04、モフモフが大好きなため 隠しダンジョンを見つけた
「うわ!海なのじゃ!」
広い森から抜けた先に、見渡す限り果てしない海が三人の目に映る。
「わっ、船が見えたよ!」
「船?どこなのじゃ?」
「嘘!アヤメちゃんは見えないの?」
「水平線以外は何も見えないのじゃ!」
「バカ~ メアリーの視力は僕たちより何倍も強いじゃない?ほら、もうすぐアルミの村に着くよ!もう見えるだろう?」
ライナーの指す方向に眺めると美しくて静かな村の姿が三人の目に映る。
勿論、村の全景をもうメアリーは一望のうちに収めていた。
三人が村へ向かう際に、メアリーは逆の方向で何か光るものに気付いた。
「二人とも待って、あそこに何かあるよ」
「なに、どんなもの?」
「空に浮かんでいる金色の水晶みたいなものだ」
ライナーは話を聞くと興奮して二人の手を引っ張って走り出す。
「ライナー、いきなり何のつもりなのじゃ!」
「アレだ!隠しダンジョンだよ!」
隠しダンジョンとは、入口がある一定の範囲内にランダムで現れる特別なダンジョンである。基本的に一日一回しか現れない。しかも、1パーティーが入ると、入口が直ちに消える。
ライナーが急いで二人を連れて走るのはこれのためだった。
「やはり間違いない!今日は本当に運が良かったよ!早く入るよ!」
ライナーが水晶に触れる瞬間、三人は眩しい光に包まれる。
再び目を開けた時。
そこは天国のように美しい庭だった。
生き生きをしている鮮やかな花が咲き誇っている。茂った青草が風にそよいで「サラサラ」と音を響かせていた。
「アレ?ここはダンジョンかしら?」
「どうやら、ここは噂の[黄金の林檎の庭]のようだ。ラッキー」
「でもよ、あたしたちって大丈夫なのじゃろうか?確かランクCのダンジョンのじゃぞ」
[黄金の林檎の庭]とは、β版に開発者からの悪意の塊と呼ばれる中級ダンジョンであった。ダンジョンをクリアのため、レベル30以上の5人で協力しなければ攻略できないのだ。
しかし、三人の中でレベルが一番高いライナーはレベル10しかなかった。
「どうしょう……このままお手上げか?せっかく村がもう目の前なのに」
「でもよ、せっかくメアリーちゃんのお陰で見つけたのに、このまま逃げ出すと悔しいのじゃ!」
二人の話し合いを聞きながら、メアリーは道具欄の石を確かめ、少し考えると提案する。
「二人とも、三人の力を合わせると、クリアできるかも!」
「「ええええ! ほんと(なのじゃ)?」」
「ええ、私に考えがある……」
三人は庭をじっくりと進んでいると道の両側から次々と毒々しい色のクモとヘビが草むらから這って突撃してくる。
「炎よ!全ての敵を灰燼に帰せよ!」
メアリーのチートみたいな視力のお陰で、敵が近づく前にアヤメの魔法で打ち倒したのだ。
あっという間に、ボスの部屋は目の前に現れた。
「よーし、次は右へ!いっくよ!」
三人はボスの部屋を無視して、右に曲がって探索し続ける。
これはメアリーが考えた作戦であった。
自分の索敵能力とアヤメの高威力魔法を活用し、無傷でダンジョン内の敵を一匹残らず打ち倒す。できるだけレベルアップさせて、攻撃を受け止める用の捨て駒石を大量に集める作戦なのだ。
メアリーは確かに動物好きだけど、クモとヘビのようなキモイ生物に対して、何の慈悲もないのだ。
およそ一時間後、全てのモンスターは三人にぶっ殺されていた。ある意味で、可哀想かもね。
メアリーはレベルを7にアップさせて、全てのMPを全部用いてコピーしていた。[複製Ⅱ]から[複製Ⅲ]にレベル上げる一方、攻撃を食い止める為の召喚石もたくさんもらえていた。
ゲームを初めてやったばかりのメアリーはどうしてこのような発想ができるだろうか。新井家一員としてゲーマーの血が流れているのは間違いないだろう。
「では、準備万全だよね。僕が門を開けるよ!」
ライナーは両開きの扉を力込めて押し開ける。
まるでギリシャ神話に書かれる神々の居場所のような神殿が明らかになる。
三人が綺麗な景色に夢中になるのと同時に、後ろの扉が消えてしまった。
「不味い!逃げ道がなくなってしまうのじゃ!」
三人が慌てる際に、神殿の入口に全身が黒曜石のように真っ暗なドレスを纏う不気味に笑う女神の姿が現れた。
「これがボス?女神じゃないかしら?」
「あれはエリスなのじゃ!黄金林檎の神話なのじゃ!」
「攻撃が来るぞ!逃げろ!」
二人がボスの起源について討論する時。
ライナーは既に敵の動きに気付いた。
ボスが細長い両腕を上げと魔法陣が輝き、金色のビームが放たれると三人に襲い掛かる。
攻撃に気付いたライナーが横にジャンプして避けたが、ビームが真っ直ぐに二人に襲い来る。
「いっけい!」
メアリーはビームに向けて捨て駒石を投げ出す。
「ボムッ!」とハチが爆発で姿が消えてしまった。
幸いにもボスの攻撃は貫通攻撃ではなかった。貫通攻撃であれば、今の攻撃で二人がすぐ倒されてしまっていた。
「二人とも、防御は任せて!思う存分に攻撃してください!」
「ラジャー!雷よ!敵に裁きを下せ!」
アヤメが詠唱すると魔法陣が輝き、雷が空からボスを直撃する。ボスは麻痺状態になったので、動きが停まった。
このタイミングに乗って、ライナーが既にボスの後ろに辿り着いて続けざまに数回斬った。
「出でよ!トラハチ!」
メアリーは二つの召喚石を投げ出すと、二羽のハチが現れて針でボスを突き刺した。
三人からの繁吹き雨みたいな激しい攻撃により、ボスの上に表示されてるHPゲージが半分に減ってきた。
この時、ボスの攻撃パターンが急に変わっていた。
ボスがピカピカとして金色の光を放って、無数な金色の林檎を召喚させて自分を守るようになる。
「あたしに任せて!紅蓮の炎よ!敵を焼き払え!」
火の玉を林檎に向かい飛ばした。当たる瞬間、林檎は爆発を起こした。
ライナーと二羽のハチが爆発に巻き込まれてしまった。
ライナーのHPがあと僅かだけ、ハチは即座に消えてしまった。
ボスが地面に倒れているライナーを狙いビームを放つ。
「いっけい!いっけい!ライナー!早く逃げてください!」
メアリーは捨て駒石を次々とライナーのところに投げ出し、ボスの攻撃を食い止めるようになった。
しかし、重傷にされたライナーは立ち上がる力さえも残っていなかった。
再び爆発を起こさせることを恐れたアヤメは何もできず、ぼんやりとそこに立ちつくしてしまう。
戦いが窮地に陥ってしまった。
「ライナー!早くポーションを飲んで!」
「ダメだ!さっきの戦いで全部飲み切っちまった!」
「なら、これを受け止めてください!」
メアリーはメルラから貰っていた僅か二つのHPポーションの一つをライナーに投げ出す。
残念だが、瀕死状態に陥るライナーが受けそこなってしまった。
ポーションは割れて赤い液体が彼女にこぼれたが、
直接ポーションを飲む以外には効果がない為ライナーは回復しなかった。
この瞬間、システムの効果音がメアリーの耳もとに流れる。
『スキル:[ポーションスロー]を習得しました』
「すっ、スロー!確か投げるって意味だが……これを賭けるしかない!いっけい!」
メアリーは最後の希望をライナーに渾身の力で投げ出す。
ポーションがライナーに当たる瞬間に、メアリーは奇跡を起こしていた。
ライナーが回復の光に包まれて立ち上がっていた。
「ライナー!早くボスから離れてください!」
「わかった!サンキュー、メアリー」
林檎を攻撃するとすぐ爆発が起こる。続いて新しい林檎が召喚されてしまう。
窮地に陥る戦いはまだ終わりが見えないのである。
「もうダメじゃ!勝つ方法も逃げる方法もないのじゃ!」
「アヤメちゃん!落ち着いて、勝つ方法を思いついたよ!」
お読みいただきありがとうございます。
[ポーションスロー]
ポーションを投げて回復を行う、回復効果は半分である。消費MP無し
習得条件
[複製]スキルを100回以上使用した上、ポーションをプレイヤーに投げること。(プレイヤーに受け止める場合にはスキルを習得できない)
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