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十一話 嫌われ者の許思浩②

 修練場に向かう途中、私は次に会ったら聞こうと思っていた朱願凜の袖を少し引いて怪我の具合を聞く。


「怪我、ですか?出血は少し派手でしたが全く問題ないですよ。あなたはそう言うことを聞く方なのですね。」


 聞いた瞬間はそのまだ幼さのあるその瞳を見開いて驚いたが、直ぐに嬉しそうに綻んで笑ってそう言った後に“ありがとうございます“言われた。

 許思浩は自分が負わせた怪我の心配もしない様な人間に見えるのだろうか。流石にそんなキャラじゃないと思いたいと思って少しムッとしてしまうと、まだ横でクスクスと肩を震わせてる。


「心配はしてくれてるのは分かってますよ。ただ、口にしてくれるとは思わなかったのです。言葉にされると嬉しいですね。」


 笑っていても何処か寂しげにそう言う彼に違和感がある。何と言うか私との会話で何かと比べてる様な感じだ。思えば鬼姫の件が終わった時は何か違うと言われる様に拒絶されていた。何というか、一線を引かれた感じだ。まぁ、無遠慮近づいてきて突然離れるというのだろう。


 私も毎日会う人とかには偶に昨日の後悔とかでやってしまう時があったけけど…割と理由が解らずされるのと変わらないから気が滅入るなこれ…やらない様にしよう。

 他に特に会話も無く、特に私と喋るには筆談になる為だろうけど。修練場に近づいて行くに連れて人通りも増える為かヒソヒソと色々聞こえる。大半は許思浩への陰口に悪口。そこに混じる朱願凜の陰口。それは朝食を無理矢理一緒に食べる事になった楊陳翔が彼に向かって言った内容だった。きっと、私と居る所為でこうして陰口を言われてると思うと申し訳ない気持ちになる。ある意味これで朱願凜と許思浩は拗れたのかも知れないと少し思う。


 修練場にたどり着くとその悪口と陰口はピタリと止んで居るし、ヤケに重たい空気が漂ってる。修練場は学校の校庭とかアリーナに似てる作りので少し色々訓練用のデクなんかも隅にある。でもステージ場の場所がありそこに人が数人居る。それは何とも静か過ぎる為か不自然に思わせる。

 朱願凜が「やっぱり今日か」と小さな声で嘆いた。やっぱり今日。何かしら探っていてそれが当たってしまったという事だろうか。さっきは星占いとか言っていたがあれは咄嗟に付いた嘘だったのかもしれない。

 私はその違和感のある場所に近づいて見ると何人かが縛られていて、許思浩や朱願凜よりも年上のそれも師兄らしき人が縛ってる者たちに乱暴なして居るでは無いか。


「おや、冷静歌君。遅かったですね。貴方の為にこれ程に準備をしたと言うのに、貴方が来なければ台無しですよ。」


 は?思わず出てきた字幕がよく分からず、ログで二度見をする。それでもイマイチ何故に私の為と言われるのかが分からない。


「流石は相変わらずの冷静っぷりだ事だ。」


 意味がわからない事を言う男がそう言って取り巻きらしき人に指示を出して縛られてる人を棒で叩く。本当に理解が追いつかずに唖然としてしまう。


「冷静歌君、何故彼らがこうして縛られてるかわかりますか?」


 私は全く持ってわからなかった。私もまだ彼の許思浩になって一週間になるくらいだ。その前に何かしでかしたのかもしれない。

 アイちゃん、何かわかる?


【お応えします。そこに立ち指示を出してる男は字を林游露(リンユーロウ)。楊陳翔を師に仰いでいる門弟の一人です。】


 アイちゃんに名前付きで情報があるって事は一応原作で出たキャラなのね。因みに指示に従ってるのは楊陳翔の弟子達って事で、縛られてるのは何処の人達なの?


【お応えします。指示に従ってるのは美鈴の言う通りです。縛られて居る門弟達は同門ですが彼以外を師に仰ぐ門弟達です。】


 あー…と、情報をもらってもイマイチ状況が分からない。今問われてる内容は彼が何故に楊陳翔の弟子達に縛られ虐げられてるかだったか。それ私が原因と言いたいがだけど、何がしたいの?


「分からないと言いたげですね。これは貴方の為なのです。貴方を侮辱したから彼らは縛られてる。だから、彼らを嬲ってるのは貴方だ。知らないとは言わないで下さいよ?」


 ………はぁ???誰も頼んでないし、きっと、許思浩御本人もそんなの頼んでないでしょう、絶対。

 あんだけ人望ないのに?ようやく分かった事は許思浩は嵌められたと言う事。

 縛られてる彼らを見ればきっと見放すのだろうと言う目と言うよりはお前が主犯だとばかりに睨まれて。


 一緒について来た朱願凜に目線を向けると林游露を静かに見据えてる。今にも首を刎ねるだろうと思うほどだ。思わず自分の首筋を隠してしまう。

 あれだけ睨みつけてるが朱願凜は何か行動を起こすつもりがないと言うか我慢してる様にも思う。

 酷い目にと言うのがこの事なのか、それよりもまだ先があるのかはまだ判断が付かないがよく分からない人を頼るより自分が一番頼りだ。


 こういう時喋れないと言うのが不便で仕方ない。言葉も字幕に気を少し取られるから顔や仕草ばかりを見てられない。発音が違えばその言葉の奇異を察する事も難しい。不利だ本当に不利でしかないし、もどかしくて仕方ない。しかし、何が何でも発言するしかないだろう。

 私は紙に文字を殴り書いて、紙を前に出す。


「…へぇ、“頼んでない”と?ふふ、これが初めてじゃないと言うのに今更言い訳ですか?今まで黙って見ていただけなのだからこれからもそうすれば良い。冷静を欠くなど貴方らしくない。」


 嘲笑う様にヤレと短くそいつが言えば縛られてる人達は棒で殴られ、時に踏みつけられる。目の前で行われる理不尽に怒りが込み上げてくるし、私は正義の味方とかではないけれど少なくとも舞台に載せられたら演じて見せようとは思うタイプだ。助けなければと言う偽善的な思いが込み上げる。私は気がつけばきっとやろうとしてる事は出来もしないだろうに自らの剣を握り抜こうとしている。


「いけない。殺せばあなたの立場は更に悪くなる。」


 後ろから少し近づいた朱願凜がそう小さく言った。それは何も干渉しようとしなかった彼が行動した事だ。その声を聞けば彼も何か打開策を考えて怒りを抑えて、どうにか絞り出した声に思える。あぁ、彼は嫌われ者私が本当にやってないと知ってるのだと理解する。

 何故、私は偽善的に助けたいかと言う思いが来たのはきっとそこに縛られてる彼らは許思浩が本当に命じたのかもしれないときっと何処かで思ってると何となくわかるし、もはやあの中にはサクラのように私を陥れる為に縛られてる人もいるかも知れない。もしくは私の自作自演と思われて礼も言われないと思えるから。結局は助けたいのは私が嫌だからと言う自己満足で思ったからだ。

 朱願凜の言葉で少しばかり気持ちを落ち着けた私は自分とアイちゃんを頼るしかないと思った。


 アイちゃん、アイちゃん。この状況をどうにか出来たりする?


【提案します。

 一つ、林游露の顔面を殴る

 二つ、飛剣の術で縄と棒を全て切り裂く

 三つ、一と二の両方

 以上を打開策として提案します。】


 アイちゃん、意外とありきたりな事言うなぁ。まぁもちろん三つ目だよ!もっと地味かと思ったけどそっちの方がわかりやすいしね!


【かしこまりました。灯花との接続完了。戦闘サポート完了。視覚情報でお知らせしますのでそちらに従えば必ず殴れます。】


【サポートを開始しますか?  はい・いいえ】


 私は深呼吸をする。いざやるとなると足がすくみ、即答出来なかった。

 今も打たれる音に小さな呻き声が耳に付く。

 それを聞いてるとツキリと感情と情景が見える。


 それは“謝謝、謝謝…“とその視点の主は場に押さえつけられて心の中で謝り続けるだけの風景。けれど幼い子供数人が大人に鞭を打たれてる。状況は似てるのにその場所は全く異なりじめじめとした地下室で遥かに血や汚物、そしてもう原型が分からない何かが撒き散らかって吐き気が込み上げるほどの無惨な風景だ。

 字幕はきっとモノローグなのだろうか、ひたすらに自分を責める様な言葉ばかりが並ぶ。そして、ひたすらに熱くて痛いと泣き続けるのだ。


 その情景と比べるとこちらはまだ屋外で殴られてるだけなのだからマシに思える。

 この情景が何なのかはわからないけれど、気を緩めると悲痛と後悔の海に呑まれてしまいそうだった。


 ……アイちゃん。サポート開始して。


【かしこまりました。カウント、五秒前。三、二、一、サポートを開始します。】


 せめてこの情景の後悔を少しでも減らす為に、恐怖する足をカウント終わりに無理矢理踏み出す。同時に剣は白い閃光となって空に舞う。私は地面にマッピングされてる光りの輪をゲームの様に踏む。それはまるで体感型VRゲームの様だ。その指示のまま駆け抜ければあっという間に林游露の目の前にやってきてそのまま簡単に殴れた。

 殴った割に手は痛くないのはきっと霊力やら仙力ってヤツで殴ったからだろうか。

 殴られた彼は唖然と床に転がる。そして殴ったと同時に剣は私の下に戻った。


「な、な、お前!!!」


 周りは唖然と私を見ている。誰もが信じられないと言う顔で見てる。それは朱願凜ですらそうだ。きっと許思浩はこんな事をしないのかも知れない。けれど、あのさっき見えた情景は都合の良い解釈をすれば許思浩の記憶で彼はあの鞭打ちされて死に行く彼らを助けられない事を酷く後悔していたのだろうか。

 林游露は立ち上がり私に掴みかかり、そのまま押し倒されて馬乗りにされ、殴られ、暴言を吐かれる。


「ふっざけんなよ!!テメェは大人しくしてれば良いんだ!!奴隷の狗畜生風情が人様に手を上げて一丁前に反発だぁ?舐めやがって!!!」


 振り上げられる拳は痛い。何とか顔を守る様に腕ででガードする様には出来たけど、加減がされてる様には思えない。何かガード部分に幕の様な物が隔たってるから我慢出来る痛さなだけだ。

 流石に殴られながら字幕なんて読めずにひたすらに暴言を吐かれながら殴られる。

 あぁ、確かに朱願凜の言う通り酷い目に遭うって奴だ。助けたは良いけど殴られて、罵声を浴びて、私を誰も助けてくれない。

 でもきっとこの二つ聞こえる怒鳴り声の一つは朱願凜なのかも知れない。


 アイちゃん、打開策は?


【お応えします。今の状態が最善です。】


 …え?これが最善?こんなに痛いし、怖いのが?アイちゃん、本当なの?これが最善なの?


【はい。あなたを生かす為の最善解です。】


 生かす為の最善?許思浩は原作でもっと辛かったのかな?あ、拷問とかもされて最期は処刑か。これはまだ序の口な訳か。

 手の感覚は殴られ過ぎて麻痺してきた。これは後どれくらい続くのかなと思う。彼を殴ったまでは良かったけど、結局はそう言う役回りなんだろう。


 ここの原作部分ってどんななのだろうか。明日、時間があったら王芳にでも聞こうか。


 意識を逸らして別の事だも考えようと思った時、ぼたぼたっと液体が垂れて来た。

 そして、怒鳴り声も無くなり、無音になると代わりに静かさとピリッとした緊張感が感じられる。

 そろりと顔を覆い隠してた腕の隙間から覗くとさっきまで私を殴っていた林游露は手のあった場所からダラダラと血を流して唖然としていた。

 私の上にぼたぼたと落ちる液体はどうやら血らしい。

 そう林游露の手は綺麗さっぱりと無くなっていたのだ。


 それを私が認識したくらいに林游露もそれを理解した様で醜い断末魔を浴びて私から退いて尻餅を尽きた。

 身体を起こそうと腕を着くと痛みが走り何とか腹筋の力だけで起き上がれば静に誰かが私を支えて殴られた腕をそっと取った。


「……あぁ、折れてはなかったんですね。良かった。」


 私を支えて腕を取ったのは朱願凜だと言う事がわかった。しかし、その声は酷く凪いでいて恐ろしく思える。今も林游露は手が手がと喚いてる、中だから尚更だ。


「あぁ、血で汚してしまいましたね。」


 淡々と私の状態の見物をして、朱願凜は喚く林游露に何かを投げて、その青白く光る美しい剣先を彼に向けた。


「貴方の方が余程卑しい。あの人が許しても僕は許しはしない。」


 私からはその朱願凜が今どんな表情をしてるか分からない。朱願凜がさっき投げた物が切り取られた手である事に気が付いて、恐ろしさが込み上がる。そして、自分にこびりついたネトネトした生臭い血にも、林游露の腕の断面図も、どんどんと自分の頭で理解してきて、ついこの間の屍を切った時の事も思い出され、恐らくしくって気持ち悪くて仕方ない。


「お前達、何して……何この現状。」


 現れたのは楊陳翔だった。今日はよく見る男だと思う。彼は一回私を睨み付けたが血塗れでボンヤリと座り込む私に眉間に皺を寄せて、続いて朱願凜達の方を向けるとそれは明らかに嫌な顔になった。


「游露、なんだその無様は。」


「師尊…!あ、いや…これは……。」


「…朱願凜、その剣は何故私の弟子に向けられてる。」


「…許させざる事をしたので。」


「許させざること?手を切るほどの事か?」


 朱願凜は剣を林游露に向けるのを辞めて、楊陳翔に差し出して言う。


「それは……この剣が証明するでしょう。」


「…原谅か?何故お前がそんな宝剣を……もう良い。誰か、林游露を薬老師の所へ。他の者も昼時だ。散れ。」


 大きな溜め息が聞こえる。不機嫌そうな顔で私に近づく楊陳翔が腕を掴み上げてその字で変色した腕を見て予想外な顔をして訪ねてきた。


「何故、こうなった?状況からいつもと変わらず傍観してたんじゃないのか。」


 私は顔をいつも通りと言う言葉に引っかかる。許思浩はアレを日常的にされていたのかも知れない。


「誓言三生。怪我人にその触れ方は如何と。」


「それもそうだな。冷静君の話は後に聞くとして、朱願凜。この不始末罰は覚悟の上か?」


「はい。いつだってこの剣に誓い、この剣を振るう事を全てに責任と覚悟を持っております。」


 朱願凜は三本の指を立てて宣言する。

 その姿を見て余計にやりにくそうに顔を歪めた楊陳翔はなら良いと言い。二人ともついて来いと着物を翻して言った。


サブタイトルはいつもギリギリまで悩みます…。

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[良い点] 一体何が…⁉️冷静歌君はどういう立場なのか⁉️特殊ないじめ方法に急展開すぎて!
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