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Side進次&慈英

人間がこれだけ密集して、互いに関係し合って行動すると、人間関係に様々な組み合わせができ、事件が起こるのだ。その中には、犯罪とは無関係ながら、とても奇妙な事件もたくさんあるのだよ。(『青いガーネット(ブルー・カーバンクル)』1892年)

Side漏田進次

 ポケットの中のスマフォが振動した。進次は建物に入っていったターゲットに意識を向けつつ画面に目を向けた。

「昌克……?なんの用だ?」

 進次は画面をタップし、通話を開始した。

『……もしもし、和田か?』やけに歯切れの悪い昌克の声が聞こえてきた。

「ああ。なんだ?事件の情報か?」進次はいっときもターゲットが入っていった建物から目を離さない。スマフォを持たない片手で、ポケットの中の小道具(・・・)の数を確かめていた。

『いや……、容疑者として和田に聞きたいことがある……』

 進次はハッとした。目を見開き、昌克の言葉を何度も吟味する。

「……」進次は溜息をついた。「……わかった。すべてが終わったらな」

『すべて……?どういうことだ?』

 進次は昌克に申し訳ないと思いながらも通話を切った。そして、進次はターゲットが消えて行った建物の中へと足を進めた。

 ドアから莉麒と哲夫が現れた。

「お待ちしていましたよ、漏田さん。もう逃げるのはやめましょう」

 進次は肩を竦めた。「五十嵐警部補に挨拶はしたんですか?」

「いいや。別にする必要がないと踏んだのでね」

「それなら、あなたは流氷の上で薄氷を踏み抜いたんですね。まあ、いいでしょう。任意の事情聴取に応じましょうか」

 進次はドアに向かおうとした。莉麒が進次の前に右腕を掲げ、静止させた。

「いいえ。あなたは公務執行妨害の罪と逃走罪で強制的に取締を行います」

 進次は深い溜息をついた。スマフォは没収され、哲夫に促されて警視庁の庁舎に連行された。


「どうして逃げたりしたんだね?」

「あの犯行予告、君だったんじゃないのか?」

「お仲間にハッキングが得意なやつでもいるんじゃない?そいつに協力を仰いだんじゃないのか?」

「なあ、そろそろなにか喋ったらどうなのかね?」

「探偵なんだろ?お得意の推理ショウをやってみせてよ」

 時間が経つにつれて、刑事たちの怒りが湧き上がってくるのが感じられた。だが、進次は一向に沈黙を破ろうとはしなかった。

 二十九分、一、二、三、……。

 進次は正確になるように特訓した体内時計を頼りに、現在時刻を確かめていた。目を閉じたまま、左手に握った小さな銀色の小球を弄んでいた。

「おい、そろそろなんとか言ったらどうかね!」莉麒が叫んだとき、進次の脳内は六時半のアラームを鳴らした。

 一、二、三、……。そろそろか……。

 突然、取調室の唯一の照明が働きをやめた。日没を過ぎた空には闇を照らす太陽が存在せず、一瞬にしてその空間は暗黒に包まれた。

「な、停電だと!?」

 莉麒の声を合図に、進次は動き出した。左手に握っていた小球を床にぶつけた。すぐに白煙が室内を充していく。

「うわ!」その場にいた全員が煙に気づいて声を上げた。

 進次は音がまったくしないように気をつけながら、椅子から立ち上がった。そして真っ直ぐに室外へ出るドアを開けた。廊下に白い煙が這うようにはみ出していく。廊下もまた、取調室内と同様に光を失っていた。

「誰だ!」莉麒の声が聞こえた。撃鉄を下ろす音が聞こえたから、銃を構えているのだろう。

 進次はポケットから隠し持っていたガラケイを取り出すと、側面の仕掛けを起動させた。プラグのような二対の突起が現れる。朧げに見える容姿と、記憶の中での位置・姿勢を照らし合わせながら、敏捷に動いた。まずは莉麒。煙を通してだが確認できた銃の形から銃口の向きを推測し、それから外れる位置に移動してから首元にガラケイを押し当てた。スウィッチを入れると、バチッという音とともに首筋に閃光が走り、莉麒が倒れるのがわかった。背後の哲夫が動き出したのを気配と物音で察知し、すぐさまそこに蹴りを入れる。「くっ!」金属のなにかが地面を滑る音がした。その物体の位置を把握しながら、進次は哲夫の首筋に莉麒と同じ攻撃を食らわせた。

 進次は哲夫の手から落下した物体を拾った。予想通りリヴォルヴァだった。進次はわざと携帯型スタンガンの電源を入れ、バチッという音を鳴らした。呻き声を上げ、地面に転がるとすぐに立ち上がり、指紋のつかない細工をした指でS&WM36(チーフ・スペシャル)を拾い上げた。

 書記官も気絶させると進次は取調室を退出した。廊下を進み、突き当たりの窓を開く。銃の弾丸を確かめた後、ポケットから今度は赤銅色の球を取り出した。

 その球を右手にしっかりと握り、投球のフォームをした。そして、入ってくる風を感じながら外へ投げ出した。

すかさず狙いを定めて銃弾を放つ。銃声が響いた。


Side鮫川慈英

 暗がりの中、慈英は目的のものを見つけた。警視庁周辺に停まっている、屋根に大きなアンテナをくっつけているワゴン車だ。テレビ局が所有しているもののようだ。

 慈英はそっと静かにその車の影に隠れた。時間は十八時二十八分。警視庁の電気がまだ点灯していることから、まだサイバ攻撃は始まっていないようだ。

 慈英はポケットからガラケイを取り出した。黒い端末で、側面に通常はないはずのスライドボタンが仕掛けとして付随している。進次が握っていた携帯と同じタイプだ。慈英は折り畳まれた携帯を展開した。ディスプレィに光が灯る。慈英は電波状況とバッテリィの残量を確かめた。

 慈英はもう一度庁舎をちらっと見て明るいことを確認すると、素早く新規メイルを作成し、仲間への支持を打ち込み始めた。攻撃が始まり、合図があるまで、どれほどの時間が残されているのか、全くわからない。慈英は一秒に何十字というスピードで、誤字を生まずに文章を作成していく。手が攣りそうになるのを感じた。

 メイルを打ち込み終わり、送信ボタンを押した。慈英はディスプレィに集中していた目を庁舎に向けた。

 慈英の目に、警視庁が闇に包まれるのが映された。ついに始まったか。慈英は合図を待った。手に持っている携帯を折りたたみ、側面の仕掛けを起動させた。そして、ジャケットのポケットから小さな銀色の小球を外へ出し、左手で包み込んだ。

 パン!渇いた銃声がほんの小さな音だが響いた。慈英はハッとする。暗闇に覆われた警視庁から、星のように輝きながら宙を、放物線を描いて落下していく小さな球があった。

 それが合図だった。慈英は素早く立ち上がり、ワゴン車のドアを突破した。左手で握りしめていた煙玉を手短な壁にぶつけて破裂させ、車内を煙で充満させた。中で身動ぐ男たちの影を携帯型スタンガンで次々と制圧していく。ほんの十数秒で車内の人間全員を気絶させてしまった。

 ドアを開けておいたので、すぐに白煙は薄まっていく。慈英は車内にずらりと並ぶモニタの前に座った。そして、そのモニタに繋がっている機器に手をかけた。そのときの慈英は鬼のような形相をしていた。

 

 慈英は作業を終えると、携帯を展開させディスプレィを確認した。「送信完了」その文字に、慈英は安心したように溜息をついた。

「任務、完了したぜ、和田」

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