中年男性弟子入り
日本には似つかわしくない西洋風の城を模したとある住宅。異常気象のなのだろうか、常に上空には暗雲が立ち込めて、激しい雨が降り雷鳴がとどろいている。ワイドショーが見つけたら珍スポットとして取り上げそうなものだが、何か不気味な呪いでもあるのか。オカルト好きマスコミがまたいで通る空間でもあった。
家の主人は、顔面が蒼白で、髪の毛をオールバックにして、黒いマントを羽織っている。そのいで立ちは、ハロウィンパーティで騒ぐコスプレイヤーとも呼べなくはないが、残念なことに年を取りすぎていて、いい年したオッサンがする物ではないことが明らかだった。つまり、勘違いコスプレイヤーでなければ、本物の吸血鬼ということである。
「何やら地の文が皮肉たっぷりで気に入らぬが続けよう。その通り吾輩は吸血鬼である」
彼からみて下座に座っているのは、風采の上がらない中年男で、やはりマントを羽織っているが、体全体のフォルムを見るに、三段腹でお世辞にもスタイルがいいとは言えない。彼の名は知らない。
「君が我が一族に弟子入りして吸血鬼を目指そうとしている者か。名をなんと申す」
「おらぁ。天内東洋だ」
「吾輩は、モスキート注である。よろしく」
「なんか名前が知ってるのと違うだ」
「その知ってる名前は固有名詞なので使えないのだ。ブラム・ストーカーの小説の主人公の名前でな」
「はあ。そうなんだ。おらぁ、てっきり、ドラ……」
「そこで止めると固有名詞で危なくて使えないものが二つになってしまったではないか」
「某少年誌でなかなか終わらなかった格闘漫画連載物も含めると三つだ」
「増やしてどうする。ここではよその作品名は原則禁止」
「なんかお笑い芸人みたいな名前で拍子抜けしただ」
「いささか失礼な物言いだが許そう。お前こそ、甘い血糖尿とは、いかにも吸血鬼らしい名前で感心したぞ」
「天内東洋だってばさ」
モスキート注は、天内東洋に志望の動機を聞いてみることにした。
「なぜ、お主は吸血鬼になりたい」
「チョコレートを食べすぎて、今度、まんじゅうを食いたいけど、口の中が甘々だから口直しに塩辛いものが欲しいだ」
「冗談はその辺にして、本当の理由をいいたまえ」
「だから塩辛いもので口直しに」
「コンビニでポテチでも買え! 」
理由は大いに気に入らないが、久々の入門者でもある。モスキート注は、この中年男性を育ててみたいと思った。
「まあ、吸血鬼になるのは簡単だ。吾輩が天内の首筋をひと噛みさえすれば、明日から天内も吸血鬼の一員だ」
「なら、早くひと噛みしてくんろ」
と無精ひげだらけの首筋を差し出す。
「しかし、それだけでは、野蛮で愚かな吸血鬼になってしまう。我が一族に繋がるのならば、それなりの気品や礼節を身につけねばなるまい」
「勿体ぶってないで、早く仲間に入れてほしいだ。無職だとどうしても肩身が狭くて難儀だ」
「こやつ、就労目的で弟子入りに来たのか」
「資格もなしでつける職業は、吸血鬼ぐらいしかねえだ。おらぁ大卒文系だからつぶしが効かねえだ」
大卒文系でつぶしが効かないとは、よっぽどの事でもあるが、モスキート注はあえて口をつぐんだ。
「無礼者め、ならばなおのこと厳しく躾けなくてはならぬな」
「失礼があったら詫びるだ。どんぞおらを吸血鬼にして下せえ」
天内は土下座し、額を床に擦り付けた。
「そこまでするのならば、吸血鬼としての作法を教えてやらないわけでもない」
モスキート注は厳かなしぐさで、ホワイトボードを出すと「吸血鬼の特徴」と書き入れた。




