無線局業務日誌。4
朝、出勤すると。
磯貝さんが床に倒れている。
毛布に包まって…。
昨日帰らなかったの?
「磯貝さん。大丈夫ですか?」
「う~んクララちゃ~んおねがい、もう少し寝させて。」
「わかりました。でも、もうすぐ局長さんも将校さんも来ますよ。」
「う~ん、じゃあ起きるか…。顔洗ってくる…。」
「はいどうぞ。」
「おはよう、クララちゃん。」「おはようございます。」
書類を整理していると。局長さんと将校さんが並んで入ってきた。
「おはようございます。磯貝さんまた泊まったようです…。」
「そうか…。わるいねえ。」
「うむ、無理させているなあ。」
「おはようさん。皆さん。」
欠伸を噛み殺しながら入ってきた磯貝さん。
体を拭いて着替えたみたい。
シャツが新しい物になっている。
「さて、将校さん、例の誘導爆弾の報告書が出来ました。写真は現像したヤツを張って下さい。」
「うむ、拝見させてもらおう。」
ペラペラ紙をめくる将校さん。
怒っている?
「これでちゃんと動くのか?」
「あ~兵器としては頼りないですね。20kgの破片爆弾に推進と発電の発動機、二つの受信機にアンテナ、差動アナログ計算機。目標に…。いや、電波の発信源に向かって。真直ぐ進んで一番強い所でぐるぐる回ってタイマーで爆弾を落すか、燃料切れで落ちてタイマーで爆発。」
「どうやって発進するんだ?」
「たぶん、航空機から落すか…。車か二輪で引っ張るか?とにかく加速が必要です。手で投げれる大きさじゃない。投射装置が要るはずですね。」
「そうか…。全部でどれ位の大きさになる?」
「ああ、あと、発進前に目標の…中継局の波長に合わせてから発進したみたいです。かなりしっかりした測定器が他に要りますね。ソレまで含めると自動貨車一台ぶんですね。電池込みで。」
「そうか…。飛行機だと難しいな…。」
「そうですね。発動機が手動チョーク付いてるので暖機運転してから追跡波長を調整してタイマーセットで発進ですね。この鹵獲機は暖気が足りなくて燃料カブって燃料切れで墜落。タイマーが壊れたみたいです。」
「うむ~。」
「数機一度に飛ばそうとするとかなり人手が掛る様子です。主翼と胴体は分離できるけど結構な大きさですね。目立ちます。燃料は正確に測っていないのですが2~3時間ですかね。速度も模型飛行機並みです。」
「かなり遠くから出せるんだな。」
「はい、発信源に向って来るダケなので。」
「どうやって防ぐ?」
「発動機音は大きな音なので音で聞こえると思います。後は…電波を止める。」
「ソレは出来ん。」
「簡易空中線を立てて囮にして着弾させる?」
「帝国内に送信所がドレだけ在ると思っているんだ?街中にも在るんだぞ?」
「う~ん、じゃあ。電波を強くする。」
「なんだと?」
「電波の強弱で進路を決めている様子です。受信の空中線の指向性を弄っています。ずれると機体の首を振って探します。在るパターンで連続して電波の強弱を付けると。首を振るのが大きくなり機体バランスを崩してひっくり返ります。」
「…。」
「電波は止めません…。ただ、受信機側にワウ(フラッター)や音割れで音質が下がるかも…。」
「それで行こう…。」
「いえ。送信機に改造が必要になります…。出力は免許の記載事項です。簡単に変更できません。法律上は…。」
「そうか…。出来るんだな?」
「まあ、技術上は。でも逓信局に怒られるのは、ぼかー嫌ですからね!!」
「イソガイくん、落ち着いて。その時はぼくも怒られるから。この放送局は町のみんなの寄付で出来てるんだ。何とか守らなきゃ。」
「でも、局長。軍がココを徴発しなければ。こんな攻撃も…。」
「解かったソッチは何とかしよう。この報告書を見せれば黙っていないハズだ。磯貝君。キミが怒るのも無理は無い。だが、敵はこんなに手の込んだ仕掛けを使ってきている。それだけココは重要な施設で共産主義者共にとって痛い場所なんだ。」
磯貝さんは大きく息を吸って。ゆっくり答える。
「わかりました。ぼかー送信準備に入ります!ココで失礼します!!」
磯貝さんは拗ねている様子だ。
確かにわたしがココに初めて来た時もあの態度だった。
単純に軍人さんが嫌いなのかもしれない。
「ふう、」
「申し訳ありません、大尉殿。」
「仕方ない彼が怒るのも無理は無い。彼には重要な仕事を任せすぎている。彼の能力は帝国にとって必要なのだ。」
皆が皆の能力を必要としている。
わたしの王国語。
磯貝さんの難しい仕事。
局長さんの町の皆への説明。
将校さんの上への折衝と情報整理。