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峡の劔  作者: 北白川 司空
第六章 四天王寺
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四天王寺(1)

 亥介と総馬は天王寺砦に入って以来、日々、四天王寺に赴き、日中は寺の周囲から境内の建物や庭の造作、樹木や置物の配置などを調べ、夜更けになると境内へ侵入する。

 神社仏閣における宝剣盗難を伝聞している四天王寺では、陽が沈むと偸盗の侵入に備えて多数の篝火を焚き、僧侶、僧兵が境内を巡回して不審者を厳重に警戒する。逆に言えば、これらの行為は四天王寺に宝剣があることを示唆しており、亥介達が四天王寺に日参している理由もそこにあった。亥介達は警戒の間隙を縫って、毎夜、灌木や建物の影などに潜みながら、偸盗の出現を待つ。

 この日も、薄雲に霞んだ眉月が瀬戸内の細波立つ海面に沈み、暗い夜空に無数の星々が明滅する。夜半を過ぎれば、肌に触れる涼感を帯びた微風が秋の到来を感じさせる時節だが、今夜の四天王寺は多量の湿分を含んだ不快な生暖かい空気に覆われている。

「今宵はことさらに蒸せる。」

 総馬が額に滲む汗を拭いながら、小声で呟く。亥介と総馬は百を超すであろう僧兵達に厳重に警備されている四天王寺の中心伽藍を囲む回廊の瓦屋根の上に俯せて、伽藍内部の様子を窺っている。

―昨夜までとは何かが違う…。

 二人は怪異の予感に、

―臨兵鬪者皆陣裂在前。

の九字を唱え、邪気を払う。

 中心伽藍の僧侶、僧兵達は不自然に上昇する暑気に、ある者は全身から噴き出す汗を幾度も拭い、ある者は扇子をあおぐ。時間の経過とともに、僅かに涼を与えていた微風さえも停止する。中心伽藍内部の不快が極大に達し、下品(げぼん)な僧兵達は襟を寛げて素肌を露出し、一部の者は口渇に耐えられずに水を求めて持ち場を離れる。

 突然、烈風が起こり、伽藍内に蓄積した湿分と暑気、さらには、伽藍内に残留していた僅かな警戒心を吹き払う。

―何かが始まる。

 亥介と総馬が中心伽藍を見つめる。

 再び烈風が中心伽藍を吹き抜け、中心伽藍の正面入口に当たる中門で燃え盛っていた篝火を掻き消す。中門の足下にできた闇溜まりに、突如、湧出した老僧が中門を固めている屈強な僧兵に歩み寄る。声を掛けられた僧兵は老僧の出現に何の疑念も持たず、先導して中心伽藍の内部へと案内する。

―面妖な…。

 外部から見ている亥介と総馬にとっては明らかな異状である。

 僧兵に先導された老僧は、耿々と周囲を照らす篝火の中、中心伽藍を警護する僧侶、僧兵達に慰労の言葉を掛けながら、五重塔を通過し、金堂へと向かう。

―伽藍全体が怪異に包まれているのか…。

 亥介と総馬は、老僧が仕掛けたと思われる巨大な虚構を、固唾を飲んで見つめる。

 老僧は金堂に至り、道案内の僧兵を中門に帰すと、金堂の入口を固めている四人の僧侶に語り掛ける。僧兵の一人が右手に握っていた金剛杖を他の僧兵に預けて金堂の扉を叩く。扉が内側から開き、室内から蝋燭の光が堂外に零れ落ちる。金堂から出て来た僧侶が深く辞儀をして、老僧を内部へと誘導する。

 亥介達の位置からは金堂の内部を伺い知ることはできない。亥介達は回廊の瓦屋根に伏せたまま、事態の推移を見守る。


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