13-8 日本独立戦線
そろそろ日本編も山に近づいてきたかな。
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アリサに付いていきながら草の中をかき分けていく。もう道じゃない所を通っているのだが、道は分かっているのだろうか。迷ってないよな?
そんな心配を他所にアリサはどんどんと進んでいく。昨日まで町に居た女の子とは思えない俊敏さだ。
暫くするとやっと草むらから出る。そこまで行くとアリサにも余裕が出来たみたいで、俺の買った物をひったくる。
「ありがとね……あれ? 頼んだ物とは違うけど?」
中身を見て、不満そうな目線を向けて来るアリサ。
いや、人に買わせたのに文句言うな。
「……男の俺には口紅の色の違いが分からん」
するとアリサが食いついて来る。
「ローズピンクとコーラルピンクは全然違うでしょ!! ローズピンクはーー」
と唐突に語り始めるが、全く分からん。同じピンク色じゃないか。
教えるのは無駄だと分かったのか諦めて口をつぐむアリサ。
そして振り向いた時は苦い笑顔だった。
「いや、私が悪かったわ。買ってくれたのに文句言って……ラインが買ってくれなかったらそもそも無いのにね」
ごめんなさい、と頭を下げるアリサ。
「いや、俺もしっかり確認するべきだった」
店の品揃えが悪く何店舗も歩くはめになって、余り確認もせずに買った自分の不手際もある。
アリサもここ最近の日本の変わりようにまだついて行けてないのだろう。ちょっと前までは何もかもあった時代だった。
だが火星独立軍に占領され、混乱した日本。火星独立軍の統治が悪い訳ではない。戦争の影響が流通や生産に影響が出ているのだ。もう少し経てば落ち着くだろうが。
化粧品もそうだ。戦争の影響で品揃えが悪い店が多くなっている。日本全体が品不足なのだ。
これも日本独立戦線が大きくなった要因の一つだ。現状に不満に思った人達が支援している。
その大きな抵抗勢力の本部にこれから向かうのだ。少し緊張してくるな。
切り出した崖の下の空洞の中にライトを点けて入っていくとそのまま狭い道を通っていく。すれ違いがギリギリ出るかどうかの狭さだ。
暫く行くと明らかに人工物であるコンクリート製の階段が現れる。下っていくと鉄製の扉が現れる。右上にある監視カメラがこちらを向いている。あれで判別しているのか。
扉に近づくと自動で開く。不用心だと思ったが、後々聞いたら管制室の手動だったらしい。見て開くか決める仕組みだそうだ。
中に入ると目の前には開けた広場。日の光は入ってこないのでやや薄暗い。そこには沢山の銃を持った兵士や整備員が集まっていた。
何が始まるのか知らされてないようでざわついている。
ちょうど始まるらしく、少し禿げたお偉いさんが壇上に立つ。その脇には師匠が仏頂面で立っていた。
「えー、オッホン。皆、集まってくれてありがとう。さて、皆に朗報が3つある。
まず一つ目は、先の戦いで鬼神が如く活躍を見せた柳生殿が戻ってきてくれたのだ!!」
大きな歓声を上げる人達。中には嬉しさの余り泣き出す人も。それほど師匠は有名人だったのか……
「柳生殿は我々を苦しめる魔法師達を掴んでは投げ、触れたら捻り潰しーー「ゴンッ!!」」
床を叩いた大きな音が響き渡る。大きな音は師匠の日本刀が地面を叩いた音だ。
「……その話は後にしまして、次の話に進んだら如何でしょうか」
自分が絶賛されているのに先を急かす師匠。恥ずかしいのでなく、話が脱線したから戻したのだろう。
「う、うむ。これで我々の戦力は大幅にアップした。そして2つ目だがーー」
お偉いさんは指を指す。その先はこちらを向けていた。
「そこにいる男は魔法師だ。我々に協力してくれるらしい。柳生殿に比べればまだまだだが、強力な戦力だ!!」
大きな歓声と拍手、そして羨望のまなざしが突き刺さる。いや、そこまで期待しないで下さい……師匠には俺が10人居ても勝てるかどうか……
そんな心の中の否定も虚しく、凄い人認定されたようだ。そこの女性の方々、悲鳴を上げないで。
「オッホン。そして3つ目。とうとう我々の悲願が叶ったのだ!!」
お偉いさんが手を広げると後ろの大きな布が取り外される。
そこには白を基調としたHAWが寝かされて居た。
その形はどの勢力のHAWとも違う。
「そう、これが我が国の技術力を結集して作った、国産のHAWだ!! 独立国では無い国産のHAWを作ったのは日本が初だ!! この雷鳴が出来た我々はようやく敵の軍と正面からぶつかれるのだ!!」
今までHAWを持たなかった日本独立戦線はHAWが来れないゲリラ戦や素早く撤退するしか無かった。
だがこの雷鳴によってこれからは思い切り戦えるのか!!
歴史の変換点に立ち会ったかもしれないという事に心が躍る。
雷鳴という日本製HAW。その数は決して多くない。火星独立軍に比べればほんの少しだ。だがこの時、雷鳴の存在感は何故か大きく感じた。
ーーーーー
お偉いさんの演説後、師匠と共に兵士や整備員に囲まれる。もみくちゃにされてヘトヘトになり用意されたVIP待遇の部屋のベットに体を投げ出す。
あー布団がフカフカで気持ち良い……
と早速VIP待遇を堪能していると扉が大きな音を立てて開かれる。
安寧な時に何用か?
首だけを向けるとアリサが仁王立ちしていた。
俺何かやらかしましたかね?
するとアリサが俺の首根っこを掴んで引きづろうとする。
「ちょっと待った!! なになに!? 俺の安寧の時を邪魔するとは、よほどの用なんだろうな!!」
日本に来てからまともに休んでない。師匠の家で少しゆっくり出来たけど、激動の3日間だよ!!
だから今は休みたいんだ!!
そんな心の訴えも却下され、連れて来られたのは道場。ここにも道場があったのか。
そこの中央で座禅を組んで居るのは師匠。ニワトリのように騒がしい俺と対照に波風立たない水面のように静かだ。
精神統一しているのだろうか……今日来たばかりなのに最初からここに居るかのように同化している。
その様子を見て俺の熱い心も急に冷えていく。
俺が落ち着いたのを見計らって師匠は口を開く。
「座れ」
急に呼び出された事に怒りを感じて事なんか忘れ、素直に従う。不思議と師匠の言葉はすんなり入ってくる。
床に腰を下ろした俺達に向けて語り出す。
「1週間後、作戦は開始され、我々は東京に向けて侵攻する。何故1週間後なのかは敵側の都合だ。情報によれば1週間後に日本からハワイに向けて部隊が出撃するみたいだ。そして手薄な東京を我々が襲撃するという算段だ」
地球連合軍の太平洋最重要拠点、ハワイ諸島を攻めるのか。地球連合軍の艦隊が集結している。お互いのHAWと艦隊の戦いがメインになりそうだな。
最近火星独立軍側も海の艦隊が完成したと聞いている。とうとう火星独立軍も太平洋や大西洋に繰り出して行くのか。
更に激化する戦争に心が痛む。
このまま泥沼化するのは避けられないようだ。
「なるほど。……しかし1つ問題が有ります」
「何だ?」
避けられないだろう戦いだ。先に心構えしとくだけでも違う。
「今日、東京にて、白い死神と出会いました」
いつも仏頂面だった師匠の表情に動揺が走ったのが見て取れる。
それほどなのだ白い死神という存在は。
「……そうか」
短い言葉だったが、そこには様々な感情が感じられる。
日本にて最強だろう柳生ですら白い死神ノエを恐れるのだ。
だが恐怖だけでは無い気がする。そこには覚悟を決めた事も感じられた。
これで終わるかと思えた会話だが、これから師匠は本題に入るみたいだ。
「後1週間しか無いだけだが、ライン、アリサ。お前らを1週間で鍛えあげる。この戦いで死なない為だ」
1週間。その間にどれだけの事を詰め込まれるのだろうか。
柳生の強さの秘密が見れる事に嬉しくもなったが休みは全く無くなる事に泣きたくもなった。




