1-7 ユーリ達の行く末
改稿しました。 7/27
(ん……う、うん?)
ユーリは目をこすりながら目が覚めた。目を開けると寝ぼけた意識の中、周りの異常さに気付いた。
そう、世界が白いのだ。周りにはただ一面の白。どちらが上か下か分からない。
(え? 僕は……確か……)
ユーリを記憶をたどる。
僕は確か、奴に吹き飛ばされて……どうなったんだ?
ここはどこなんだ!?
と考えていると後ろから声が聞こえた。
振り返ると人の形をした黒い影みたいのが存在していた。
「……何なんだ? 人……なのか?」
影はユーリの質問に答えた。
「ククク……ある意味、人では無いかな。まあどうでもいい。ユーリ、どうだ? 力は?」
ユーリは自分の拳を握りしめる。
「……アナタが力をくれたのですか?」
「ああ。絶望に抗う力だよ。好きに使うがいい」
ユーリは頭を下げる。
「それはありがとう。でももっと力が欲しい!!」
「……それは何の為だ?」
ユーリは拳を強く握りしめ、影を真っ直ぐ見据えた。
「皆を守りたい!! ……そしてサラを奪った地球連合軍をぶっ壊す!! もうこんな世界は嫌だ! 大切な人を奪う世界は!!」
その言葉を受けた影は揺らめく。
相変わらず表情は見られないが、その影の揺らぎが感情を表しているように思える。
「……見事だ。やはり見込んだだけはあるな。ならば皆を導く力をやろう」
影が手をユーリに 翳す とユーリの身体を光が 纏 う。
「さあ行くが良い。お前の望む未来を掴み取れ……」
影が薄れていく……いや自分の意識が遠のいて行った……
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目が覚めると目の前には白い天井が見える。余り綺麗では無いが、やはり白は清潔感を感じさせる。
(僕は助かったのか……)
助かった事に安堵し、しばらく呆けていると、ユーリが目が覚めたのに気づいてアンジェリカが飛んで来る。
「ユーリさん! 大丈夫ですか!?」
「え? ……う、うん」
ユーリはアンジェリカのあまりの剣幕に気押された。
「ど、どうしたの? そんなに慌てて」
「当たり前ですよ! 異常は無いのに、全然起きなかったんですよ! 心配するに決まってますよ!!」
「あ、そうか。ごめんね」
「そうですよ! ……ユーリさんが起きなかったら私……」
アンジェリカは俯き、自分の拳をギュッと握りしめる。
「え? 何だって?」
「え? ……い、いや、何でも無いです!! あ、皆さんに伝えて来ますね!」
アンジェリカは赤面して、慌てて部屋を出て行った。
(アンジェリカは心配性だな……)
ユーリは苦笑いしながらアンジェリカが無事な事に安堵した。
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(私……何言ってるだろ……)
アンジェリカは走りながら、悩んでいた。
(ユーリさんには……サラさんがいるんだ……まだ。それを振り向かせようなんて……)
と前を見ずに考えていると、人にぶつかった。
「キャッ!!」
「うおっ」
アンジェリカは倒れてしまう。
ぶつかった男はアンジェリカに近寄り、手を貸す。
アンジェリカが見上げて顔を見るとサイオンだった。
「アンジェリカじゃないか。大丈夫か? でもよそ見はいかんぞ」
「ご、ごめんなさい!」
アンジェリカは深く頭を下げる。
そしてふと思い出したかのような顔をする。
「あ、そういえばユーリさんが……ユーリさんが!」
「何!? ユーリがどうしたんだ!?」
「目が覚めました!」
「ーー!?」
サイオンは直ぐに駆け出す。
その前にアンジェリカに伝える。
「皆に医務室に来るよう伝えておけ!」
「はいっ!!」
2人共別々に走り出す。
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ガラガラッという音と共に扉は開けられた。
ユーリはそちらに目を向ける。
「ユーリ! 大丈夫か!?」
ものすごい勢いで詰め寄って来たのはサイオンだった。
「うん。力が前よりも充実している。万全だよ」
ユーリは手をグー、パーと開いたり閉じたりする。問題は無く、むしろ、力に満ちている。
その様子を見たサイオンは安堵するが疑問が沸き起こる。
「前よりも? ……どういう事だ? まだ力が戻るには早いだろう?」
「普通はね。ある人が力をくれたんだよ。前より強い力を」
「そうか……万全ならいい。なら……」
サイオンが次の言葉を言いかけた時、扉が大きく開いた。
「アイツが死んだってホントか!?」
入って来たのは多少息切れしたランスだった。
ユーリとサイオンは疑問の目でランスを見る。
ランスは元気なユーリを見ると、大きなため息をついた。
「はぁぁぁ……アンジェリカの奴ちゃんと伝えろよ!」
すると後ろからクリフとアンジェリカもやって来た。
「ランスさん! ランスさんがちゃんと聞かずに走って行ったからじゃないですか!」
「お前が早く言わねえからだろ!」
「それは走り疲れて、頭が回らなかったから……」
「そこまでじゃ二人共」
クリフが間に入る。クリフは2人に注意する。
「アンジェリカは簡潔に、まとめなければな」
「はい……」
アンジェリカは反省して、俯く。
まるでリスのようだ。
続けてランスを注意する。
「ランスはユーリを心配して気持ちが焦ったんじゃな」
「別に心配した訳じゃねえ……ただ知り合いが死んだら嫌な気持ちになるから確認しただけだ」
ランスは恥ずかしそうにそっぽを向く。そのまま様子にクリフとアンジェリカはニヤニヤし始める。
「フォフォフォ……全く素直じゃないのう」
「ふふ……ランスさんは良い人ですね」
ランスは恥ずかしくなり、居たたまれなくなったのか病室から出て行く。
「逃げたな」
「逃げましたね」
クリフとアンジェリカは2人でニヤニヤしていた。
そんな様子をユーリとサイオンは驚いた顔で見ていた。
「あの2人、いつの間かに仲良くなったんだか」
「うん、見事な連携だよね」
そんな様子で火星は平和な時が流れて行く。
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2、3日後、主なメンバーが会議室に集まっていた。
サイオン、ユーリ、アンジェリカ、ランス、クリフ、他何人かである。
この会議で戦争の後処理を決めるのである。
サイオンが前に立つ。
「皆、集まってくれてありがとう。そして協力してくれた同志達に感謝する。我々は勝ったのだ! 火星は俺達の国だ!」
皆がおう! と賛同する。
「だが、その為に多くの犠牲者を出してしまった……だから明日、黙祷及び、火葬をするつもりだ」
皆は小さく頷く。
そして、サイオンの解散の声で皆部屋から出て行く。
だが、特別部隊のメンバーだけは残された。
ランスはサイオンに問いかけた。
「なあ、サイオン。なんで俺達だけ残したんだ?」
「それはだな。明日発表する事を皆に聞きたくてな」
ランスは頭を捻るが全く出てこない。
「……なんかあったか?」
「うむ。……リーダーをユーリにするつもりだ」
この言葉に皆が驚く。
今までのリーダーはサイオンであり、これからもサイオンではないかという予想を裏切ったからである。
そして一番に声を上げたのはユーリだった。
「え? ……ええぇぇぇぇーーーー!?
なんで僕がリーダーに!?」
「ユーリ、落ち着け。今説明する」
サイオンは慌てるユーリを肩を掴んで落ち着かせる。
「まず、なぜユーリをリーダーに推したかだが、それは前の戦いに理由がある。我々が本丸を抑え、勝利したのは誰もが知っているだろう?」
ユーリ達が活躍したように聞こえるが事実、本丸を抑えなかったら作戦は失敗していた。やはり装備、連度、数が違った。普通に戦えば負けるのは明らかだった。だから陽動し、本丸を叩くつもりだったが、作戦は失敗した。思いの他戦力があったのである。
せいぜい、想定されてたのは見回りの兵士ぐらいであった。
それが完全武装の兵士達と魔法師。備え過ぎも良いところである。
そんな中ユーリ達は打ち破り、司令長官を倒し、指揮が混乱した所を打ち破ったのであった。
もはやユーリ達がいなかったら負けてたのは明らかである。
「そこでユーリは覚醒した。そのおかげで我々は倒せた」
「でも……僕が気を失ったのは司令長官にやられたからだったような……」
「確かにお前は意識を失った。それから我々が覚醒して倒した」
「え? え? ……えっ?」
ユーリは皆が覚醒した事に信じられないみたいだ。明らかに困惑した表情を浮かべる。
「皆、覚醒したの?」
皆、頷く。
「全員がユーリみたいな力を出せた。それで倒した」
「でもそれじゃ僕がリーダーになる理由にはならないよね?」
「そうだな。だが覚醒したのには共通点がある。それはーー
ーー俺達の共通点はお前を救いたいという気持ちだ」
ユーリは衝撃を受けた。
こんなに思ってくれる人が沢山いる……
困惑してるユーリの目に一筋の涙が零れ落ちる。
泣き出したユーリにランスが呆れる。
「はあ、ユーリは泣き虫だなぁ」
やれやれとランスは首を振るが、そこにアンジェリカが乱入する。
「あれ? ランスさんもユーリさんが意識無い時、泣いていませんでした? ですよね、クリフさん?」
「うむうむ」
2人共ニヤニヤとランスを見る。
いきなり矛先が変わった事にランスは困惑する。
「なっ! あ、あれは怪我が痛かっただけだ!」
「そうですか。そういう事にしときましょうか」
「素直じゃないのう」
「けっ! やりにくいなぁ」
微笑ましいやりとりが終わると、全員の視線はサイオンに向き直る。
「ユーリ、お前は俺達の希望だ。お前には何かある気がする」
皆もうんうんと頷く。
「俺達はそれに賭けたい」
皆そんな意見だった。
挑むのは地球連合軍。相手は強大過ぎる。相手は地球全土、いや月もか。それに比べ火星の国力は地方の1都市にも及ばない。
そんな中、喧嘩をふっかけようとしているのだ。
もはや希望が無ければやって行けないだろう。
だから未知の可能性を秘めているユーリに託すのであった。
ユーリはまだ不安そうだ。
「でも……僕は何も知らないし、皆に指示する事も出来ない。それでも良いの?」
「大丈夫。俺達が教えるさ。ここには大魔法師のクリフ先生もいるし、俺も、みんなが支える。なに、お前には難しい事を要求するつもりは無い。希望の旗に成るだけで良い。難しい事は分担しよう」
ユーリはサイオンの目を見る。その目は力強い目であった。
そこまで強く思うなら僕は応えるだけだ。
「……分かった。僕は皆の希望となる。皆を導く!! そのために力を貸してくれ!!」
ユーリの呼びかけに皆が立ち上がる。
「さあ、始めようか。自由の為に!!」
設定資料集も改訂したので良かったらどうぞ( ・∀・)つ