11、モフモフが大好きなため シノン川を渡る
「二人は遅いね……フンフン~ 私の新装備を見るとどんな反応が出るかしら?」
三日連続ログインしたメアリーが鼻で歌を歌いながら、広場にライナーとアヤメを待っている。
「メアリー、お待たせ。遅くてごめん」
「メアリーちゃん、お待たせしたのじゃ!ほほ~ 凄い装備なのじゃ!」
「でしょう?流石アヤメちゃん、いい目つき。これ程だけではないよ!早く町の外へ行こう」
メアリーは二人を連れて早足で町の外へ走り出す。
「って、僕たちに見たいものは一体?」
「フンフン~ 今すぐ見せるよ」
メアリーは胸を張って、思いついたばかりのセリフを唱える。
「深淵から来たる魂よ!我が命ずる命に従い、闇の深淵から姿を現せよ!」
メアリーの詠唱と共に、地面に黒い魔法陣が現れてフェルを召喚した。
「おおお!可愛いのじゃ!この子の名前はなんじゃ?」
アヤメはフェルを見ると、直ちに抱き締めてから顔をくっつける。
「フェルっていう名前だよ!可愛いでしょう!」
二人が犬と戯れている時。ライナーはずっとある距離を守っている。
それに気付いたメアリーが訪ねる。
「ライナーはうちのフェルが嫌いかしら?」
「ほほ~ メアリーちゃん、それは……」
小悪魔のように笑うアヤメはメアリーの耳元に小さな声でひそひそ話をする。
「ええええ!!犬が苦手!嘘!?」
「いっ、犬なんか怖くないぞ!」
「ホントウなのじゃな?ほら」
アヤメはフェルを抱き上げてからライナーに近づく。
「ほっ、ほら、こわくなっ、ないよっ、よね」
「フェル、ワンなのじゃ!」
「ワン!」
「ぎゃーっ!」
さっきまで強がりを見せるライナーが即座に慌てて木の上に逃げた。
「「ウフフ~ アハハハハ!」」
「お前ら!!!」
その後、二人は何度も宥めかし続けたあげく、ライナーがやっと降りたのだ。
メアリーは昨日のことを二人に教えて、一緒に今日のやることを考えている。
「という訳で、二人の職業クエストも同じ隠すボスがあると思うよ」
「うん…… 正直言うと、あれが僕たちで勝てる相手じゃないよ」
「そうなのじゃ! 少なくともレベル30以上の二次職でなければならないのじゃ!」
「二次職?」
「メアリーが知らないか? レベル20までに上げてからクエストをクリアしたら、二次職に転職できるよ」
「へいい、そんなクエストがあったかしら? 難しいかしら?」
「勝ち目がないとは言えないが、クエスト開始の場所はベルディナ村だ」
ベルディナ村では、王都の南に位置するミノン川の反対側にある。
村に行くために唯一の方法はシノン川の下流にある地下洞窟で遠回りするのだ。
しかし、洞窟内に強いモンスターが沢山いるため、四組以上のパーティーで協力しないと通り抜けできないのだ。
「成る程。でもよ、泳いで行けないかしら?」
「そんなに簡単ではないよ、水の中にたくさんの[デビルウオ]がいるのじゃ!」
「まぁ、ひとまず置いて置こう! レベル上げましょう」
二人は立ち上がってモンスターを狩りに行こうとしたところに、メアリーが声を掛ける。
「川を渡られるよ!」
「「えええ!本当〈なのじゃ〉!!?」」
「そうよ、うちのフェルは水泳ができる。そして、あの魚が全然怖くないよ」
「しかしよ!フェルの大きさでメアリー人なら大丈夫かもしれないが。三人なら絶対にムリよ!!」
「そうじゃよ!無理なのじゃ!」
メアリーは立ち上がって、自信ありげににっこり笑う。
「フェル!真の力を見せろ!幻獣化!」
フェルは幻獣の姿を現すと、まばゆい陽光は漆黒の皮毛をキラキラと光らせる。
それと比べると、アヤメは目がより一層ピカピカにして、即座にフェルの背中に跳び上がった。
ライナーは …… 「ぎゃー!」と叫びながら、再び木の上に逃げたのだ。
「これぐらいで大丈夫だよね」
「そうじゃ!これで三人でも乗れるのじゃよ!ライナー、早く降りて、出発するのじゃ!」
「やだやだ!そのボスキャラは何よ!!!」
「ボスの頭が三つよ、うちのフェルはボスじゃない!」
「そうじゃ!ボスキャラ何て、失礼なのじゃ!フェルちゃん可哀想なのじゃ!」
宥めかしたり説得したりしたあげく、ライナーがやっと降りたのだ。
「ベルディナ村を目指して、出発っ!」
三人はフェルに乗って、シノン川へと駆け出す。
通うプレイヤーはボス見たいな狼が少女たちを乗せるのを見て、慌ててネット掲示板に書き込まれる。
「これはシノン川かしら?凄い広さよね。フェル、行くよ!」
命令を受けたフェルが身を躍らせて川に飛び込んで、可愛い犬掻きで前へと泳ぐ。
昨日と同じ、沢山の[デビルウオ]がフェルの周りに集まって襲い掛かる。
勿論、[VIT]を越えない[STR]の弱い攻撃はダメージを与えるはずがないのだ。
アヤメがキラキラしている魚さんを見て疑問を口にする。
「ね、魚を倒したら、EXPが得られるのじゃ?」
「わかない…… 昨日も試していたが、HPが全然減らなかったよ」
「ひょっとしてバグなのじゃ?ライナーはどう思うのじゃ?」
「僕に聞かないでくれ!まだ対岸に着いてないか!!」
犬が苦手なライナーは先ほどから目を閉じてしっかりとフェルの体毛掴んでいて、震える声で叫び出す。
「ライナーはもうダメなのじゃ。雷よ!敵に天罰を……」
「ばっ、バカ! やめろ!」
震えているライナーが雷を放ってみるアヤメを阻止する。
「えええ!何で邪魔なのじゃ?」
「あのな!水に雷で攻撃するなんで!全員が電撃で町に戻りたいか!!」
「あっ、そうじゃ!忘れちゃった、えへ~」
そう、水に電気を流すと感電するのは、リアルの常識だろう。でも、ほとんどのゲームはそれまでに考えていないのだ。【NFW】はこのような精密なところをちゃんと出来たのだ。
しかし、これ程に予想できたのに、何故メアリーの行動を読めないだろうか。はやり、メアリーの行動は非常識であったのだ。
「そういえば、水の流れがちょっと速くなったと思わないの?」
「そうじゃよ!さっきからだんだんと早くなるのじゃ!まるで何かに引っ張られているようだのじゃ!」
「アヤメ!そんな不吉な言葉をやめろ!!」
ライナーの叫び声がまだ静かな川に響き渡って間に、激しい流れの音が聞こえた。螺旋状の渦巻きが三人の前に現れて物凄い力でフェルを中心へ引ってしまう。
「嘘なのじゃ!何で渦が現れたのじゃよ!?」
「お前の忌まわしい話のせいだ!!!バカアヤメ!」
「フェル!頑張って、早く渦から離れろ!」
フェルが渾身の力で渦巻きから離れるが、激しい水流の前に何もできなかったのだ。
「「「助けて!!!」」」
三人は渦巻きに呑み込まれてしまった。
「メアリー!しっかりして!」
「あっ、あれ……ここは?」
「知らない洞窟なのじゃ。ほら、ここはとっても綺麗なのじゃ!」
目を覚めた三人が知らない場所に身を置けた。
立ち上がたメアリーはアヤメの声に辿って周りを見渡す。
天井と壁が夜空のように星々が光っている。地面に生えている色とりどりの珊瑚が輝いている。まるで俗界を離れた静かで清浄な仙境のような場所である。
「きっ、綺麗!そうでしょう、フェル」
「フェルちゃんはいないのじゃよ。目が覚める時は三人しかないのじゃ」
「えええ!フェルはそう簡単に倒されるはずがないよ!」
慌てるメアリーはすぐスキル欄を確かめる。
「良かった、召喚を解除されただけだ」
「こっち見て、扉に何かが書けてるぞ!」
お読みいただきありがとうございます。
今日はシノン川を紹介します。
シノン川
王都フランクスの南に位置する幅広い川である。
泳ぎで川を渡る者を防止するため、川に超強力な[デビルウオ]が生息している。
シノン川の下流にある地下洞窟を通り抜け、インスシュライター王国の最後の村ベルディナに着ける。
この度、自分の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。
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