ゲットだぜ!
しかし、効果はないようだ!
武士たちはそれぞれに刀を抜き放って向かっていく!
いやー、予想通り攻撃が通ってないわー。
連携も良いし、それぞれの練度も結構高いしで、順当にいけば武士たちの圧勝で終わる筈のつまらない戦闘。
だけども、装備が粗悪品であるが故に、攻撃という行為が機能していない。
蜘蛛の硬い甲殻を貫けていない。
全力で切り付けて、少し傷が付く程度。
こういう場合は、関節とか、甲殻の継ぎ目とか、目玉とか、その辺りを狙ったりするもんだけど、蜘蛛の方もそこが弱点だと分かってるんだろう。
そこだけは巧みに躱している。
一方で、蜘蛛の方も攻めあぐねている感じ。
ヒット&アウェイ戦法で、しかも連携して常に囮役や攻撃役などが流動している武士軍団は、単騎で、彼らを一撃で確実に殺せるほどの力を持たない蜘蛛では、翻弄されるばかりである。
一人に注力する事も出来ず、防戦一方だ。
流れを変えるべく、蜘蛛は時折、糸を出したりしているのだが、尻の射出器官からだし、事前動作が必要な為、タイミングが丸分かり。
正直、警戒に値しない。
なんつーか、千日手な感じ?
先に体力とか集中力の途切れた方の負けになるかね?
見てる方としてはとても退屈です。
いや、連中は今まさに命を懸けた死闘をしているのだから、これは失礼な感想だとは分かるのだけどもね?
で、まぁ、そんな感じで一時間くらい経ちました。
蜘蛛の被害、足二本ばかし。
武士軍団の被害、三人が疲労によって後退。残り六人。
まぁまぁ良い勝負してるけど、どちらかといえば、武士が優勢かね?
武士たちは交代して疲労を抑えているけど、蜘蛛は単騎で全てに一人で対処している。
おかげで、疲労が見え隠れしている。
動きにキレも無くなってきているし、その内、動けなくなって袋叩きに遭うだろう。
妙な事でも起きなければ、間違いなく武士の勝ちだろうなー。
順当過ぎてつまらんなー。
なんて思っていたのが、フラグにでもなったのだろうか?
蜘蛛が、何の前触れもなく口から、そう、尻ではなく口から糸を吐き出したのです!
いやー、これには驚きですわー。
今までそんな素振りを一切見せていなかったのだから、警戒も薄れますわー。
少なくとも、私なら余裕で喰らう。
魔王とドンパチやっていた時代なら余裕で対処できるというか、常に防御障壁を多重に展開してたから不意打ちで直撃受けてもビクともしない。
だけど、今はそんな事していない、っていうか出来ない。
だって、魔力足りないし。
常時展開とか、馬鹿みたいにエネルギー食っちゃうんだからな!?
で、そんな不意打ちを躱せる訳もなく、武士軍団の約半数が糸に絡め取られる。
連携が崩れてしまう武士たち。
これはやばい。
個々の性能では、蜘蛛の方が高いのだ。
烏合の衆は群れてこそ。
数の利、連携の利を失った武士軍団に、蜘蛛が襲い掛かる。
とはいえ、その動きは威嚇みたいなものだ。
多分、逃げる気満々なのだと思われる。
しかし、威嚇目的のものでも、怪物の力でじゃれつかれれば脆弱な人間では本気で命に係わる。
なんとか糸から逃れて自由に動けていた二人は、軽く蹴散らされて、一人に至っては胴体にでかい風穴を開けられて、完全に致命傷だ。
そうして、邪魔する者がいなくなったところで、蜘蛛は予想通りに逃走に入った。
中々の逃げ足だな。
まぁ、あっちは後で対処するとして、緊急性があるのは武士軍団の方だな。
糸に絡め取られた連中は、なんとか脱出しようともがいている。
で、やられた二人の内、傷が軽い方が、致命傷の奴をなんとか助けようと自分の事そっちのけで治療している。
致命傷じゃないとはいえ、結構な重症なんだけど、頑張るねー。
放置していても良いと言えば良いのだけど、助ける手段があるのに見捨てるのは人間としてどうなのよ?
という訳で、まぁファイトマネー代わりに助けようと思います。
猫ちゃん猫ちゃん、ちょーっと君の身体を貸してねー?
快く操作権をくれた。
いや、使い魔契約を持ちかけただけなんだけどね?
ちゃんと向こうにも利益あるのよ?
知能とか激増だし。能力も色々と付与されるし。
まぁ、一種の猫又化したような感じだけど、それを私と契約するだけで得られるとあって、あっさりと乗ってくれた。
動物、組し易し。
と、そんな感じで自由にできる身体を得た私(猫)は、ひょいひょいと身軽な動きで武士たちに近寄っていきます。
「な、なんだ!?」
近寄る私に気付いた治療中の武士が、刀を手に警戒してくる。
まぁ、魔力隠してないからな。
新手の魔物だか妖怪だかと思われても仕方ないかもしれない。
取り敢えず、お前の傷は軽いからさくりと《ヒール》をかけて癒す。
ちょっと強めにすれば一発治癒だぜ。
あと、治療の邪魔をされても面倒だから、《スリープ》をかけて眠らせておく。
で、糸に絡んでいる方には、《ファイア》の魔法を飛ばしておく。
蜘蛛糸は火に弱いというのは定番だしね。
きっと大丈夫だろうよ。
駄目だったら、他の手段を考える。
問題は、致命傷武士君。
こいつが厄介。
胴体にでかい風穴が開いているのも問題だけど、盛大に毒が入っているのが何よりもまずい。
中々強力な死毒だ。
象とか鯨でも殺せそう。
解毒魔法は……面倒だな。
あれ、毒によって術式を変えないといけないから、毒の詳細情報がないといかんし。
無敵に万能な解毒は相応に魔力を消費する。
ぶっちゃけ、今の私の魔力ではそれだけで枯渇する。
風穴の治療まで持たない。
だから、手っ取り早く毒を吸い出す事にする。
まずは《アナライズ》の魔法で武士の状態を確認し、その情報をもとに《アブソーブ》の魔法で毒だけを吸い出していく。
神経は使うけど、代わりに魔力消費はかなり抑えられた。
やったぜ。
で、あとは風穴の方な。
これは、単なる《ヒール》じゃ難しい。
盛大に内臓も潰れてて、部位欠損と扱いとしては変わらないし。
《ヒール》で治せないとは言わないけど、今の私には無理。
だから、もっと高位の、部位欠損すら治す治療魔法が必要になる。
術式は覚えてるし、魔力も足りるから使えるんだけどさー、多分、猫ちゃんとの接続は切れちゃうなー。
魔力不足で。
まぁ、その時はその時だ。
すまん、猫よ。
この後、殺されちゃったりしたら、ちゃんと骨を拾って墓を作ってやるから、許せ。
って訳で、《ミラクル・ヒール》展開!
その名の通り、奇跡の如き回復魔法ですよ、奥さん!
あっという間に風穴が塞がり、失った血液も補充されて、ビックリするほどに血色が良くなる。
あと、ついでに細かな身体の異常も全部まとめて治癒して、ザ・健康体! へと早変わりする武士。
で、やっぱり、予想通りに魔力が尽きて、使い魔猫との接続が切れてしまった。
いや、本当にすまん。
ゾンビでも良いなら、後で必ず生き返らせてやるから、本当に許してくれ。
七代祟るとか、言わんといて?
~~~~~~~~~~
そして、私(本体)の方は、軽く《ゲート》を開いて蜘蛛の方へと向かっていた。
逃げきれて休んでいた蜘蛛の頭上に出現した私は、そのまま重力加速度キックを脳天に叩き込んでやる。
しかし、ダメージはないようだ。
まぁ、私、四歳児だし。
体重とか、一五キロくらいだし。
そんな程度の威力では蜘蛛の甲殻なんて割れる筈がない。
その前に私の足が砕けるわ。
私の襲撃、とは思っていないだろうが、私の出現に気付いた蜘蛛が、涎を垂らして向かってくる。
いやー、餌を見る目ですね。
私が喰っちまうぞ、テメー。
まぁ、美味しそうに見えるのは分からんでもない。
特に鍛えている訳でもない四歳児とか、柔らかい肉にしか見えないだろうし。
魔力も使い果たしてて、威圧感とかまるで感じないだろうし。
だけど、テメー、私を舐めてんじゃねーぞ?
何の勝算もなく来る訳ないだろうが。
私は、首に下げた飾りを、指先で軽く叩く。
総魔鋼製回路を搭載した、最新型魔力炉である。
一分しか持たない欠陥品とはいえ、その出力は並みの生物を遥かに超越する。
起動した瞬間。
莫大と言える魔力が立ち上る。
その余波を受けて、蜘蛛がビクリと痙攣するような震えと共に動きを止める。
そして、ガタガタと震えあがる。
気持ちは分かるぞ、蜘蛛よ。
雑魚だと思って近づいたら魔王でしたー、っていう気分だろう。
あの時は死ぬかと思いました。いや、ホントに。
一歩、また一歩と近付く。
その度に、震えが大きくなっていく蜘蛛。
可哀想に、こんなに怯えるなんて。
今、私が楽にしてやるからな。
なので、使い魔契約の申し込みをしてみました。
この恐怖から逃れられるならば、と言わんばかりに即行でOK貰えました。
いやー、やっぱり力に訴えるのが一番手っ取り早いね!
いよっしゃー! 蜘蛛、ゲットだぜー!
これで魔力を帯びたスパイダーシルクが手に入るぜー!
蜘蛛が糸吐いた所を見た時から狙ってたんだよなー!
これで、マントも上質な物が作れる。
咲輝の服を縫っても良いかもしれないな。
並大抵の事では傷付かない防具的衣服を作ってあげると、色々と良いだろう。
可愛い妹には健やかに育ってほしいからね!




