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真実か理想の復讐者 The Avengers whith IoT(Ideal or Truth)  作者: 藍澄早瀬
第一章 真実を追う小説家 A Writer Who is Truthism
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第一章第四話

 昌克(マサヨシ)は語り出した。

「被害者はここの院長、東野(ヒガシノ)(マコト)。この病室の真下の駐車場で倒れて死亡していた。死因は高所から転落したことによる頭蓋骨陥没でおそらく即死。この病院の八階――ここよりちょうど五階上――の院長室から転落したとみられている。俺は、(サナ)が院長室に向かわせた看護師の案内で、その転落したと思われる院長室に向かったんだが、部屋には鍵が掛かっていた。部屋はオートロック。中からは自由に出ることができるが、外からは鍵を持っているものしか開けられないらしい。」

「ふうん」愛実(マナミ)は話の腰を折った。「それで、誰が鍵を持っているんだ?」

 昌克はほんの僅かに口角を上げた。「それが、ただの鍵じゃないんだよ。」

「ただの鍵じゃない?どういうこと?」

「実はな、ここの院長室の鍵は――」

「指紋認証。キィとなる指紋を持っている人物しか部屋に入れない、だろ?」

「ちょっと、進次(シンジ)!」

 昌克は、進次にセリフを奪われ、不服そうに抗議するが、進次はそれに構わず、笑みを浮かべながら昌克の話の続きを話していった。

「院長は防犯に関しては敏感で、院長室の入り口に指紋認証を取り付けたんだ。指紋を登録している者しか出入りできないようにして、その入退室も記録されるようにしたんだ。しかも、指紋登録している人でも、院長か秘書の櫛木(クシキ)愛梨彩(アリサ)、そして院長代理の櫻井(サクライ)文則(フミノリ)、これらの三人の誰かが中にいないと入れないようにまでプログラミングしてね。指紋登録してるのは、確か、院長の東野、秘書の櫛木、院長代理の櫻井、看護師長の(ミネ)千影(チカゲ)、あとは数名の医師だよ。」

「そんなわけで、」今度は昌克が進次の話に口を挟み、主導権を奪った。「その案内してくれた看護師が看護師長を呼んでくれて、部屋に入った。すると、ベランダが開いているのが見えた。看護師長の峯さんの話によると、院長の東野は高所恐怖症で普段はベランダから外には出ないそうだ。」

「高所恐怖症じゃなくて、高所恐怖癖ね。ベランダに植物を植えたプランタや鉢を飾っているけれど、全部秘書の櫛木さんに任せっきりだったよ。」

 昌克がわざらしく咳払いをし、進次を睨んで話を続けた。「ベランダに出てみると、その花を植えている鉢がいくつか、ベランダの手すりに吊り下げられていたが、その中の二鉢が地面に落ちて砕けていたんだ。それを見て、院長室が落下場所だと特定したんだ。」

「なるほどね。それで、入室記録の方はどうだった?」

「ああ。院長室にあったパソコンで調べてみると、最後に入った人物は紛れもなく、院長本人だったよ。そのあとは、事件が起こるまで誰も入っていない。」

「なるほど、じゃあ、自殺か……」

「ま、そういうことだな。事故の可能性もなくはないが……」

「いや、高所恐怖癖だったんだから、わざわざベランダに出る必要がない。ましてや、柵から落ちるなんて、事故じゃありえない。だから、自殺だよ。……にしても、あの院長が自殺か……。」

 進次は悲哀の情を顔に浮かべて俯いた。その様子を見て、ずっと考えていたことを訊ねた。

「ワトスンってさあ、ここで働いてるって話だったけど、院長と仲良かったの?」

「……ああ。そうだよ……。よく気にかけてくれていたよ……。」

「……もしかして、院長室に入れた数名の医師の一人は、――」

「ああ、僕だよ。あとは、ホー、……整形外科の小室(コムロ)泰三(タイゾウ)とか、内科医の(モリ)慈夢(ジム)とかかなあ。たぶん、そのくらいだと思うよ。」

「あの小室先生も……か。ワトスンも含め、その人たちは、どうして指紋認証してもらえていたんだ?他にも優秀な医師はいるんだろう?」

「……まあ、いろいろあるんだよ。僕の場合はあまり触れないで欲しいかな。」

 愛実は進次の方を見た。進次の瞳は、哀しそうな雰囲気を漂わせて虚空を見つめていた。

「進次の亡くなったお父さんが東野さんの親友だったのよ。」ずっと聞き手に回っていた芽亜里(メアリ)が口を出した。「それで進次のお父さんが亡くなってからはよく気にかけてくれてたみたい。」

 なるほど。愛実は納得した。

 進次は昌克に訊ねた。「なにか、遺書とかなかったか?」

「部屋からは何も。机の上に置かれていたパソコンにも、胸ポケットに入っていたスマフォにも、それらしきものはなかったよ。」

「え、スマフォ?今、スマフォって言った?」進次は目を見開いて訊く。「ポケットに入っていたって確かか?」

「え、ああ。白衣の胸ポケットから……?」昌克は自分の左胸を指差した。

「それがどうしたの?」芽亜里が進次の異変に心配する。

「おかしい……、」進次は二人の声が聞こえていないようだ。顎に左手を当て思考の世界に入り込んでいた。「胸ポケットからスマフォ……。でも院長はペイスメイカが……、普段はそんなところに入れない……。……殺人?でも一体……?ベランダ……、鉢……、スマフォ……、高所恐怖癖……、ペイスメイカ……、指紋……、入退室記録……、スマフォ……。」

 ブツブツと何かを呟き始めたかと思うと、進次は病室内を徘徊しだした。

「……これ、どうしたんだ?」愛実は芽亜里と昌克に進次の奇行を訊ねたが、二人とも首を横に振るだけだった。

「……もしかしたら、なにか思いついたのかも……?」芽亜里が呟いた。愛実にも、進次がなにかをつかんでいるように思えたが、呟く内容がよくわからないので、どうにも判断ができなかった。

 室内を五周程度彷徨いたあと、進次は自分のスマフォを取り出して、なにかを検索し始めた。そしてしばらくすると、ニヤリと口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。「……そういうことか。」

「どういうことだよ?」昌克が苛立ちを見せた。

「昌克、」独田の顔に真剣さが現れた。「院長は自殺したんじゃない。他殺だ。誰かに殺されたんだ!」


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