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真実か理想の復讐者 The Avengers whith IoT(Ideal or Truth)  作者: 藍澄早瀬
第一章 真実を追う小説家 A Writer Who is Truthism
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第一章第一話

今は観察するときだよ、ワトスン君。おしゃべりをする場合じゃない。僕たちはは敵地に潜り込んだスパイなのだよ。(『赤毛(レッド・ヘディッド)連盟』1891年)

 愛実(マナミ)は、その日、フラワショップで花束を買った。本当は白い花がいいのだろうが、愛実は敢えて、黄金色のキンセンカの花を選んだ。愛実にとっても馴染みのある花だからだ。

 毎年行っているので、行き方は百も承知のつもりだったが、最近できた高速道路の影響で、大きく道が変更されており、愛実はしまいに迷ってしまった。

「おかしいなあ……。こっちの方向だと思ったんだけど……。」

 愛実は花束の入った紙袋を地面に置き、立ち止まってスマフォの地図を確認しようとした。

 そのとき、背中に衝撃を受ける。とても強いと言うわけではないが、不意打ちだったので、愛実は前につんのめり、道路に倒れこむ。

 明らかに何者かに押された感じがしたので、愛実は背後を振り返ろうとする。しかし、その前に自身が置かれた危機的状況に気づく。車道にはみ出しているのだ。

 そして、すぐ目の前に車のナンバプレイトが見える。

 愛実は体勢を素早く整え、立ち退こうとするも、ついに足が車と衝突した。

 キンセンカの花びらが辺りに舞い、それを緋色の鮮血が緋く染めていく。そんな様子を眺めながら、愛実は意識を失って行った。


 起き上がればそこは真白の部屋だった。まるで天国で目が覚めたのかと疑ってしまった。

 その白が、所々が錆びて色褪せていることに気付き、まもなく、そこが病室であることに気が付いた。

 それでも、愛実はどこか生きた心地がしなかった。段々と事故前の記憶が蘇ってきたことも、原因の一つかもしれない。あのとき、愛実は確かに誰かに背中を押された、道路に向かって。つまり、相手に殺意があったことを示している。

 ということは、生き残った今、またその命を狙われるということだ。

 愛実はその思考に至ったとき、戦慄を憶えた。恐怖が襲ってきた。しかし、それと同時に、なぜ自分が殺されかけたのか、誰が自分を殺そうとしたのか、知りたいという好奇心が湧き上がってきた。

 真実を知ることを第一とする考え方――真実主義(トゥルーシズム)――を彼女は抱いていたのだ。


 コンコンと、病室のドアがノックされた。この病室は個室になっているので、私に用事があるのは確かだ。看護師だろうか?それとも、お見舞いに来てくれた人だろうか?

 開けられたドアの向こうに立っていたのは、見舞客だったが、予想していない人物だった。

「あれ?まだ意識がないって聞いてたのに、起きてたの?」その人物は愛実のベッドに近づいて言った。

「メアリィ、どうして?」

 その人物は、高校時代の友人、漏田(モルタ)芽亜里(メアリ)だった。高校卒業以来、一度も逢ってないし、連絡もとっていない。どうして、その彼女が突然、しかもこの病室にやってきたのだろう?

「ビックリしたよ。アイミがまさかもう結婚してたなんて。お祝いしてあげられなくてゴメンね。」

 初対面のとき、愛実の字を「アイミ」と誤読されて以来、彼女とその友人には、いつもアイミと呼ばれている。愛実自身もすっかり慣れてしまった。

「どうして、急にここへ?そもそも、どうしてこの病室が分かったの?」

「実はね、サナの旦那さんから依頼されたの。『妻を探してください。』って。」

 拓海からの依頼?

 愛実は旧姓を(サナ)という。今は樫谷(カシタニ)拓海(タクミ)と結婚したことで、樫谷姓となっている。

「え、依頼ってどういうこと?なんで拓海がメアリィの連絡先を知ってるの?」

「違う違う。樫谷さんは客として来ただけで、個人的な繋がりはないよ。」

「客って……、メアリィって、今何してるの?確か前までは歌手じゃなかった?」

 芽亜里は、去年まで、Mary(メアリィ) Mort(モート)名義でソロシンガとして活躍していた。人気はそこそこだったが、愛実もよく聴いていた。Maryの曲を聴いてると落ち着く感じがする。

「音楽界は去年の冬に卒業したよ。売り上げも人気もそこそこだったからね。ま、その手の知り合いとは未だに繋がってるけどね。」

「ふうん。あたしはメアリィの歌は好きだったけどなあ。」

「ま、引退した以上は仕方ないね。今度カラオケで聴かせてあげるよ、生の声をね。で、引退後は、実は探偵業をやってるのよ。」

「え?探偵業?え、どういうこと?」

「そのまんまの通り、アイミが書いてる探偵小説に出てくるような探偵事務所を経営してるの。」

「ええ!ってか、あたしが小説書いてるってよく知ってるね?」

「まあ、探偵だから。」

「いろいろと、怖いわあ……。プライヴァシィもあったもんじゃない。」

「――っていうのは方便で、実際は歌手として活動してたときに噂で聞いてたのよ。」

「あ、なるほどね。」

 すると、芽亜里は立ち上がった。

「じゃあ、そろそろお邪魔して、医師に言ってくるわ。アイミが目を覚ましたって。私も樫谷さんに連絡しないといけないし。」

「それもそうね。じゃあ、またね。あ、そこのカーテン開けといてくれる?外の景色でも見てないと、退屈で退屈で……。」

「はいはい。」

 芽亜里がカーテンを開けたので、そこから、夜景が見えた。

「海が見えるのね。」愛実は言った。

「夜だから、暗くてよくわからないけどね。」

 そう言ったあと、芽亜里は病室を出て行った。


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