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二話 このキャラ人付き合い最悪なのでは?

 3日前に決意した事だけど、この世界を謳歌するなんて宣言した私は見通しが甘かった。

 常々思うが物語の主人公達と言うのは総じて度胸が有り、図々しく、記憶力が豊富で、幸運の持ち主だ。


 私自身、生前は運が良い方で何事も運任せにする立ちであったが流石に運が尽きてここにいる訳だと私は思っているから運任せなんてしたらどうなるかとは一応思ってる。

 それはともかく、ここ3日は療養として部屋に引きこもって居たし食事もここでとっていた。

 けれど声が戻る見込みがないとの事で様子を見つついつも通りの生活に戻る事になった。

 正直言って、何をするかなんてわからないのでアイちゃんに何処情報かは教えてもらえなかったがスケジュールを見せてもらってそれを参考にする事にした。


 アイちゃん頼りに身支度をして、いつもは食事を遅く取っている様だが早く起きてしまったので取り敢えずアイちゃんが見せてくれたここのマップで食堂がある事が確認できたからそこへ食べようと出向く。

 その道すがらで他の弟子や師兄とすれ違う度にポセイドンが波を開く様に人に避けられる。その姿は敬ってるとかじゃなく、嫌われ者が歩いてる時のそれだ。中国語だから幸いログを見なければ解らないお陰で少し不快程度で済んでる。


 そして、広い講堂の様な作りになってる食堂にたどり着くとそれはより顕著だった。ここの門派はかなり大きいらしく人もかなり居る。正直、ログがひっきりなしにスクロールしてる。アイちゃんが律儀に翻訳してくれてるお陰だ。聞こえる声の雰囲気やログを流し見るだけでこれが陰口なのが解る。何処ぞの嫌われ悪役令嬢設定か。そんな令嬢でも取り巻きぐらいいるというのに……。

 このキャラは楊師尊との関係を鑑みる限りでは上には媚び諂って、下には傲慢だったのか?それにしては師兄にも嫌われている様だし…一体何をすればこんなに嫌われるのだろうか。


【お応えします。許思浩はその声をひたすらに大切にする余りに周りとの折り合いが合わず、誰もがその歌声を賛美しますが、歌狂いと関わりを持つ事は嫌煙されています。】


 応えてくれてありがとう。


 それにしても、許思浩はここに食事を摂りにくる事も少なかった様だ。なんでここに?と言うのもログに何個か見受けられた。はぁ、いっそここでの食事は諦めて外の山にあった果物とかで済ませるかと食堂を出ようとすると目の前に人が立ち塞がった。目の前に立たれるだけでアルコール臭が漂う。


「おい、珍しいじゃないか。お前がこんな大勢のいる場所に来るなんて。」


 髪の左半分を編み込みでまとめ上げて、一つに纏めた垂れ目で柄の悪い雰囲気の酒臭い男が現れる。


 何か、また新キャラ来たけど…出会いイベントですか。アイちゃん、説明よろしくお願いします。


【お応えします。彼は胡悠天(フーヨウエン)。名をリエン、姓を胡。号を清酒劍士(セイシュケンシ)。許思の兄弟子です。横暴な性格で常に酒を飲んでる酒豪で酒を飲むほどに強くなる為に清酒劍士と呼ばれてます。許思浩とは仲は悪く、顔を合わせれば胡師兄に絡まれて争う事も多かった仲です。将来的に主人公と色々あり酒癖は改心されます。】


  師兄なのかこの人。しかも常時酔っ払いと来た。主人公は予想するに取り敢えず想ってくれる人をマトモに導く光属性の主人公なのか…。取り敢えずここを今は乗り切らないと。取り敢えず仲が悪いなら無視して通り過ぎても良いよね。喋れないし。


「おい、無視か?自慢の声で邪魔の一言も無しか?」


「っ……!」


 無視して通り過ぎようとしたら腕を思い切り掴まれる。その力は強くて、少し痛い。と言うか振り解けないし、多分これ痣になるじゃないか?


「睨むだけかよ?お前が一言離してと言えば離してやる。ほら、自慢の声で言えよ。」


 争う仲とか言ってたけどこれは虐められてたの間違いでは?どうなのアイちゃん!!!


【お応えします。えぇ、まぁ。しつこく絡んでくるのはあちらというデータが残ってます。後、喋れない故にそうなってしまってます。】


 喋れないの厄介!もしかてこのキャラ簡単に挑発になるタイプなのか!と言うか手をこんなに強く握られてたら筆談すらできないじゃん!せっかくメモと持ち運び用の筆と墨を持ってきたのに!ってなんで本当!振り払えないの!?


「……おい、そんなに声を出すのが嫌か?今日はヤケに強情じゃねぇか。」


 ギギッと更に強く腕を握られる。


 これ折れるじゃないか!?誰か助けてくれないの!?と言うかメッチャ怖いのだけど!?!?え、私知ってる名前って楊師尊ぐらいなのだけれど…取り敢えず楊師尊助けて!って祈ったら来るとかないの!?


 そう抵抗しつつもそう祈っていると「なんの騒ぎだ?」と求めていた人がやってきた。思い浮かべれば来るとかご都合主義?それともアイちゃんが呼んでくれたの!?と心で叫べば【違います。】と言われる。アイちゃんはどんな下らない事にも応えてくれるから本当優しい。


「ッチ……師尊。別にただ会話してるだけですよ。」


「お前は相変わらず許思浩に絡むな。しかし、今回ばかりは見逃せない。許思浩は病み上がりで今は声も出せず、筆談しかできないと言うのに彼の手を掴んでいては会話なんて出来ないだろう。」


「は?コイツ声が出ないだって?声しか取り柄のないコイツが?」


 そう言った瞬間更に握る手が強くなった。これはもう確実に手形がくっきりだろう。


「許思浩は仙術も剣術も勉学も全てに置いて優秀だ。実力は常に上位だろう。」


「はっ、そーですね。師尊はお気に入りですもんね。」


「私は弟子皆の事を想っている。」


「どうだか。…取り敢えず声が出ないってのはわかったんで、コイツと俺は一緒に飯を食べるんです。もう行っていいですか?」


「それを許思浩は了承してるのか?」


 その質問を楊師尊がした時に胡悠天の手に力が入りキッと楊師尊を恐ろしい程に睨みつけ、今まで一番低い声で言った。


「それ、師尊に関係あります?コイツ、1人じゃ席なんて誰も相席してくれないのなんて貴方もご存知でしょう。」


「……それは確かにそうだが。」


 ちょちょ、なんなの?誰も相席したがらないのは何となく空気的にそうだろうとは思って食堂を出ようとは思ってだけどさ。この友人皆無のボッチの嫌われ者って師尊にもここにいる大勢に認知されてるって事なのか…。食堂に来たのは間違えだったって訳か。どんだけだよ。


「それに師尊はもう食事をされた筈だ。」


「…はぁ、胡悠天。酒は飲み過ぎるなよ。」


「へいへい。」


 ええ…佳境は去ったけど、この横暴野郎と過ごすって苦難がまだ続くと?しかも腕未だに離してくれないし!痛いって!


「お前、本当なんで碌に席も取れない癖にこの時間のここに来た訳?普段寄り付きもしない癖によ。」


 そのままグイッと腕を握られたまま引っ張られる。コイツは私の話を聞こうなんて微塵もない様だ。


「飯はいつも食ってんので良いんだろう。」


 いつも食ってるの?なんで胡師兄がそれを知ってるのかは謎だが、ここ数日食べたのと余り変わらないだろうと予想して頷く。すると、食事番の人に声をかけてそのまま2人分を彼が持って席に座る。その席に居た人たちはそそくさと別の場所に移動した。


「ほらよ。」


 ありがとうと伝えようと紙と筆を出そうとするとさっさとしろと舌打ちされたから大人しく座って食べ始める。メニューは中華粥にナムル、ワンタンだった。数日は中華粥と果物だけだったがバランスの良い感じだ。

 胡師兄は酒とキムチと何の肉かはわからない揚げ物を食べてる。完全に食事と言うよりはツマミだ。


「お前さっき食事諦めて帰ろうとしてたろ。俺が居ない時に食堂で席なんて取れないの分かってん癖にな。俺に反発的なのは相変わらずな事だ。病み上がりでオマケに声が出ないのを俺に知られるのが嫌でって所か?ハハッ!」


 喋れない私はただチラリと彼を見る。その睨みに対して気分良さげに笑って酒を煽る。彼は答えなんて求めずにずっと私に話しかける。食事をさっさと食べ終え戻ろうと少しペースを上げて食べ終えてトレーを持とうとするともう既に食べ終えていたらしくそのまま注文した時と同じく取られてしまうし、ついでに腕もまた掴まれる。

 この男は何故私を連れ回そうとするのだろうか。

 食事の時とは変わらず酒を煽り、一人で喋り続ける。

 周りのひそひそ話はほぼ無い。胡師兄が喋る以外の声がしない。寧ろ胡師兄には敬意を持って皆一礼をする程だ。時たま彼を師尊と呼ぶ弟子も居るからこの男は自分の弟子を持つ程の実力と尊敬をされてるのだろう。

 力尽くで振り解くのもアレだし、取り敢えずついて来ていたが気付けば恐らくコイツの自室に連れ込まれた。仲が悪いとの事だった筈だがと不審に思いながら大人しくしているとベッドに放り投げられてしまう。


 何!?そういう関係だったの!?ってか仲悪いんじゃなかったの!?そうなのアイちゃん!!


【お応えします。原作ではその様な展開は確認できせんでした。】


 それじゃあ、なんでベッドに??泣きそうなんだだけど!!


 私はこんな襲われそうになる経験なんてした事も無い。そもそも、こう言う行為事態昔から怖気付いてしまうチキンだ。彼氏がいた事があったとは言え、下世話な話、最後まではヤった事も無い。そもそも、この空気感はもはや普通恐ろしくって下がれるだけ下がって、壁に背中をピッタリとつけて涙目になる。


「相変わらずの怖がりちゃんだよな。強がりで怖がり。どんなに優秀でも外に出れば怖がって怯えてばかりの臆病者。オマケに口八丁。その琴と歌でどんな死霊、屍を祓う事が出来る癖に一人で夜狩に行けもしない。なのに師尊を頼ろうともしないし、俺や他の師兄を頼る事しない。弟子でも取れば変わるかと思えば弟子には拒む始末。お前を思って口を軽く出す程度に済ませてたが、身体を壊して、声まで出なくしてまでお前は何がしたいんだ。」


 中華風デザインによくある天上付きのベッドにはカーテンが付いていてベッドは薄暗い。オマケに匂い袋も四隅にあるらしくその匂いは酷く甘く、クラクラする程。でもきっとこの頭の気持ち悪さは何か別の何がある様にも思うが、このキャラの記憶が蘇る的な展開を責めてと望んだけど全く無い。

 胡師兄はまるでそこに閉じ込める様にただじっと私を睨み見下ろしてる。食堂ではあんなに気分良さげに話しかけていたのに、その表情は怒りに満ちていて思わずここに放り投げられてからずっと背筋が凍る程に怖い。

 畳みかけられた言葉は理解できなくとも怒鳴られるよりも恐ろしく、殺気なのだろう気で身体が思わず震える程。


 中国語はドラマやアニメで観てた時から思っていたが日本語に比べて小文字が多いし、かなり早口で忙しない言葉に聞こえる。まぁ、英語なんかもテンポが早い気がするけど。だから、さっき一気に何か喋られてもログの字幕が頭にうまく入らなかった。その為に今ゆっくりとログを盗み見る。

 そこで、このキャラが何故ボッチで嫌われ者なのかがよくわかる説明だなと少し思った。思ってたよりもこのキャラは生きるのが下手くそで敵をたくさん作る癖に弱虫で意気地なしの意地っ張りらしい。一番の自慢の声だけが自分を保つ唯一で、実際はわからないが、それを奪った主人公を敵視して度が過ぎたか嵌められたかして不幸な死を遂げるキャラなのだろうと言う想像が出来た。


 いや、そもそもでこのキャラは常に死にたいとでも思っていたのだらうか。この部屋を見てようやく分かったが許思浩の部屋にはほぼ物がない。鏡の一枚も無ければ壁を飾る装飾品の一つもないし、服やアクセサリーも少なかった。ただ、最低限の生活品と琴と剣しかないに等しい部屋だった。

 あくまで今だにこの憑依したキャラの考察は完成しないしどの考えもしっくり来る様で全くわからない。喋れていたらきっと早々にボロは出してた筈だ。


「…っ!……また、俺はお前に乱暴をしてしまったのか…。……手を出せ。痣になったろ。」


 思い耽って居れば、胡悠天は突然雰囲気が変わり気まずげにそう言う。私はその嵐の後の静かさの様な態度に戸惑いながらもゆっくりと手を差し出した。この人がこの許思浩に絡んできていた理由はきっと心配しての事だったのだろうか。そして、この原作の許思浩はそれを全て跳ね除けてこの人を毛嫌いしたのだろうか。


 ねぇ、アイちゃん。このキャラは結局主人公達に何をして処刑される程の罪を背負ったの?


【エラーです。】


 エラー?現在閲覧できないじゃなく?


【エラーです。】


 ……エラーって。デバッグして復元もできないの?


【警告:デバッグ、復元を開始すると今より丸一日アイのサポート機能が停止します。】

【デバッグ・復元を開始しますか?  はい ・ いいえ】


 !?!?今は困るのでいいえ!保留で!!


【かしこまりました。】


 どうやらアイちゃんにはエラーが存在している様だ。時間ができたらデバッグと復元をしなきゃならないけど…サポート無しで一日中過ごすなんて今の所無理だ。


 一人で悶々と考えているといつの間にか治療が終わっていた。


「……許思、俺は今でもあの時、お前を一人で逃したのは間違いだったと思ってる。だから、お前が俺を嫌うのも当然で幾らでも恨んでくれて良い。でも、忘れるな。俺はお前との約束をもう破る気はない。」


 え?突然?それは一体?と驚くとピロンと音がなってバーが現れる。


【キャラクター隠し情報『胡悠天との関係①』の解放条件が解禁されました。】


 ①!?何種類かあるってこと?てか割と深い関係だったってことか!と言うか解放条件の解禁って条件をクリアしてからじゃないとこの情報は解らないってこと!?


【はい。】


 まさかの小分けっ!!と言うかその解放条件ってなに!?


【お応えします。解放条件の一つ目はとある任務を共にこなす事です。二つ目は一定の共有時間に達する事の二つの条件をクリアしたらになります。】


 曖昧過ぎないか??とある任務って詳細とかないの?それに一定の共有時間ってどれほどだよ!!何これ!このゲームがイジーモードじゃないのは何となく察してたけど、ノーマルでもないって事??


【この物語は小説であり、ゲームでも無ければ、難易度設定はございません。解放条件の情報もこれ以上はございません。】


 こんなにゲームチックなのに…っ!ツッコミ過多な世界だな!本当!原作は本当知らないからこれが本編なのかすら分からないし…本当…とほほだよ!


「…許思、済まない。」


 心中で忙しなくわちゃわちゃしていると治療された腕を撫でていた胡悠天の手はそっと離れてそのまま窓の側のテーブルと椅子が置いてある場所まで離れまた酒を煽り始める。


「…引き留めて済まない。もう出て行っていい。」


 顔は窓の外をのままにそう告げられる。確かに居た堪れない空気になったし、もうあの逃さないとまでに立ち塞がった彼は離れた場所に居る。

 私は一応礼儀だろうと思い円を作る様に腕を前に出して片手は拳を握りそれに手のひらを添える、中国の挨拶(拱手礼)として認識してるそれをして部屋を立ち去る。

 正直、メチャクチャ怖かった。心臓バクバクだわ。それにしてもこの許思浩と言うキャラクターは何なんだ?ただの破滅フラグを持った悪役程度の薄っぺらいテンプレ悪役だなんて思ってたけど…どうやら違う様だ。


 アイちゃん、原作情報って偶に概要は教えてくれるけどもう本編のあらすじとか教えてくれないの?


【お応えします。観覧権限はございません。同時にアイには規制を掻い潜った内容しかお伝えする術がございません。】


 規制とか権限とかエラーに今は観覧できない情報、それから解放条件…。何というか隠された情報が多過ぎてただでさえ原作知らないのに不利すぎる気がするよ。この情弱の極みみたいなのはどうしてか。

 破滅フラグ回避させる気がそもそもでこの世界にない気がする。これはもはや運命の抑止力的なやつなの?あーあーもう、考えるのやめよう。そうだよ、気分転換に山の中でも散策しよう。この時間は素の許思浩も散歩をしていた様だし、少し行った所に池もある様だしね。


【提案、許思浩が良く利用していた場所が3箇所あり、その内の一つが池の近くです。】


【案内を開始しますか?  はい ・ いいえ】


 お、そうなのか!なんだか色々怖い思いをしながらも少し許思浩の事が人伝には知れたけど、何か今度こそ回想とか過去とか判るかもしれないしそこに行きますのではいで!


【かしこまりました。ナビゲーションを始めます。】


 私は水辺ならこの容姿も確定出来るなと意気揚々とナビゲーションに従った。




基本、心の声なので美鈴のお口は悪いです…元女性とは思えないほどに…笑

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