13-7 ためらい
人でごった返す交差点。さっき事故未遂があったなどみじんも感じさせない。なんと希薄なんだろうか。他人に無関心なんだろう。
これを一概に日本人の特徴とは言えない。やはり違う国の占領下という事が不安にさせているのだろう。
地球連合国の統治は長く安定し、ほとんど日本政府の統治だったが、今は火星独立国の統治になり、混乱している。そしてまだ占領されてから余り日数は経っていない。
だから良く銃を持った兵士を見かけるし、大きな広場にはHAWが鎮座している。
よく見るとあれはHAWモドキだ。
人型とは言えず、足はキャタピラ、体はずんぐりむっくり。
両肩には長い砲身のキャノン砲。
背部には垂直発射型ミサイルランチャー。そして胸部には無数のバルカン砲を備えている。手は作業用のアームだ。
拠点防衛用のHAW、通称アイギスだ。
アイギスーー盾という意味だが、防衛に関してはかなりの性能を発揮する。もちろん盾として使うのではなく、固定砲台としての火力がある。大型のキャノン砲、ミサイルランチャーとHAWには持てない凄まじい火力を有している。
そして近接戦では胸部のバルカン砲が一斉に火を噴く。その火力は盾無しでは近づけないほどである。
そして欠点は機動力の無さで、空中にいるHAWにとっては的で避けることなんて出来ない。あくまでも拠点防衛用だ。
だが舐めてかかってシミュレーターでボコボコにやられた覚えがある。
そんな因縁の敵を間近で見れるのは何とも言えない物がある。そして思うのがやっぱり敵にも人が乗っているのだと。
戦争ーー俺もかつてはゲームのような物だと思っていた。何も思わず敵を殺し、殺した分だけ報酬や名声を得るのだと。
だが現実は違った。相手も自分を殺そうとかかってくるし、その動きは予測できないのが多々だ。そして死にたくないという敵の表情を見ると躊躇ってしまう。だが殺さないと俺や仲間が殺されてしまう。
殺す事に慣れたんじゃない。躊躇う事を辞めたんだ。
アイギスの前で同僚と笑うパイロットを見て、躊躇いが再燃するが、その躊躇いが命取りになる事を再度自分に言い聞かせる。
俺が軍人である限り、この躊躇いと一生付き合う事になるだろう。解放される時は死んだ時か、軍人を辞めた時、そして戦争が終わった時。
一刻も早く戦争を終わらせたい。好き好んで戦っている奴なんて居ないはずだ。
先程出会った白い死神ーーノエも同じような考えを持っている気がした。化け物と呼ばれる彼でも人の命を助け、人を慈しむ。だが彼も何かの信念の為に戦っているのだろう。そして己の手はもう血で真っ赤に染まっているのに。
ノエの強い信念に心が震える。怖いんじゃない。そこまで貫ける心の強さに感嘆しているのだ。
ノエが何を思って戦っているのかは分からない。だけどいつかは戦う時が来る。その時は全力で戦おう。実力差は大きいけど、背中を向けるのは間違っている。最後の最後まで剣を向け続ける。
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東京駅からまた違う路線に乗る。
そして少し山が見えるような田舎に来るとそこで降りる。
人はまばらで秘密基地を作るには最適かもしれない。
人里を離れ、山に入ると人気は全く無くなる。
そして森のざわめきがやけに煩く聞こえる。
何かがおかしい、と思った時、周囲の草むらからいきなり人が立ち上がる。
迷彩服と顔を緑色に塗り、小銃をこちらに向ける兵士達。
何故撃ってこない? と疑問に思いながら、もしもに備え肉体強化とウォールシールドを展開する。
すると目の前の草むらから1人の眼鏡の軍服の若い男が出てくる。その表情は警戒度Maxだ。
「アナタは何者ですか? それに何故ここに?」
いわゆる警備兵に引っかかったという所だろうか。だが彼らの服装は火星軍とは違う。正に日本国防軍ではないだろうか。
「師匠……柳生さんに聞いてここに来たのだが……」
話が伝わってないのか? それとも途中で2人に何かが……いや師匠がいれば安心だろう。
柳生という言葉にこちらに指を指して、更に顔をしかめる男。
「そんな話は聞いてない!! まさか……柳生さんを尾行してきたスパイだな!! 全員構えっ!!」
四方八方から銃口を向けられる。これでやられはしないと分かっているけど気分は良い物じゃない。
仕方ない。とりあえず気絶してもらうか。
体に力を込めて動き出そうとした時、待って!! という聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
草むらをガサガサとかき分けて出て来たのはアリサ。初めて見た軍服姿に見入ってしまう。うーん、なんか似合わないな。いかにも軍服に着られている感じだ。
息も絶え絶えに待って、と続けるアリサに男は表情をコロリと変える。
「あ、アリサさん!? どうしてここに!? あっ、危ない、コイツは敵です!!」
今思い出したかのように俺とアリサの間に両手を広げて入る男。
男は顔を再度しかめるが、どうしても顔の緩みは隠せてない。
なるほどなぁ。コイツはアリサにホの字か。
分かりやすい表情に思わず笑ってしまうと何が可笑しい!? と男は激高する。
再度向けられる銃口だが、もうそこに先程のような殺気はない。
「はあはあ……山口さん……彼は敵では、無いです」
山口と呼ばれた男はその言葉に動揺する。彼女の言葉が信じられないのだろう。
「まさか……そんな……外国人を我々の仲間に?」
銃口が震えている。もう戦意は喪失しているだろう。
「……はい。柳生さんが決めた事です」
再度柳生という言葉に反応を示した彼は銃をしまう。
「……柳生さんが決めた事なら僕は、従いますよ」
彼は納得していないようだが、銃をしまって去っていく。同じように周りの兵士達も森へと消えていく。
そして残されたのは俺とアリサだけ。息を整えた彼女は笑顔を向ける。
「お帰り、ライン。いや、ようこそ日本独立戦線へ」
そう言った彼女の背中を追いかけて森の中へ入っていく。




