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無線局業務日誌。1

無線技師の磯貝さんが窓の向うの操作室で手を上げる。

指を倒す。3,2,1。

赤いランプが灯り送信開始。

マイクオンのスイッチを確認して。吸い込んだ息をゆっくり吐く。

「こちらは、I4MVE、イズヤ帝国軍、戦時臨時放送局です。本日、帝国暦483年睦月。廿日。帝都では汗ばむ日が続いてます…。」

淀みなく原稿を読上げる。

磯貝さんは何時も操作卓のメーターを見てコチラを見ない。

その隣りの、放送局長は心配そうな顔だ。

対照的に無表情で相槌をうつ将校さん。

「さて、戦地の兵隊さんへのお手紙はココまでです。これからは王国語でお送りします。」

ここからがわたしの本当の仕事だ。一呼吸して始める。

『アンダリット王国のみなさん。今日は、嘗ての王都。メルーベ男爵のお話をしましょう。』

なんて言う事はない、嘗ては王国で子供達に親が語った物語だ。

メルーベ男爵は大酒呑みの博打好きで腕っ節が強くて愛馬のマリーと旅をする話だ。

途中に色々な冒険がある。

今、嘗ての王都では発禁になっているらしい。

その情報を元にして将校さんが提案した放送だ。

『…男爵は、愛馬マリーと共に次の村に向かうのでした。今日はここまでにしましょう。では又。アンダリット王国に光を。』

赤ランプが消えマイクスイッチを確認する、オフだ。

磯貝さんはイヤホンを聴きながら何かを操作している。

今は蓄音機から音楽が放送されているはず。

調整の終わった磯貝さんは局長と将校さんに合図を送っている。

窓の向うで音は聞こえないけど”良好だ。”というコトはわたしでも解かる。

壁の大げさな電話機のランプが点き大きな受話器を取る将校さん。

軍人さんしか取ってはいけない電話だ。

一応わたしも軍属、でも取りたくない。

何を答えて良いのかわからない。

受話器を持っている将校さんは何を話しているか解からない。

けど、そんなに悪い話では無いみたい。

悪い話のときは凄い怖い顔になる。

最近解かった。将校さんは無表情の時は怒ってない。

怖い顔と笑い顔の時は怒っている。

局長さんは何時も心配そうな顔。

受話器を置く将校さん。

二三会話すると、ほっとする局長。

どうやら上手く行ったみたい。

笑顔で局長さんがドアを開ける。

「クララちゃん、OKだよ。良かったよ~。ばっちりだって。」

「局長さんありがとうございます。」

「うんうん、いいねえ、良い声だから。評判良いって!。ねえ!イソガイ君。」

「あ?いえ、さくらサンの声の方が濁音でサチらなくて良い変調なんですが…。」

「いいじゃないか?さくらさんは腰痛で来れないんだ。」

「あ、あの、サチって何ですか?」

「いえね、どうしても中継局の増幅通すと過変調ギミになるからザジズゼゾに雑音ノイズが乗るんだ。さくらさんはソコラ辺を上手く抑えて発音するから…。」

「え?過変調??」

「ああ、良いよ、クララちゃん。ソコラ辺は無線屋さんの仕事だから。」

不満そうな磯貝さん。

磯貝さんは小太りで無線技師で技士専門学校と帝立大学を出ている凄い人。

悪い人では無い。意地悪もしない。

だけど。ヘンな人だ。

局長さんは局長さん。

この町の名士でココの民間ラジヲ放送局の主人。何時もカイゼル髭の蝶ネクタイ。

この放送局は海が見える町を見下ろす丘の上に立っている。

昔は漁師さんと町の人に時間と天候を送る為の小さな放送局だったらしい。

何時も蓄音機から音楽を流していたそうだ。

戦時放送の為に情報局が接収。放送内容は殆ど変わらない。王国語放送と、偶に数字の読上げをするだけだ。

いつも無表情の陸軍の情報将校さん。ココで一番偉い人。

あと、持病の腰痛で今、療養中の元からココのアナウンサーのさくらさん。可愛いおばあちゃま。

掃除と賄いのお弁当をもってくる管理人の御爺さん。

そして、わたし、この春、女学校を卒業して軍人の父の紹介でココに配属された、棚部・リーナ・クララ。18歳。

母親譲りの亜麻色の髪。女学校時代は伸ばしていたが流石に軍属になった時に短くした。

一応軍属扱いなので若草色の婦人軍装を着ている。

コレだとバスと路面電車が割引なのだ。

でも、すれ違う水兵さんや、陸兵さんが敬礼してくるのではずかしい。

わたしがココに居る理由は、母が嘗てのアンダリット王国生まれ。

祖国を革命に追われてこの国に来た。

母とお爺様がカフェを開き、給仕で働いていたお母様に、足繁く通った父…。と何度も聴かされた。

正直、年頃のわたしにそんな話されても困る。

母はわたしに、アンダリット語でよく語りかけた。

お陰でわたしのアンダリット語の発音はかなり自信がある。

父の祖国であるイズヤ帝国は母の母国で在った人たちと戦争中。

でも母達を追い出した人達なので正直、罪悪感は無い。

職場が決るまで、かなり軍人さんの面談を受けた。

でも偉い人は、祖国がどっちか?より。社会主義思想の方に警戒していたみたい。

何故かあっさり配属先が決った。

わたしは、軍人だけど軍人じゃない。

わたしの外見はイズナ人では無いけどイズナ人。

わたしは王国語を話せるけど社会主義者じゃない。


わたしの仕事は嘗てのアンダリット王国兵と国民に王国語で語りかけること…。

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