無線局業務日誌。5
磯貝さんはココ二三日泊り込みしていない。
重要な部品が足りないらしい。
しかし、自動貨車に乗って大きな荷物を持って来た。
町のオジサン達と一緒だ。
「はい、将校さんコレが対抗策。」
なんだろう。油缶を縦に繋いだ様にしか見えない。
「コレをつけるのか?図面で見たより大きいな…。」
「モーターは付いてるから配線するだけ。」
「よし、では、取り掛かってくれ。」
鉄塔にロープで引き上げられ、固定される。
「配線と固定完了、テストするよ~。」
「はい、スイッチオン。」
ガラガラと音を立てて回る円筒形の筒。
「はい、回転上げー、下げー、はい動作テスト完了。」
「え?コレだけ?」
「うん、コレだけ、後は本番が在るのか知らないけど…。」
「ああ、大丈夫だよ。鹵獲機でテストしたら上手く行ったから。これで一安心だ。」
「やあやあ、付いたねえ。何か寂しいねえ。局の名前でも書こうか?」
「いやいや、局長、看板じゃないから。」
「でも、せっかく回るんだし…。」
「チェック模様にしたほうが良かったかな?」
顎をさするおじさん、たしか造船所の所長さん。
「目立つから広告でも良いね。」
「灯台守さんの所からの緊急電話も付いたし。海軍サンの監視所からも見てもらってる。電話が来たら起動ボタンを押すだけ。」
オジサン達が自動貨車で帰っていく。
「コレを量産するのか…。」
困った顔の将校さん。
「いや、送信機改造できる所は改造で済ませると思うよ。コレでテスト出来たから。」
「そうか…。」
「よし!じゃあ、お昼からの本放送頼むよ。皆。」
局長さんの掛け声でみんなの気持ちが切り替わる。
「「「はい」」」
「現在感なし!」
昨日から目標の受信が出来ない。
「現在地。間違いないのか?」
何度目かの確認だ。
艦長はうんざりしている様子だ。
「現在地、目標より南南東70km、こりゃ目標は移動しましたな。」
「送信所がそうそう移動するか!艦長、もっと近づくコトは出来ないのか?」
「これ以上接近すると航路に入ります。漁船と遭遇することになるでしょう。」
『ザ…ザザッこちらは、I4MVE、イズヤ帝国軍、戦…臨時放送局・す。これより試験放送を開始します。』
「受信感あり!感度良好。」
「計測開始せよ!!」
「♪~♪。」
「ああ、”春の乙女達”ですね…。久し振りに聞くなあ。」
艦長が鼻歌で歌う。
「反革命的だ、演奏禁止音楽だ!!」
「まあ、良いじゃないですか。ココは公海上なんですから。」
随分と気の抜けたコトを言う艦長、コレから攻撃…。は難しい。
逃走距離を稼がなくては行けない。
残りの予備機は4機しかない。
「まあ良いだろう。計測が終わり次第収容する。」
「はい、かなり良い受信です。何故今まで受信できなかったのでしょう?」
「恐らく機器メンテに当たったんだ。この感度なら問題ない。中尉殿、想定距離で発進できます。」
「よしでは明日朝、受信を拾いしだい発進する。よろしいでしょうな?艦長?」
「ええ、問題有りません。収容終わりしだい。発進ポイントに向かいます。」