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十話 嫌われ者の許思浩

 帰り道は何というか、胡悠天の人形にでもなった気分だった。馬に乗れば何故か眠気に襲われて、目を覚ませば胡悠天が側から離さずに食事もいつの間にかある。そしてまた眠気に襲われて…何か術でも使われてるのでは無いかとしか思えなかった程。

 朱願凜と同乗した時はもっと疲れた筈だが酔っ払いの癖に安定感のある快適以外の何者でも無い乗り心地だった。解せぬ。


 そして、出会ってから鬼姫の事が終わるまでの付き纏いが嘘の様に朱願凜は姿を見せなかった。王芳はこっそりと様子を見に来て朱願凜の様子やら帰ったら時間を作ってくれとか言われた。

 王芳から聞く話だと一番の私の心配だった朱願凜の怪我は問題ないらしい、それには一安心だ。それどころかここしばらくの原作離れした行動はなく、それが逆に王芳は不安になるとの事。ついでにこの帰りの道中は原作ではサラリと流された場所だから不安がらず安心して胡悠天に運ばれると良いと励ましの言葉までくれた。


 その言葉の通り何事も無く、詩白龍派の正門を前までたどり着く。


「兄様に胡聯(フーリエン)。待って居たよ。相変わらずお前はお人形を愛でるのが好きだね。」


楊陳翔(ヤンチンシァン)。名で呼ぶなと何度言わせる。消え失せろ。」


 正門にたどり着くとそこには門番以外に一人退屈そうに立っていた。私達一行を見つけるとニヤリと笑って両の手を広げて嬉しそうに駆け寄りそう声をかけて来たのだ。


 えっと、彼は新キャラ?もしかしてまだ、メインキャラって出きってなかったの!?と言うかなんか何処となく楊師尊と顔が似てるし…胡悠天が楊って…。


【お応えします。彼は楊嘉睿の実弟。字を楊陳翔。号を誓言三生(セイゲンサンショウ)。普段は情報整理と書物の管理をしてる知識人です。その為、主人公達はよく彼の知恵を借りていました。後、彼と何かを約束するは非推奨しますのでご注意を。】


 あんなに軽い感じのパリピっぽい雰囲気で約束破り上等っぽいのに極道バリの大層な通り名をお持ちで…。確か三生って'前世、現世、来世'の事で三本の指を立てて三生に誓って嘘偽りはないと言うシーンは見覚えがある。俗に言うこの魂に誓ってってヤツだ。そんな、号が付くほどにこの男は約束事には厳しいと言う事なのだろうか。


「知っているとも口だけだろう。それに僕に尻拭いをされてるウチは文句を言うな。」


 胡悠天は押し黙り視線を少し彷徨わせた後、腰に常備されてる酒を飲む。酒は精神安定剤では無い事を理解した方がいいと思う。


「陳翔、出迎えなんて珍しいね。」


「兄様も伝書鳥を飛ばした癖に良く言います。この弟は一昨日帰ったばかりだと言うに。」


「ふふ、お前の好きな蔵書室で待っていて良かったのに。」


「ハイハイ、では早くお会いしたかったと言いましょう。」


 何というか…この兄弟仲悪いのか?会話が少し態とらしいと言うか、まるで気安い会話を演出してる様に表面的には仲が良い様に取り繕ってるが何かある感じだ。


 胡悠天は余程彼に関わるのが嫌なのか矛先が変わった途端に「失礼する。」とそそくさ正門を抜けた。胡悠天が動き出した事で他の弟子達もそれぞれ礼を一つして進み出す。


「胡聯はつれないねぇ。後でお前の部屋で酒に付き合ってくれよ。」


 胡悠天はガン無視を決め込んだ。きっと、あのタイプは押しかけるタイプなのでそれに巻き込まれません様にと祈るばかりだ。


 そんな、不安は杞憂に終わり、私はアッサリと自室に帰って荷解きをして湯網をし、床についた。

 胡悠天にアッサリと部屋に帰って休めと解放されて驚きはした。その後は誰にも会う事も無かった。詩白龍派に着いたのももう日が暮れる頃で夕食は正直食堂に行く気はあの居心地の悪さを考えれば全く起きず、部屋に保管してある果物を食べて終わらせそのまま寝た。


 朝、目を覚ましてふらふらと身支度をして常備の果物は昨日切らせたから仕方なく食堂に向かう。前回学んだので洗濯やらを掃除をまず済ませたからの遅い時間だ。そのおかげか廊下も人通りが少ないから静かだ。


「やぁやぁ、冷静君。相変わらずの遅い朝ご飯だね。僕も一緒にいいかい?」


 食堂はどうやらある種の出会いの場らしい。

 だからか、平和に朝食を終えられると言う事ないらしく、食堂に入ってすぐに後ろから愉快そうな声で肩を抱かれた。

 声を掛けてきたのはどうやら、昨日お初の楊師尊の弟の楊陳翔だった。


「んー?珍しい。お前が髪飾りなんて付けてるなんて。どうせ、奪われるか、捨てられるか、売られてしまう末路なのを理解してる癖にねぇ。それとも誰かに付けろと言われたのかな?あはは、何を言われようと情を向けず黙って言いなりになる冷静君だからね。でも、よく似合っているよ。」


 ペラペラとよく回る口だと思った。どうやら、彼はパーソナルスペースの狭い人種らしく、距離がずっと近い。今も肩を組んだままに私の三つ編みに結われた髪の毛先にある朱願凜から貰った組紐部分を弄ってる。昨日も人好きのする顔で馬に乗ってたから今みたいに肩を組まれる事なんてなかったが楊師尊や胡悠天の側にだいぶ近寄っていた。


「なんだい?嫌だって顔だね。僕が纏わりつくのはいつもの事だからそうだな。何故、いつもみたいに冷静歌じゃないのかって事で不機嫌なのかな?お前は本当黙ってばかりだから違和感も無ければ誰も気にしないが、驚く声すら漏れないのを聞くと本当に声が出なくなったのだと思ってね。歌えないお前は冷静歌君なんて号が似合わなくなった。今は冷静君で充分さ。どの道この号は悪口の嫌味でしか無い。外では良い様に解釈されても元は変わりはしない。」


 そのままマシンガントークは続いて、食事の注文も流れでされてしまうし、席も勝手に決められた。

 どうやら、私の意見など一つも聞くつもりはないらしい。と言うか所々に嫌味と言うか悪口と言うか…嫌われてるのだろうなと思える様な言い方をされる。


 しかし、今の私にはそれすら有難い情報が混ざっていた。

 許思浩の私物が少ないのはどうやら周りが原因だった様だ。奪われていたから部屋には最低限の物しか無かった様だ。


 それに喋らずとも碌に困らなかったのは基本がしゃべらないからの様だ。胡悠天や朱願凜、それから楊師尊としか会話らしい事は無かったし、彼等は自然だったから私は気付かなかっただけで、確かにあれだけ喋らずに居たのに何も言われないし、普通に喋れる時の様に話を振られて気まずくなったりする場面もあって良かっただろう。


 しかし、まさかこの冷静歌君と言う号が悪口の一端だったのは驚いた。アイちゃんも朱願凜も褒めてたから尚更。そもそも、王芳も何も言わなかったからこれは裏設定とかなのだろうか。確かにこれ程ここで陰口や私物を奪われるほどに嫌われてる許思浩に凛とした美しい声を持つ物静かな歌君なんて褒め言葉似合わない。これが嫌味だと言われた方が納得だ。そもそも、'君'って偉い人とかに付ける言葉だったよねと考えれば、本当に嫌味な号なのだろう。


「冷静君は胡聯のお気に入りで怪我をさせれば清酒劍士が怒り狂う。だから、目立つ怪我をしないだけでアイツの目の届かない様に皆器用にお前を虐げる。まぁ、僕も同じだ。僕はお前が胡聯の唯一だから嫌い。他はお前が奴隷上がりだから虐げる。兄様が優しいのは胡聯のお気に入りだから。お前を僕は虐めたいのにお前はそれを受け入れてしまうのが僕は本当につまらない。」


 この人は本当にベラベラと色々喋ってくれるなぁと感心する。胡悠天が好きなのかって思わせる事を言うし、私を虐めたいと言う割には絡んでくるだけ、何したいんだこの人。


「……冷静君、お前」


「許師兄。」


「…ねぇ、そこはまず僕の名前から呼ぶのが礼儀じゃないのかな?」


 何かを言おうとした楊陳翔の言葉を遮ったのはしばらく姿を見なかった、朱願凜だった。

 現れた、彼に不機嫌を隠さずに立場の上の者の名前を先に呼ぶのが礼儀だろうと楊陳翔は言う。それに対して、あぁ、貴方でしたかと今気が付いたと言い訳と謝罪をして言い直した。


「…朱願凜だっけ?どっかで修行してたっぽい癖にウチで態々結丹の仕上げして、態々ウチの内弟子になった変人がなんの用事?」


「楊師尊の弟君である貴方に認識をしてもらえてる様で何よりです。僕は別に貴方に様があるわけじゃありませんよ。師兄と約束があったので探していたのです。」


「それは僕の言葉を遮ってまでの約束かな?三生に誓ったと?」


「貴方は直ぐに重く捉える。僕は謝罪しましたよ。貴方だとは思わなかったと。」


 ひ、ひぇ…、何この険悪ムード。朱願凜って主人公でしょ?この楊陳翔って人も主人公の取り巻きの一人って認識なのだけど…あ、あぁ、もしかしてあれ?ケンカップルって言う枠?それなら解るわぁ…。良いよねケンカップル。ツンケンしながらも互いを思い合うの…。


【……違うと推察します。】


 アイちゃんは余り現実逃避をさせてはくれないらしい。いやさせてはくれても良いじゃん。勝手に選ばれたお粥とこれは小籠包っぽいやつももう食べ終わるったしもう席だって逃げていいかな。

 だけども、睨みを効かせた楊陳翔は席を立たせる気は無く僕の髪の毛と言うか組紐辺りを弄ってる。それを見ながら朱願凜は冷ややかな笑みを浮かべてるだけだ。

 その態度に何かを思ったのかニヤリと笑って楊陳翔は口を開く。


「思った通り、性格悪いねお前。」


「貴方が思うままに。…お話の途中でしたのでしょう。僕は待ちますので気が済むまでどうぞ。」


「ふーん、もう良いよ。何聞こうとしたか忘れちゃったし、冷静君も僕もご飯食べ終わっちゃったから。それじゃあ、またご飯付き合ってね。」


 朱願凜が遮った言葉の時に少しピリッとした雰囲気で何を言われるかと思っていたけど、それを忘れたと言って彼は席を立ち去ってしまう。そう考えると空気が変わったのは私の気のせいだったのかもしれない。確かにあれだけのマシンガントークだ。本人は雑談と言うか壁に話しかけてるに過ぎなかったのだろう。


 それよりも、約束なんてしてもいないのに約束があると言って近寄ってきた朱願凜の方が何を考えてるのかと言う方が今は重大だろう。


「許師兄、すみません。お話の邪魔をしてしまいました。でも、何やら困ってた様でしたので咄嗟に約束があるなどと嘘をついた僕をどうか許して下さい。」


 重大だろう……ってなんだろう。困ってたのは確かでだから助けてくれたって事?探ろうとしたらその前に答えを提示された私はこれは素直に受け取っていいのか悩む。もう鳩が豆鉄砲食らった気分である。


 あーもう、朱願凜さんはキラキラでピュアな主人公のはず!


 私はそう信じたいとヤケになって“助かった“と一言書いた紙を見せると、朱願凜は柔らかく笑う。本当に良く笑う人だと思う。


「助けになれたのなら良かったです。この後はあの蓮池に?」


 ん?何故蓮池に?確かにこの後の予定はなんだかボンヤリとしていて何したらいいか、どうしようかと思っていたけど何かそう思わせる理由があるのだろうか。だから、“何故?“とメモに書いて尋ねる。


「いえ、あのよくその時間に見かけたので。よくあそこで瞑想や歌の稽古をしてるのかと。」


 あぁ、確かに頻繁に行ってるらしいとかアイちゃんも言っていたからきっとそうなのだろう。嫌われてる許思浩の安心できる場所でもあったのだろうか。

 朱願凜の反応を伺えば、何やら悩む様に目線を彷徨わせてる。何故と聞いたのは悪かったのだろうかと不安になって、トンと机を叩いてこちらを向かせて何かあるのかと首を傾げて見せると目を合わせて少し困った様に口を開いた。


「……本当は言うつもりはなかったのですが、今日は修練場には行かない方が良いかと思います。きっと、酷い目に遭う。もし、行くので在れば僕が伴ってもよろしいですか?」


 修練場、確かに今日この後行く場所の候補の一つとして考えてはいた場所だった。しかし、それこそ何故酷い目に遭うなんて言うのだろうか。許思浩は確かに嫌われてるから人の集まる所では何かしら嫌な目には遭いそうな予感はするけど…何か誰かが来るとか賭けの大会とかイベントじみた事でもあるのだろうか。


 “何かあるのか?"


「あぁ…その…そう、占星術でそう出たので。」


 気まずげにそう言ったその言葉に拍子抜けする。


 占星術?えっと星占いの事?


【はい、占星術は古代バビロニアを発祥とする太陽系内の惑星などの天体の位置や動きなどと人間や社会のあり方を経験的に結びつけ占うものです。主に西洋占星術、インド占星術、東洋占星術の三つに大別します。此処では東洋占星術を指してると思われます。】


 あーうん、ありがとう。しかしまさかの星占い。私の馴染みのあるのは朝のニュースで見る様な十二星座の西洋占星術だからいまいち、東洋のはどんなのかは分からないけど…多分、陰陽道関連の様なモノって認識だから、陰陽から仙術にも通じててもおかしくないとは思う。しかし、まさか占いの結果が悪いからって理由なのには驚いた。


 これって、言った方がいいと思う?


【アイは推奨します。】


 まぁ、占いは占いだから必ずしも悪い事が起こる訳じゃないよね?予定が空白より埋まる方が楽だし。


 私は朱願凜に“修練場に今日は向かう予定だ"とメモで伝えると目を伏せてわかりました。伝えてくださると言う事は伴うのも許してもらえたという事ですね。と不安げだが言われる。

 それに頷いて、私は食べ終えた食器を片付けて朱願凜と共に修練場へと向かった。


 この後、朱願凜の占いの通りに本当に酷い目に遭うとは知らずに。


話数も二桁になりました。

読んでくれる人がいると思うと頑張れます。

楊師尊の弟くんをやっと登場させられましたので彼の事もよろしくお願いします。

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