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無線局業務日誌。2

何時もの様に赤ランプが消えると蓄音機の音楽に切り替わる。

壁の軍用電話を取る将校さん。

将校さんの顔が怖い…。

何か問題があったの?

磯貝さんが詰め寄り何かを言い合ってる。

オロオロする局長さん。

「何かあったんですか?」

「いや、コチラの送信の問題では無いです…。」

「戦地での音声放送が途中で中断したそうだ。」

「え?」

このラジヲ放送は中継局を通じて前線の向こうの王国に放送していると聞かされていた。

前線では敵陣地に向かってスピーカーで聞かせていると新聞にもあった。

わたしはそのつもりでマイクに語りかけていた。

「そんな…。」

「とにかく!コチラの機材には問題は無かった。中継局か受信側の問題だ。あと…。考え辛いが…。自然現象。」

かなり興奮する無線技師の磯貝さん。

「わかった。中継局は山の上だ。今向かっている。そのうち報告が在るだろう。」

その日はソレで終わった。

しかし、次の日の磯貝さんの表情でかなり深刻なコトに成っていると思った。

だって、凄い落ち込んでいるんだもん。

「中継局の空中線と増幅器がやられた…。」

「え?増幅器って何ですか?」

まるでお化けを見るような目で見られた…。

けっこうショック…。

わたしよりショックの磯貝さん。

「復旧に時間が掛る…。無線機は一品物だ。製造と検査で3ヶ月だ…。」

「あの。他に方法はないんですか?電線を繋ぐとか…。」

「無線は線が無いから無線なんだ…。線が在ったら電話テレスピ…。」

「そうです「あった!!!」か…はい?」

「電話在るじゃないか!!」

「は?はい?電話は在ります。」

「ありがとう!!クララちゃん!ぼかーちょっと忙しいから!!局長に話しといて!!」

「え?何を…?」

走り去る磯貝さんの太い背中を見送る。

「あの、今日の放送は?」

のこされたわたし。


時間になり放送室に入ると壁の電話が分解されていて。

将校さんが怖い顔している。

オロオロ局長さんにウキウキ磯貝さん。

磯貝さんがこんなに嬉しそうなのは見たこと無いです。

時間通りに始まる。

原稿を読上げる。

何時も通りに終了する。

赤いランプが消える。

知らないイヤフォンを聴く将校さんは無表情だ。

わたしが放送室から出ると。

「どうやら上手く行ったらしい。」

「そうでしょ?大尉?ぼかー自信が在ったんだ。出来るハズだって。」

「しかし、そんなに長く使えないぞ?」

「いいのかい?イソガイ君。そんなやり方で?」

「どうせたいして使って居ない局線です。悔しかったら早く中継局を復旧させろって言うんです。」

「どうかしたんですか?」

「中継局が爆撃に有ったんだ。ソレで前線に送信できなく成った。だから軍用の仮設電話に音声乗せて現地の放送器から直接流した。」

「え?あの?解からないんですが…。」

「ここは、ラジヲ局でなく嵩声電話局になったんだ。いや、他の国境にはラジヲで流れているから。放送局だけど。」

「え?こうせいでんわ?」

「電話で放送の音声を送信したんだ。中継局が壊れた、変調していないから無線じゃない。勿論音質はかなり下がった。」

磯貝さんの言うコトは良く解からない。

「はい、わかりました。電話してるんですね?」

満面の笑みで頷く磯貝さん。ホント解からない。

「しかし、どうやって、中継局を爆撃したんだ?」

思案に暮れる将校さん。

「飛行機で、ですか?」

ニュースの中にあったパイロットのインタビュー記事だ。

飛行機は布張りでピストルで打ち合い。レンガを投げ合う。

爆弾は一個つづ手で落とす。

なかなか当たらない。

「かなりの腕だ。」

「飛行機から降りてハンマーで壊したほうが早いですね。」

すごく他人ゴトの様に話す、磯貝さん。

機械が上手く行って機嫌が良いみたい。

「おいおい、たのむよイソガイくん。機械はキミが頼りなんだ。」

「そうだな…。山の上に着陸か?」

「まあ、ぼかー見に行くのでその時ついでに…。」

「ああ、頼む。電話回線は予備を廻してもらう様に上に頼むよ。すまないが中継局の復旧を急いでくれ。」

「材料が有ればね…。」

真空管?球は配給品でも申請書が要ると磯貝さんは何時もぼやいていた。

「書類が在れば通す様に上にお願いするよ。」

「では期待せずに待ってます。」

磯貝さんはいい加減な敬礼をして道具をまとめて自動貨車に載って出て行った。

局長と将校さんは明日のプログラムの計画で言い争っている。

局長は戯曲の”華の歌姫”がやりたいらしい。

戦地にでた騎士を待つ姫の悲哀の歌だ。

結構暗い話。

間の歌が良いらしい。

将校さんは行進曲を放送したいみたい。

何時もなら磯貝さんがダメ出しして纏めてくれるけど。

今日は居ない。

どうしよう?もう、終業時間だ…。

「とりあえず、磯貝さんが戻らないと蓄音機の調整ができません。明日はメルーベ男爵のお話の続きでお茶を濁しましょう?コチラの活動を阻止するのが敵の最大の目的です。話を続けないと…。」

「「そうだな、明日はソレで…。」」

良かった、とりあえず納得したみたい。

でも、敵って誰なんだろう?

わたしはマイクに向かって原稿を読上げているだけなのに…。





「司令部より入電中。」

「内容は?」

思わず水兵に聞いてしまった。

「現在、暗号変換中。」

返答は私の期待するものでは無かった。

思わず舌打ちする。

ソレが耳に届いたのか、よれた帽子を被った髭面の艦長の顔が歪む。

「受信が終わり次第潜行。」

「潜行準備。」「潜行準備かかれー。」

「おい、艦長!返信を!!」

「中尉殿。現在。ココは敵の哨戒圏内です、無用な発振は敵に居場所を教える様なモノです。」

「私は政治将校だぞ!!」

「ココの艦長は自分です。フネの安全に係るコトは自分が判断します。政治のコトはそちらでどうぞ?」

思わず舌打ちする。

コイツ等は支配階級の犬だったヤツだ。

しかし、この難しいフネを動かすのに尤も適した水兵たちだ。

「艦長!受信完了。」

「潜行せよ!!60」

「せんこーかいしー。目標60」

「潜行。60ヨーソロー。」

艦首が下を向くのが解かる。

床が下がっているのだ。

今だ海の中を沈む船が在るとは信じられない。

赤いランプで照らされる船内の壁は無数のパイプとバルブで埋め尽くされている。

走り回る水兵。

「ツリムよーい。開始。」

「ツリム。開始。」

「ツリム安定。深度停止、現在62。」

「よーし、良いぞ。各員待機。聴音厳とする。このまま日没まで待つ。」

「艦長、解読完了。司令部発”歌姫今だ泣き止まず。”以上です。」

「なるほど、あの玩具は無駄だったようですな。政治部中尉殿?」

「まだ。予備が在る、もう一度攻撃を行う。」

「では、又、明日から歌姫の声を聞く仕事ですな。」

「艦長、次はもっと近づいて作業をしたい。」

「むずかしいですね…?」

赤い薄暗い艦内灯では艦長の表所を窺うコトは出来ない。

しかし、良い表情では無いのは解かる。

「おい、サボタージュか?艦長?」

「いえ、自分はこのフネを持って帰るのが仕事なんです、貴女の玩具は自分の仕事では無い。」

「おい!!コレは内務省の決定だぞ!!」

「では海軍軍令部を通して下さい。」

「くっ!明日再度測定を行い攻撃地点を割り出す。良いな?」

「それくらいは問題ありません。ああ自分は休憩の時間です。後は副長にどうぞ。」

艦長が自室に入ってしまう。

休憩は労働者の権利だ。

政治将校でも覆すコトは出来ない。

どちらにしても放送時間に成らないと測定すら出来ない。

このフネは足が遅い。

非常に気に入らない。水兵も、艦長もだ!

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