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Side復讐者――読者への挑戦状

不可能なものを除外していって残ったものが、例えどんなに信じられないものでも真実なのだ。(『四つの署名(サイン)』1890年)

Side復讐者

 九月二十六日午後六時三十分十五秒。警視庁のメイン・コンピュータが、ジェリィ・フィッシュ社のIoT製品に組み込まれたプログラムによるDDoS攻撃によってシステム・ダウンした。警視庁の電源システムもメイン・コンピュータが担っていたので、同じく起動不能となり、日没後の庁舎を暗黒に染めた。

 防犯システムも起動しなくなった警視庁は、侵入者を拒むことなく受け入れてしまった。自称「真実か理想の復讐者」は警視庁庁舎に、マシンガンを手に持って堂々と入り込んで行った。その先頭には高比良(タカヒナ)光毅(ミツキ)と名乗る男がいた。


 光毅は後に続く傭兵たちを先導するリーダだった。彼は自分が持っていたボストン・バッグをすぐ後ろに立っていた仲間に突き出した。「指示したところに持っていけ」支持された兵隊はボストン・バッグを抱えて階段を登っていった。

「各々の持ち場につけ!」光毅が言うと、金で雇われたテロリストたちは素早く動き出した。ある者は先に階段を上がった者の後を追い、またある者はロビィに回って警視庁の玄関を制した。

 光毅は数人の兵士とともにサイバ・セキュリティ対策本部へと向かった。光毅たちの目的達成には、その存在は非常に厄介であった。制圧するに越したことはない。

 途中で通路内で立ち尽くす警官たちを、暗視スコープで把握しながらマシン・ガンの銃口を頭部に叩き込み気絶させていった。障害を次々と突破していき、目的の場所に突入した光毅たちは、機関銃を捜査官たちに向けた。

 刑事ドラマに登場する刑事たちとは違い、サイバ・セキュリティ対策本部の捜査官は第五の戦場であるサイバ空間には強いが、第一から三まで、つまり現実での戦場にはめっぽう弱い。

「さあ、パソコンから離れて地面に跪いてもらおうか」

 光毅が命令すると、捜査官たちは簡単に従った。「そのまま、大人しくしてろ!さもなければ、どうなるか、わかってるな!」

 光毅は自分の後ろに控えている傭兵たちに指示を出して部屋を退出した。

「あとは任せたぞ。支持した通り、彼らの手足を縄と鎖で縛って見張ってろ。暴れる奴が一人でもいれば、この小刀で指を一本ずつ切り落としても構わん。奴らは十本の指が大切だから、そういうふうに脅すだけでも大人しくなるとは思うがな」

 光毅は作戦が上手くいっていることに優越感を抱いていた。楽しいという感情を久しぶりに味わった気がした。

 九年前、彼は親友を失った。彼がまだ中学生のころだった。幼い頃から人付き合いが苦手だった光毅は、中学校に至るまで、誰一人として友人などいなかった。そして、自分はそれでいいと思っていた。親に買い与えられたパソコンでずっと遊んでいた。

 中学生になったとき、彼は親に部活への参加を強く要請されたため、パソコン部に入部した。もちろんそこでも人と付き合うことなく、二進法で構成される世界と戯れるつもりだった。

「そこ、僕の席なんだけど」そいつが言った。唐突に声をかけられたことに驚いた光毅は狼狽えながらすぐに席を立った。そして、別の席に移るのだが、どうしてかそいつのことが気になった。そいつは光毅が座っていた場所でプログラミングをしている。光毅はその様子を眺めていた。

 眺めていると、そいつのことがよくわかってきた。コンピュータに詳しいこと、自分と同じような存在だということ。そいつがプログラミングで苦戦しているのを見ていると、次第に居ても立っても居られないものが湧き上がってきた。

「その指示、たぶんここと順番を入れ替えた方がいいと思うよ」ついに光毅はそいつに声をかけてしまった。そいつは驚いて彼を見た。

 そいつが光毅のアドヴァイス通りにコンピュータに指示を与え、続きを打ち始めたところ、五分後にはプログラムが完成し、正常に作動し始めた。そいつは光毅に感謝の言葉を述べた。

 それ以来、光毅とそいつはプログラム関連で話し合うようになった。最初は疎ましく感じていた光毅も、次第に語り合うのが満更でもなくなってきた。それから二年半を共に学校のコンピュータ・ルームで過ごすようになった。とても楽しい時間だった。

 そして、あの日がやってきた。九年前の九月二十六日、高度なハッキング技術を習得していたそいつは、醜い警察どもに逮捕された。猪尾真理央誤認逮捕事件、あるいは『真実か理想の覇者』事件と称される、あの事件で。

 それ以来、光毅は警察を憎んで過ごした。九年間、外面は明るく振る舞えるようになりながらも、内面はずっと暗い闇を抱えていた。結婚しても、他には興味を持たず、ひたすらにパソコンの中の世界にのめり込んでいった。

 そんなとき、オメガ・ラックと名乗るハッカが光毅に接触してきた。警察を破滅させないか、と。光毅は簡単に承諾した。それから、ずっとこの時を待っていたのだ。


 九里(クザト)守雄(モリオ)はオメガとともに『真実か理想の復讐者』の計画を練り出した人物の一人だった。

 守雄が暗闇の警視庁の廊下で準備完了の合図を待っていると、階段を登って高比良光毅が姿を現した。「九里さん、各員配置につきました!」

「『サタンの母』の設置は?」守雄は光毅の手に握られているケイブルの先端を見た。「どうやら完了しているみたいだな」

「ええ。バッチリです。」光毅は守雄にそのケイブルの先端を差し出した。まるで昆虫を捕まえた少年のような笑顔で。

 守雄はそれを受け取り、自分が持っていたスウィッチをケイブルの先端部に接続した。スウィッチのカヴァをライタの蓋のように親指で弾いて開くと、中から赤色のボタンが現れた。そのボタンを押さえれば、爆弾は爆発する。守雄はニヤっとほくそ笑んだ。

「光毅、」守雄は光毅に向き直った。その目は、冷たく鋭く、そして真剣だった。「お前は侵入してきた入り口から外へ出てオメガのところに向かえ」

「え!?どういうことですか!?俺はこのあと、サイバ・セキュリティ対策本部に戻れって聞いてたんですけど!」

「いや、お前はこの場から去れ。命令だ」

「オメガさんも、そう言ってるんですか……?」

「ああ」守雄は嘘をついた。オメガには相談はしていない。全て守雄の独断だった。「お前はまだ二十三だろ?」

「いえ、二十四ですけど……」

「どっちだって一緒だ。とにかく、まだ若い。そうだろ?俺らなんかよりもはるかに多くの可能性を持っている若者だ。そんなやつの可能性を、制限するわけにはいかない。ここで引け」

「いやです!」

「言うことを聞け。東野院長殺人事件があっただろ?あれの容疑者が絞られたようだ」

「え、あの、守雄さんが巧妙に自殺に見せかけた……?」

「ああ。もう俺の未来は残り少ない。どうせなら、俺の雇った傭兵どもごとこの地で死のうと思っている。そこに、お前がいる必要はない。お前は何一つ、罪を犯していない」

「いいえ!だって、クラッキングとかの――」

「それらは全部オメガがやった。いいか?お前は誰にも見つからないよう、速やかにこの建物から遠ざかれ。お前が与えられていた任務はすでに、別の人間に指示してある。いいな、お前は俺とは会ったことがない。お前は今回の事件について何も知らない。お前はこの警視庁にはいなかった。わかったな!」

 光毅の目は少しづつ潤いが現れていた。

「早く行け。振り返るな。ただし、お前の失った友人は忘れるな。生きろ!」

 守雄は光毅を無理矢理階段方向へ振り向かせ、そして、その背中を強く押した。

「生きろ、高比良光毅!いや、か――」


 光毅が走っていると、その先に立ちはだかる人物がいた。涙越しに光毅がみたその人物は、こんな場所にいるはずがない人物だった。

「お前、どうして!」

 その人物はほんの僅かに口角を上げ、言った。「待ってたよ。さあ、真実を語ろうか」


 守雄は九年前の爆破予告事件のとき、その捜査を仕切っていた人物と対峙していた。

「さあ、教えろ。そいつの名前を!」

 マシン・ガンの銃口で脅した。しかしそれでも、そいつは一向に口を割ろうとしない。

「早くしないと、この警視庁を爆破するぞ!」

 守雄は怒りのヴォルテイジが最大値に達しようとしていた。

 そのとき、鍵を閉めたはずの警視総監室が開き、予期していた人物が現れた。

「それがあなたの理想ですか?九里守雄、いいや、――」


「ホームズ!」



〈読者への挑戦状〉

 以上をもちまして、真実を追い求める第一章――シャーロック・ホームズ・シリーズの長編における第一部のような物語――が終了いたしました。

 本音を言いますと、この物語はサスペンス・ミステリィであって、本格ミステリィではございませんので、このような〈読者への挑戦状〉を挟むのは場違いのような気がしますが、エンターテイメントの一環として挿入させていただきました。

 本作は、様々な事件が連続的に発生し、それぞれの事件の謎が残されたまま、すぐに次々と事件が出現するため、その場その場で問題となっている謎が複雑怪奇となりやすいようです。

 ですので、作者からのヒントがてら、皆さんに推理してもらう問題を提示させて頂こうと思います。


 『真実か理想の復讐者』のハッカ、OMEGA(オメガ)RAKKU(ラック)の正体を推理してください。


 真実、あるいは理想の、解答編は第三章での公開予定です。それでは理想を求める第二章をお楽しみください。


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