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真実か理想の復讐者 The Avengers whith IoT(Ideal or Truth)  作者: 藍澄早瀬
第二章 理想を追う探偵 A Detective Who is Idealism
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第二章第一話

「あなたにもし、私を破滅させるだけの聡明さがあるのであれば、私もまた、あなたに同じものを報いるだけの聡明さがあるのですよ」

「僕からも一言、君のいう僕の希望が実現さえすれば、僕はこの世のために、喜んで君の希望どうりになるつもりなのだよ」

(『最後の事件ファイナル・プロブレム』1893年)

 ――時は遡る。

「それと、もう一つ気になる情報がある」和田(カズタ)進次(シンジ)は言った。「その購入者のハンドル・ネイムなんだが、『真実か理想の復讐者』ってなっている」

 進次が協力をしている警視庁捜査一課の刑事、五十嵐(イガラシ)昌克(マサヨシ)からの情報だった。進次が勤務している病院の院長が殺害される事件が発生し、その院長のパソコンから犯行推定時刻にディープ・ウェブへのアクセスがなされた形跡が発見されたのだ。そこでは爆薬である『サタンの母』の購入履歴があった。

 進次は顔を上げ、二人の女性と向き直った。

「それってどこかで……?」進次の妻、漏田(モルタ)芽亜里(メアリ)が呟いた。

 ほんの少し静寂た保たれた後、和田探偵事務所のもう一人の社員、(サナ)愛実(マナミ)が進次の言わんとする言葉を静かに言い当てた。

「『真実か理想の覇者』……」

「そう。」進次は無意識に指鳴らしをした。パチンと軽快な音がなる。「九年前、二〇一〇年に起きたあの誤認逮捕の事件。あの首謀者が名乗っていたのが『真実か理想の覇者』。それと酷似したハンドル・ネイムが使われていた。果たしてこれは無関係なのか?」

 進次はまるで、大学の教師のような芝居口調で話してみせた。

「そういや、あの犯人って、当時未成年だったよね?」進次のそんな演技などすっかり慣れてしまった愛実は進次を無視した。

「ああ、十三歳……かな?」進次は少し肩を落としながら答えた。

「だから、あのとき、――」

 愛実が何かを言おうとしたようだが、それを妨げるように、進次の携帯電話が『シロクマ』を奏でた。やはり何度聴いてもいい曲だと思う。

「あ、僕のだ。メイル?」

 コンコン。そのとき軽快なノック音が聞こえた。進次は芽亜里に目で出てくるよう合図した。

 進次は画面に目を戻した。送り主は和田探偵事務所の協力者の一人、海月(クラゲ)翔騎(ショウキ)だった。

『進次へ。

 この前預かったウェブカメラの解析が終わったよ。大体の予想通りmiraiヴァイラスに感染されていた。これによってウェブカメラが遠隔操作されて勝手にカメラから覗き見されていたんだよ。既知のヴァイラスだったから、簡単に取り除けたよ。

 ただ、ちょっと気になったんだけど、僕が以前にテストしたときにはなかったはずのプログラムが見つかったんだ。それを詳しく解析したら、明日の午後六時半にあるコンピュータにサイバ攻撃を仕掛けるプログラムみたい。ジェリィ・フィッシュ社の在庫を確認すると、ほかのIoT機器にも同じプログラムが混じっていたよ。攻撃を仕掛けられるパソコンって、調べてみたら、それが、警視庁のメイン・コンピュータらしいんだ。

 もし、この社が過去に売ったIoT機器のすべてに同じ、プログラムが仕込まれていたとしたら、ヤバイことになるんだけど、どうしよう?

海月翔騎』

「(明日といえば、ラグビィのワールド・カップ開催を祝うパレイドがあるって聞いてたな。警視庁はそれのテロ警戒で人員を登用するだろうな。ヤバイこと……、DDoS攻撃……か。そんなのが、警視庁に向けられたら、どうなるだろうか。これはハッカに相談するか……)」

 進次はメールの内容に気をとられ、芽亜里が応対していたガタイのいい二人組の男たちに意識が向いていなかった。

「ここの責任者はいるか?」いつのまにか入り込んでいた男たちのうち、より高圧的な態度をとっているが事務所内に吠えた。

 そこで進次は、初めて無礼な訪問客に気がついた。「僕ですけど」

 進次は観察した。二人の男は、どちらも鋭い目つきをしていて、威圧的。体つきがいいのが見て取れ、腕っぷしが良さそうだ。格闘技をやっているように思われる。安くはないであろうスーツを着こなしているが、ネクタイが少しねじれていたり、袖口が随分前に着いたであろう汚れが残っていたりする。一昔まえなら、彼女や妻がいないと推理するところだが、生き方の多様性が増した現在では一概に言えない。だが、――進次にしては珍しいのだが――ある直感が働いていた。そして、その直感を、進次は正しいと信じた。

「あなたが、和田探偵事務所の所長の和田進次ですか?」客の一方が言った。やけに腰が低い態度だが、進次はその裏に潜む、敵意を感じ取っていた。

「(……やはり、こいつらは……)」進次はその揚げ足を取ってみようと思った。挑発すればその敵意がもう少しはっきりと現れるかもしれないと思った。「ええ。去年結婚して、漏田姓に変わってますが。あなた方は?」

「失礼しました、漏田進次さん。」男は見事にポーカ・フェイスを保った。「私は警視庁公安部の明智といいます」

「(やっぱり)」進次は心の中で呟いた。二人は警察手帳を提示した。

「実は逮捕状が出ているので同行願いたい」莉麒が言うと、哲夫が手に持っていた逮捕状をバッと広げた

「た、逮捕状!?」愛実と芽亜里が声をあげるのが聞こえたが、進次は「なんの容疑ですか?」あくまでも冷静であろうと努めた。公安が台頭してきたということは、それ相応のものだろう。進次は、さっきまで読んでいた翔騎のメールを思い起こした。

「警視庁に対する爆破予告だ。強要罪及び威力業務妨害罪の容疑がかかっている」莉麒が初めて内に秘めていた敵意の端っこを見せた。

「爆破予告?どんな内容だったんですか?」情報を得ようと画策した。

「その辺りの話は署にてゆっくりと伺おう。令状が出ている以上、あなたにこれを拒否する権限はないはずだ」

「拒否はしていない。ただ、事情がうまく飲み込めていないから、ある程度の説明を求めているだけだよ。事情さえ分かっていれば、僕は取り調べ室で要点に絞って応答できる。無駄に論点がズレた話をしたくないだろう?」

「ふん。時間稼ぎか?」

「時間を稼いだって何になるんだ?」

「まあ、いいだろう。二日前に警視庁に爆破予告が届いた。内容は三日後――つまり明日だな――のパレイドを中止しろ。さもないと仕掛けた爆弾を爆発させるというものだった」

「(明日のパレイドに爆破予告……か)」進次は飲み込めてきた状況に戦慄した。「(おそらく、これでもっと大勢の警察官および爆発物処理班の隊員が派遣される。こうなったら、DDoS攻撃がなされるかもしれない警視庁が手薄になる……)」

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