無線局業務日誌。7
マイクに向かってイズヤの兵隊さんへの手紙を読上げている。
窓の向うの将校さんが部屋を出て戻ってきた。
何か在ったの?
局長さんと磯貝さんが何か話し合ってる。
局長さんが走って飛び出すと。又何かを抱えて戻ってくる。
受け取る磯貝さん。
磯貝さんが手に紙を持っている。
”音楽に切り替え!”
「では、本日はココまで。音楽をおたのしみください。」
赤ランプが消えマイクオフを確認。
「どうかしたん…。」
放送室のドアを開けると遠くにサイレンの音が聞こえた。
「クララちゃん、空襲だ。」
「え?く、空襲?」
「局長。森の泉って何分?
「え?えー確か、23分。」
「将校さん。どうする?電波止める?」
音のするほう。廊下の町を見下ろす窓にあつまる。
港の灯台から鳴っているらしい。
「いや、停止は出来ない。機体が見えない、ドコからだ?誤報かもかも知れない。」
「あ、あそこ!!何か飛んでます!!」
「どこ!!クララちゃん!!将校さん望遠鏡で見て!!」
局長さん、いえ、みんなが窓にへばり付く。
将校さんが壁にかけてある箱の中の望遠鏡を取り出した。
「アレは!!磯貝君!!誘導爆弾だ!!見てくれ!!」
「ええっそんな!!」
驚く局長さん、望遠鏡を覗く磯貝さん。
「ああ、間違いないですね…。誘導爆弾、でも何で海から…。」
「あ、あの。早くしないと!!」
「ああ、そうだね!!イソガイくん!電波兵器!!」
「待って下さい!!今起動すると街中に落ちてしまいます。何機飛んで来たのかも解かりません。」
「しかし、磯貝君。このままでは。」
「恐らくこの鉄塔の周りを回り始めて時間で爆発します。幸い、この近くに民家は無い。町に落ちるより被害は少ない。」
「イソガイくんこの放送局が壊れちゃうよ!!」
「大丈夫です、20Kg破片爆弾です。少し離れれば大した事は無いはずです。ソレにこの建物はコンクリート製です。何も無い所よりこの建物の中の方が安全です。」
「そ。そんな。」
「大尉どうします?電波兵器を起動しますか?貴方に任せます。」
磯貝さんは将校さんを睨みながら訪ねる。
「よし、誘導爆弾を引きつけてから起動しよう。」
「そんな、この放送局は町のみんなの…。」
「大丈夫ですよ。局長。この放送所は台風にも飛ばされない様に作ってあるんです。爆弾の破片ぐらいではやられません。直撃しなければ…。」
「イソガイくん!!」
「局長とクララちゃんは重要書類持って放送室の中へ!!あそこが一番壁が厚い。」
「わかったよ!イソガイくん」
局長は事務所に走っていく。
「は、はい!!でも、わたしも何か出来る事が…。」
局長さんが書類の束を抱えて戻ってきた。」
「クララちゃんコレを持って。」
磯貝さんが黒いファイルを手渡してきた。
「無線局業務日誌、一番大事な書類だから!!火が出たらソレ持って走って逃げて。」
「は、はい!!」
「さあ、クララちゃん急いで!!」
「磯貝君!!回り始めた!!」
「時間を計って…。未だ蓄音機に余裕がある。」
操作室で次の蓄音機を操作する、磯貝さん。大声で叫ぶ。
「大尉!!何機居ます!!」
「待ってくれ!!…。4機だ!!」
「局長。このランプが付いたらこの切り替えボタンを押してください。次の曲が入ります!」
「わかったよ!イソガイくん。」
「クララちゃん、ドアは閉めないで。でられなく成るかもしれない。」
「わかりました。」
「磯貝君!だんだん旋回半径が小さく成ってきた!!」
廊下から叫ぶ将校さん。
「なに?そうか!!しまった!!」
「どうなっているんだ!!」
「大尉!!旋回半径が失速角度になったら墜落爆発する仕掛けなんだ!!数は!!」
「数が増えてない!!磯貝君!!起動しろ!!」
「起動します!!」
ガラガラと音をたてる電波兵器。
「首振りを始めた…!!ダメだ!!弱い!!」
「回転上げます!!」
「首振りを止めたぞ!!」
「回転下げます!!」
「いいぞ!!機体がふらつき始めた!!」
「大尉!!落ちてきます!!隠れて!!」
「まだだ!!…。いいぞ!!おちるぞ!!!」
クランクを廻す手が疲れてくる。
敵機はドコに行ったのか解からないが。攻撃は始まっていない…。
丘の上に幾つか小さな光が走った。
その後赤黒い煙が上がる。
「くっそ!!やりやがったな!!」
叫ぶ相方。
「おい!!変わってくれ!!」
「了解!!」
相方と変わる。
痺れる手を押さえてラジオのスピーカーに耳を付ける。
サイレンの音が未だ耳の中に残っている。
落ち着いて耳を澄ます。
何も聞こえない。
「他に火の手は有るか?」
「ない!!丘マストだけだ!!」
「敵機は!!」
「見えない!!」
消防団事務所に疲労の溜まった震える手で電話をかける。
「コチラ灯台。放送局に火炎を認める、空襲だ。他に敵機は見えない。逃走した模様。反復攻撃も有りうる、警報に注意せよ!!」
機影が見えなくなって規定時間になったのでクランクを廻すのをやめる。
止まった筈なのに未だ頭の中で鳴っている様な感覚だ。
自警団と消防団を乗せた自動貨車が街中を走る。
「おい、大丈夫か?」
「あ?ああ。ちょっと疲れた。」
その場でへたり込む相方。
「そうか、少し休め。俺は…。対空警戒をやる。」
「じゃあ、俺。海上警戒な…。」
俺達は、ふらつきながら立ち上がった。
この歳でこの仕事はキツイな…。
「ラジヲは…?」
ラジヲのスピーカーは静かな波の音しか出さない。
「だめか…。」