英雄の矜持
そんなこんなで夜になりました。
宣言通りに答えを聞きに行こうと思います。
夕方くらいからぽつぽつと雨が降り始めて、いまだに小雨がぱらついていますが、ちゃんと行きます。
すっげー、やる気が削がれておりますけども。
もう明日にしちゃえよ、と心の悪魔が囁きますが、行きます。
行くったら行くんだよ!
で、昨日と同じように子猫と接続しようと思ったんだけど、なんだか世界が慌ただしい。
ちょいちょいと探索魔法をかけてみると、あらら、あちこちで魔物が発生しているではあーりませんか。
スタンピード?
スタンピードですね!?
いや、まぁ、ただの同時多発発生でスタンピードではないと思うけど。
……向こう基準では。
これくらいなら、一般的都市でもままある事であり、災害であるスタンピードには程遠い。
だって、スタンピード時に不用意に探知系魔法を行使すると、過感知で脳がオーバーヒートしかけるし。
ちなみに、スタンピード発生率が最も多い都市は世界樹の根元にある都市だった。
世界樹の中には異様な数の魔物が棲息しており、そいつらが日夜、外に進出してくるのだ。
具体的にどれくらいの頻度かと言えば、一日に一回は最低でも起こるという何の冗談かという頻度である。
もうそこは人の住む場所じゃないって分かれよ、と私としては世界樹都市の連中に言ってやりたい。
スタンピードを祭りと称して笑顔で殲滅する連中だったから、多分、言っても聞かないだろうけど。
ま、まぁ良い。嫌な思い出だ。忘れよう、あんな魔王軍すら敬遠する精神的人外共の事は。
ともあれ、そんな感じで退魔師たちは忙しそう。
非番な連中も叩き起こされて、討伐に駆り出されている。
まぁ、仕方ないよね。
だって、裏社会ですもんね。
世界の闇とか、そんな感じですもんね。
絶対数が圧倒的に少ない。
その上で技術も発展してないってんじゃ、人手が足りなくなるのも当たり前ってもんですよ。
《遠視》魔法で確認した所、発生しているのは……ゴブリン? いや、和風に餓鬼と呼ぶべきか? そんな感じな連中。
あいつら、発生する時はやたら数が多いからなー。
地味に面倒な魔物だったな。
うーん、多分、防ぎきれない……かな?
多少の被害は出ると思う。
……なんとなく、前世の記憶に引っかかるものが。
そういえば、老いも若きも関係なく、女性が同時多発的に攫われたり殺されたりする事件があった気がががが。
あいつら、オス個体しかいないから、繁殖は多種族のメスを狙うんだよな。
特に自分たちと近い肉体構造をしている人間種はお気に入りだった……筈。
まさか!? これか!?
うわー、嫌な事実に気付いちゃったなー。
さて、どうしよっか。
ぶっちゃけ、私が手を出す必要がないと言えばない。
何故かと言えば、二次三次的な被害がなかったからだ。
連中、苗床を手に入れると爆発的に増えて、被害が雪だるま式に増えていくんだよなー。
だけども、続報がなかったって事は、多分、誰かが何とかしたんだろうよ。
でも、一次被害は出る訳でして。
関係ないと言ってしまっても良い。
だって、私の母も妹も被害に遭っていない。
ならば、対岸の火事である。
大変だね、可哀想だね、残念だね、と同情の言葉を他人事として吐いて適度に心を痛めて終わり、というのが一番楽だ。
でもさ、それ、駄目でしょ。
いや、法律とかそういうのじゃなくてさ、人として? 道徳として? なんかそんな感じ。
目の前に明らかに困っている人がいます。
自分には助ける手段も力もあります。
見捨てますか?
ここでYESと答えるのって、ド外道じゃん。
あーあー、気乗りしないんだけどなー。ほんっと。
私、これからなるべくなら失敗したくない大切な交渉が控えてるんですよー?
余計な事に気を取られてポシャッちゃったらどうすんのよー、って話なんですよー。
それでも助けちゃうんですかー、って訳よなー。
でも、助けちゃうんだよなー。
だって、それが英雄ってもんだろ?