1-少年編
今吉健太は物心がついたときから野球が好きだった。父親の仕事が休みの日は父と野球の特訓をしていた。もちろん父親が強制していたわけではないので健太が友達と遊びたいと言えば特訓は中止になったが、そんなことは年に数えるほどしかなかった。
健太が小学校4年生になると、地域のリトルリーグのチーム:高坂リトルに入団した。入団式の日、健太は15人ほどの他の入団希望者達と一緒に監督・コーチの前に並び自己紹介を行った。その後コーチからチームの説明を受けた。4年生の内は5.6年生とは別メニューでコーチが指導するそうだ。
監督が一通り説明をし終えた後、新入団者達はコーチの指示でキャッチボールを行った。そこで健太とキャッチボールしたのが柴田優人だった。
優人の投げるフォームは綺麗だった。健太も他の子達と比べるとまだ良いフォームで投げていたが優人は次元が違った
その後のノックやバッティング練習でも優人はずば抜けていた。今までの父との特訓で野球に自信があった健太だったが、自分は優人の足元にも及ばないと思った。そして、そう感じてしまうことがこの上なく悔しかった。
練習が終わったあと優人はコーチに呼び出された。次の練習から優人は5.6年生達の練習に参加するそうだ。
それからの練習を健太は必死になって行った。1日でも早く5.6年生の練習に合流するために。少しでも優人に差をつけられないようにするために。
必死の練習のおかげで、健太は2ヶ月後に優人達と合流することができた。
合流初日、監督は「5.6年生達の練習に合流できるレベルの子が1年に2人も入ってくるなんて」と喜んでいた。しかし健太はそんなことは耳に入らなくなるぐらい驚いていた。ブルペンに優人がいたのだ。
健太が下で練習している2ヶ月の間に優人はピッチングの練習を始めていた。しかも4年生、いや小学生が投げるとは思えないような豪速球を優人は投げていた。
きっと優人みたいなやつがプロ野球選手になれるんだろうな。そして、俺はプロにはなれないんだろう。だから俺と優人の差は埋められないし、優人には勝てない。
優人の球を見たときなんとなく健太はそう確信した。そして確信した瞬間、健太の悔しいという気持ちが憧れに変わった。優人と競うのではなく一緒に野球がしたい。
「監督。俺キャッチャーやりたいです」
少し間が空く。
急に健太が言ったので監督は驚いたのだろう。
そして「わかった」と監督は答え健太にキャッチャーミットを渡した。
「それはチームの備品だ。しばらくの間はそれを使え。そして今日はそのミットを使って優人とキャッチボールをしろ」
監督はそう言ったあと優人を呼び健太とキャッチボールするように言って、監督は野手達のノックに向かった。
「健太くんも上に上がったんだ。」優人が話しかけてきた。
「呼び捨てでいいよ。それじゃあキャッチボール始めるか」
「はいよ、健太。」
そう言うと優人はブルペンのマウンドの方へ行き、キャッチボールをはじめた。あの綺麗なフォームを見てももう悔しいとは思わなかった。
閲覧ありがとうございました。
続きは遅くなると思いますがきっと更新するのでよかったら次も見てください。
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