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真実か理想の復讐者 The Avengers whith IoT(Ideal or Truth)  作者: 藍澄早瀬
第一章 真実を追う小説家 A Writer Who is Truthism
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第一章第六話

 それから数日後。ついに愛実(マナミ)の退院の日になった。

 その後は、進次(シンジ)にも芽亜里(メアリ)にも昌克(マサヨシ)にも逢っていない。そのため、事件がどうなったかは聴かされなかった。

 入院中に、拓海(タク)が持ってきてくれたパソコンで、愛実は短編一作と中編二作を書き上げていた。推敲などは、退院後に終えるつもりだ。

 退院のとき、拓海が迎えに来てくれた。愛実は、運転免許は取得しているものの、気に入った車と未だに巡り逢えておらず、ペイパドライヴァのままだった。たまにインターネットで車のカタログを検索したりしている。

 赤になった信号で停車したとき、拓海が突然愛実に話しかけてきた。

「なあ、ちょっと寄りたいところがあるけれど、いいか?」

 車の後部座席で横になり、もう少しで眠りかけていた愛実は、鬱陶しそうにOKを出した。

「愛実に来て欲しいって昨日連絡があってね。」

「誰から?」

漏田(モルタ)さんからだよ。」

 愛実は少し驚いた。芽亜里が何の用で愛実を呼ぶのか、しばらく考察した。結果、事件のことと探偵事務所に関することが残った。後者は進次が愛実のことを探偵団の一員と言ったことについてだった。


 車は渋滞にかかることもなく、順調に進んだ。十五分ほどすると、駅近くにあるオフィスビル前に到着した。ここの三階で、探偵事務所が営業されているらしい。ビルには、英会話教室などもあるみたいだ。一階ではアイスクリーム店が開店している。

「じゃ、俺は車で待ってるから。」拓海は言った。

「え?戻って来るまで、道端で踊っているの?」

「ん?なんで、そうなった?」

「だって、『(来るま)待って(舞って)る』んでしょ?」

「はいはい、いつものくだらない洒落はいいから、行ってらっしゃい。」

 愛実は微笑んだ。

「別に待ってなくても、すぐに帰っててくれてもいいよ。帰りは電車で帰るから」

「スマホ壊れてんだろ?大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。方向感覚は人一倍強いから。」

「まあ、確かにそうだな。じゃあ先に帰るぞ。」

「うん。じゃあ、あとで。」

 拓海の乗ったセダンが去っていくのを見送ってから、そのオフィスビルの階段を登った。三階まで来ると、そこが和田(カズタ)探偵事務所であることを確認してノックした。


 そこは、小説やドラマなどでよく見る探偵事務所そのものだった。部屋の中央に応接用のテイブルがあり、その両サイドにソファが並べられている。窓側に社長机のような立派な机が配置されている。コーフィメイカやテレヴィもあり、置かれている棚にはびっしりと事件の資料と思しきものが詰め込まれている。社長机の近くの本棚には、文庫本が並んでいた。

 愛実がほんの少しの緊張を隠せないまま、ソファに座っていると、芽亜里がコーフィを出してくれた。

「そういや、まだ言ってなかったな。アイミ、退院おめでとう。」コーフィを飲み終えたところで、進次が切り出した。「足の具合、どう?」

「まあ、ただの打撲だったし、治りも早かったから、助かったよ。」

「車に轢かれかけたんだってな。」

「まあね。地面に倒れ込んだときに、目の前に車のナンバプレイトが見えたのはヒヤヒヤものだったよ。」

「『倒れ込んだ』ってどうして?」

「それは……、」愛実は、この二人を信用していたために、その先のことを話しかけた。しかし、ここが探偵事務所であることを思い出して、「ねえ、相談料とか、とったりしないよね?」と訊ねた。

「ん?いや、ここは原則無料だよ。」進次はなにかを察したようだった。

「じゃあ、話すけど、実はあたし、誰かに殺されかけたみないなの。」自然と声が低く小さくなった。

「ええ!?」芽亜里が驚く。

「……続けて。」

「私が国道で道を確認していたとき、背中を押された感じがして、前につっ倒れたの。そしたら、車が右方向からやって来るのが見えて、とっさに立ち退いたわけ。ほんと、ギリギリだったよ。その反動で左足をどこかにぶつけたみたいで、こうして、打ち身になっちゃったんだけど。あとで後ろを振り返ったけど、結局誰もいなかったよ。」

「なるほどな。それは、怖いな……。誰かに恨まれるとかの心当たりとかは?」

「ん〜なくはないんじゃないかなあ。出版(この)業界にいる以上、誰かに恨まれるのは普通じゃないの?」

「だよなあ……。探偵事務所(うち)の伝手を使って、ボディガードをつけるか?」

「いや。しばらくはいいよ。もしかしたら、あたしの勘違いの可能性もなきにしもあらずだし。しばらく様子見て、また病院の世話になるような怪我とか事故とかに巻き込まれたら、考えとく。」

「そう。まあ、気をつけて。」

 進次はカップを口に持って行った。もう、ほとんどコーフィがなくなっている。愛実もコーフィを口内に注いだ。

「で、本題だけど。」進次はカップを受け皿の上に置いた。「アイミ、この探偵事務所で働く気はないかい?」

「え、ここで?」愛実は目を丸くした。

「実は、芽亜里からも聴いたかもしれないけど、この探偵事務所は正式には、僕と芽亜里のたった二人のメンバーしかいないんだ。だから、人手不足に陥っていて、芽亜里に非常に負担がかかってしまっているんだ。そこで、最近、仲間を増やそうかと考えていてね。アイミが抜擢されたってわけ。」

「へえ……、でも、あたし、すでに仕事に就いてるんだけど……。」

「まあ、聴いて。アイミに頼みたい仕事は、この探偵事務所の活動記録を書いてもらうこと。別に会社とかじゃないから、好きなようにまとめてくれても構わない。形式とかはとやかく言わないよ。まあ、嘘を書かれるのは困るけど。あ、もちろん守秘義務は守ってもらうけど、僕が許可した内容なら、小説のネタにしてくれても構わない。関係者全員の許可が下りれば、ノンフィクション小説を書くこともできると思うよ。つまり、小説のネタを提供する代わりに、記録を書いてもらうって取引。」

「なるほど……。でも、いつ休みなの?」

「基本的には休み無しだね。四六時中活動してるよ。ただ、依頼者はたいてい一週間に一人いるかいないかくらいだから、そんなに働いてもらう必要はないかな。たまに多いときがあるけれどね。」

「気になるのは、本職の方に影響が出ないかってことなんだよね。小説書く環境が欲しいかな。」

「それなら、この奥の部屋や、一階上の部屋を使ってくれてもかまわないよ。四階も僕が借りていて、僕と芽亜里が生活してる場所なんだけど、空室がまだ残ってるから貸せるよ。」

「へえ……、じゃあ、何時までここにいればいい?」

「基本的にアイミの都合がいいときで。結婚してるから、家事とかしなきゃいけないと思うけど……。」

「あ、それなら大丈夫だよ。あたし、料理くらいしか、家事全然できないから。掃除とか洗濯とかは全部拓海に任せてるし。料理も作り置きすればいいから、どの時間帯でも。」

「じゃあ、六時から二十時までお願いしてもいい?その時間外の内容なら、僕たちが話す内容をまとめてくれたらいいから。」

「OK。」

「もちろん、休みをとってもらっても構わないよ。頻繁には困るけど、一週間に二日くらいなら。」

「……編集部との打ち合わせとか、ここでさせていただいてもいい?」

「それなら、別に大丈夫だよ。ここは基本的に防音になっているし、そとの扉に『CLOSED』って書いたやつを吊り下げておけば、誰も入ってこないよ。僕と芽亜里も四階に上がっておくし。」

「ありがとう。」

「あ、最後に問題なのが、給料だよね。詳しいことはまた後で話すんだけど、実はこの探偵事務所はヴォランティアみたいなもので、あまり収入源がないんだ。だから、あまり出すことができないんだけど、その、どのくらいがいい?」

「給料……、ねえ……。別にいいよ。仕事スペイスとネタを提供してくれるのだから。」

「ほんとに!?それならとても助かるよ。」


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