説明が多くなった回かもです。
後、"字“と“名と姓“の付け方に今更ながら失敗してる気がしてる日々です。
今の所、勢いで書いてるツケですね…都度都度、色々調べながら書いていますが多分もう少し名前文化の理解を深めたら名と姓は改変する気がします。