歩む
ザァァァァァァァ---------ーーーーーーーーーー
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風が強く吹きつけられた。
晴天の日差しが地面を照りつけている。
あつい。
汗が肌を滴り落ちていく。
ザク、ザク。
男は歩みを止めない。
地面は乾ききっている。
時折、丘の合間から、岩の物陰から何かが動く音が聞こえる。
空には肉食の鳥が飛んでいる。
時折耳に入るそれらの雑音は、自らの足音に耳を傾けている限り気になる程のものではない。
あつい。
時折吹き付ける強い風がせめてもの救いか。
流れ出た汗が乾き、体温を下げてくれる。
男はふと足を止めた。
近くにあった岩に腰をかけ、背負っていた荷物から水筒を取り出し一服した。
一度深く息を吐き出し、目を閉じた。
何を思ったのか、自らの手をまじまじと見つめ、右手で左の手のひらを握り揉みしだいた。
そして、左手で、数日間手入れをしていないであろう自らの髭を撫でた。
蒸発した汗に含まれていた塩分が肌に結晶として残っているのがわかった。
あつい。
男の瞳は、薄い茶色に染まっている。
時々、視界が何らかの理由で歪むことがあるが、それだけ体力を消耗しているということだろう。
古くなった灰色の布製のバックパックに意識を寄せた。
荷がだいぶ軽くなっている。
食料が相当消費されたということだ。
男は立ち上がり
ザク
また歩き出した。
日差しが照りつけ、汗が滴り落ちるも、一陣の風がすぐに消してしまった。
あつい。
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男の出立ちは、いたって普通の旅人のようだった。
黒い外套に黒いズボン。灰色のバックパック。帽子がわりにフードを被っている。
いずれも古く、砂埃などで薄汚れていることから、長らく旅をしてきたのだろうと、男を見た人々は思ったことだろう。
しかし男の姿を見る人間はいない。
誰もいない。
男はそんな場所をただ一人歩いていた。
荒涼とした地をなぜ一人歩んでいるのか。
男には理由があった。
男はある場所を探していた。
理由に適した場所があり、そこを探していたのだ。
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「だいぶ歩いたな」
男はふと考えたことを口に出した。
長い間一人でいると、たまにだが自分の思考が無意識に口に出てしまうのだ。男はそうした癖を持っていた。
「歩き続けてもう5日か。そろそろ見えてくるだろう。」
日が傾きかけていた。
そこで男は、野宿に適した場所を探し、荷を下ろし夕餉の準備をし始めた。
「ここらは土が湿っている。川が近くにあるか‥」
案の定近くに川があった。
一息つく。肉体的にも精神的にも。
水の有無は、肉体の維持には最重要であり、精神の安寧の一つでもあった。
男は火を起こし水を沸かし、手持ちの干し肉を煮込みスープを作り、乾パンを浸して食べた。
「味気無えな」
一言不満を口にするが、誰も答えるものはいない。
日が落ちた。
月明かりが男を照らす。
日中のような刺すかのごとく降り注ぐ日差しはなく、打って変わって冷たい空気が辺りを包んでいる。
凍えるほどではないが、薄着でいると体調を崩すだろう気温だった。
横になると、ブブブっと荷物の中から音がした。
「何だ?」
荷物の中を探ると
「おっ、LINEだ。」
え?
「『今あなたの後ろにいるの』?、何だこれ」
LINEって、そんな感じの物語じゃなかったじゃん!
もっとこう、荒涼とした大地をある目的のために一人旅している男が、過去語ったり、懐かしんで見たり、
なんか特別な展開っぽいのじゃないの?
「後ろって、、、
後ろには何かがいた。
この世に存在しないはずの何か。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!!!」
男は何かに取り込まれ、消えた。
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あれ?
僕はさっきまである男の旅路の最後をナレーション目線で語っていたはず。
ここは?戻ってきている?
僕はさっきまで、ある男の姿を一定の距離から眺めて記録していた。
そしてその日の夜、誰かからLINEを受け取った男は、『何か』取り込まれて消えた。
怖い。
何だったんだあれ。
この世のものじゃない。
白い靄のようだった。
男は跡形もなく消えた。
僕は現にこちら側に戻されている。
怖い。
なぜ急にあんなことに。
ん?このメッセージは何だ?
『次はお前だ』
あっ
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ザァァァァァァァ---------ーーーーーーーーーー
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風が強く吹きつけた。
重くのしかかるような曇天が、今にも地面の全てを流し尽くそうとしているようだった。
雨だ。
完
暇だったので、最近読んだ小説、最近見たYoutubeなどなど織り交ぜながら書きました。
処女作だからなのかわかりませんが、小説って構想練るの大変だなと染み染み思いました。