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峡の劔  作者: 北白川 司空
第十三章 よしの
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第十三章 よしの(1)

 清太と弥蔵は大原に戻って、嘉平屋敷の離れ屋に入り、播磨を出立する際に大原への参集を命じておいた亥介を交えて、膝詰めで議論する。

 清太は、依然として続く神社仏閣からの刀剣の盗難について、重治から聞いた七星剣の伝説も交えて一つの仮説を立てる。

「自らの実力を過信する謙信が七星剣の霊力を求めて軒猿などに寺社の宝剣を偸盗させるということは考え難い。筋書きとしては、義昭や久秀などが謙信に取り入るために七星剣を集めていると考える方が正鵠を射ているように思えるが、皆の考えはどうだ。」

 清太が意見を求める。亥介が議論の視野を広げるために捕捉する。

「重治様の言うとおり、顕如やその周囲が霊力を求めるということはなさそうですが、本願寺に所縁がある者が藁にも縋る思いで七星剣を集めている可能性もないとは言い切れませぬ。」

 嘉平に拠れば、近頃、京近辺では金目当ての小悪党達が手当たり次第に様々な刀剣を盗んでいるらしい。また、亥介と総馬が信貴山城監視の合間に奈良の幾つかの神社仏閣を探ったところでも、近頃の盗人達に四天王寺で出会ったような凄腕の術者は存在せず、単に生活や金に困窮した素人が盗みを働いているだけで、それらの多くは警備の網に掛かって処罰されていた。

「刀剣収集の元締めが必死になっているということかもしれぬ。今までの話を頭の片隅において引き続き情報を集め、一歩ずつでも御劔に近付いていくしかあるまい。」

 清太が一呼吸をおいて続ける。

「兎吉の手掛かりは掴めたか。」

 亥介が視線を落として、

「杳として知れませぬ。」

と呟いた時、離れ屋に気配が近づく。

「もうすぐ夕餉が整います。」

 三人は於彩の声で議論を仕舞い、母屋へ向かう。囲炉裏部屋の隣にある土間仕立ての台所で於彩と於妙、そして、よしのが夕餉の支度に追われている。その姿が清太の座っている場所から垣間見える。

―よしのの記憶は僅かでも戻っただろうか…。

 清太は、きびきびと働くよしのをぼんやりと眺めている。

 主客全員が囲炉裏を囲み、賑やかな夕餉が始まる。話好きの嘉平を中心に畿内で起こった事件・出来事などの雑談に花が咲く。会話の輪に入らず、控え目な微笑を浮かべて聞いているだけのよしのに弥蔵が声を掛ける。

「大原には慣れましたか。」

 よしのが弥蔵に向かって明るい笑顔で頷く。これを呼び水にしてよしのに話題が集まる。

「よしのさんには先日から寂光院へご奉公して貰っています。尼僧の皆様からの評判もよろしゅうございます。」

 よしのが、

「寂光院の皆様は色々と優しく教えて下さいますので、楽しく働いております。」

と言いながら、明るい笑顔を浮かべる。

 清太はよしのと視線を合わせることを避けるように落ち着きなく箸を動かし続ける。

 この日、清太はよしのと会話を交わすことなく、箸を置いた。


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