5-女子高生!
「231打数28安打1ホームランか…」
一打席勝負の記録を付けてきたノートを見返しながら、健太は呟いた。
あのホームラン以降、健太は一打席もヒット性の当たりを打てていない。
まあ、実際の敵になる訳じゃないし打てなくてもいいか。それより明日の入学式の準備しないと。
最近の健太は優人に勝とうとすら思わなくなっていた。一打席勝負も練習の延長だと割りきっていたし、23打席連続無安打という記録に対してもなんの感情も抱いていなかった。そうすることによって虚しさが消えていくのが分かったからだ。
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入学式当日、バス停で優人と待ち合わせをしていた健太は集合時間の5分前に待ち合わせ場所に着いていた。一方の優人は集合時間を10分ほど過ぎた頃にやってきた。健太が乗ろうとしていたバスは3分前に行ってしまっていた。
「ごめん、遅れた」
「いいよ、いつもの事だし。むしろ今日はいつもと比べると早くきた方じゃん。この前なんて2時間待たされたし。」
「まだそれ引きずってんのかよ。2ヶ月ぐらい前の話だしちゃんと謝ったじゃん。」
「いや、まだジュース5本奢ってもらってない。」
「頼むから3本にまけてくれ!!」
「やだ。今週中までに5本。」
「それはそうとさー、駒城高校ってかわいい女子多いよな!」
話の転換下手かよ、と心の中で健太は突っ込むが男子学生にこの手の話は盛り上がるのも事実なので健太は乗ることにした。
「それは思う。ていうか、高校生ってだけで色気とか増すよな。あとスカートとかめっちゃ短か…」
健太は女子高生について熱弁しようとして言葉を詰まらせた。優人の後ろに2人組の女子が居ることに気付いたからだ。片方の髪の長い子はドン引きした目でこっちを見て、もう片方のショートカットでいかにも元気そうな子は大爆笑していた。二人は制服を見た感じ駒城の生徒のようだ。
優人もそれに気づいたようで、顔から血の気が引いている。
「朝から猥談とは、元気ですなぁ」
ショートカットの方が話しかけてきた。
「初めまして。柴田優人、1年生です!」
ニコッと笑い何事もなかったかのように済ませる優人を見て、向こうは呆れ顔になっていた。
「今吉健太です。さっきの事は無かったことにしてください…」
「やだ。私は大野恵!呼び捨てでいいよ。」
ショートカットの方が笑いながら言ってきた。
「私は上本志織。出来れば名字にさん付けで呼んでほしいな。ていうか、あまり関わらないで。」
長髪の方は未だにドン引きの眼差しだ。
「えぇ…」
健太と優人が声を揃えていった。
すると、上本志織は笑いながら「冗談だよ。私も呼び捨てでいいから!」と言った。
自己紹介が終わると、ちょうどバスがやって来た。4人はバスに乗ったが座れそうにないので立ったまま話を続けた
「二人とも馬鹿そうなのによく駒城に入れたね。」
恵が真顔で言う。
「今日会ったばかりの人に馬鹿そうとは失礼な。ていうか、俺はともかく健太ははそこまで馬鹿じゃないぞ。」
優人がそう答えると、すかさず志織が
「じゃあ優人は袖の下使ったの?」
と聞いてきた。
「そんなわけないだろ!野球入学だよ!」
袖の下の意味を理解していなさそうな優人にかわって健太が代弁してあげた。
「ごめんごめん。そういえば駒城って野球の強豪だったよね。何気にすごいんだ。」
「何気には余計だよ。二人は何か部活やるの?」
健太が聞くと今度は恵が答えた。
「私達はバドミントン部だよ。中学の時はダブルス組んで県大会上位入賞もしたんだ!ちなみに私達もスポーツ推薦で入ったよ。」
「なんだ、結局二人とも俺と同じ馬鹿じゃん。」
優人がそう言った瞬間、恵の拳が優人の頭の上に落ちてきた。
「別に私達は学力でも入れたから!」
しかし優人はあまりの痛さに悶え、聞いていないようだった。
そしてそれをみた健太は恵にだけは逆らわないことを心に誓った。
そんな話をしているうちにバスが目的地についた。