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9-5 未知の領域?

 

 女子トイレーー男子たる諸兄達には未知なる場所であろう。我々が小学生の頃には既に女子トイレは未知なる領域と化していた。そう入っただけで同性の男子達からは「あー」と指を指され、女子達からはヒソヒソ話で噂されてものだ。

 それぐらい早くから男子達にとっては腫れ物扱いされた場所を挙げたラインに白い目線が集まる。


「いや、お前ら待てよ。真面目な話だぞ」


 ラインが言うには、やはり男達には女子トイレに入るのは心地悪さがあるから中は探しては無いのではないかだろうかという事だ。


 その意見に男子達は沈黙で答える。一方、唯一の女子であるティナは未だに白い目線がラインに向けられている。


「エマ先生がそんなところに隠れるかしら? ……ただラインが入りたいだけじゃ?」

「ちょっ、お前は俺を何だと思ってるんだ!!」

「変態」


 即答されるのは堪えるなあ。確かに喫茶店の時はどうかしてました。ごめんなさい。


 ショボンとした表情を見せたラインにティナは満足したのか話を進める。


「なら私が行けば問題無いわね。あんた達は待機」


 まあ無難な選択に一応全員が納得する。

 しかしラインは少し不安になる。


「ちょっと待て。一応俺も行こう」


 するとティナが再度白い目線を送ってくる。


「……そんなに入りたいのかしら? この戦いが終わったらたっぷり入れてあげましょうか?」

「い、いえ。結構です」


 これは入れられた後ボコられるパターンだ。そんな事してまで入りたくない。


「一人よりは二人で向かった方がもし敵に遭遇しても倒せる」


 ラインの正論に少し考えた後、頷く。


「……そうね。でも女子トイレの外で待ってなさいよ?」


 どんだけ俺への信頼ないんだよ。俺そんなに変態じゃないし。


 作戦が決まったラインとティナは立ち上がる。


 さて行きますか、女子トイレへ!!







 -----


 人気の無い廊下を通り、階段を降りて、宴会場の外にある女子トイレに向かう。

 敵の兵士達はグレン達を担いで北に向かっているので今は誰も居ない。また少しすれば戻って来るだろう。


 今がチャンスと思い、グレン達を解放しようと思うが、思い留まる。


 待て、何でこれだけ人が居るのに誰も起きたりしないし、担いでも起きないんだ?


 試しに一人を揺すったり声を掛けたが全く反応が無い。穏やかな眠りについている。


 これは薬か、魔法のどちらかで眠らされているのか。どちらにしろ治療魔法の使えるエマ先生しか治せない。


 仕方なく宴会場を出て、トイレに向かう。

 トイレは宴会場を出て左に少し行った後、また左に曲がった所にある。


 するとトイレから水の流れる音が聞こえる。そして誰かがこちらに向かって来る。

 今から慌てて隠れようにも近場には間に合わないし、隠れる場所も無い。


「ティナ……やるぞ」


 ラインの呼びかけにティナも頷く。二人とも戦う覚悟を決める。

 戦うなら先手を取る!!


 体に強化魔法を使い、廊下を駆ける。出て来た所に一撃を入れる!!


 ラインが角に到達したのと同時に敵の兵士が目の前に出てくる。


 その表情は驚愕に満ちていたが、そこは訓練された兵士。すぐに肩に掛けたアサルトライフルでは無く、腰に付けたハンドガンを構え、発砲しようとしてくる。


 だがもちろんそんな事、させるはずもない。発砲させた時点でライン達の負けなのだから。

 発砲音で他の兵士に伝わり、ライン達を殲滅か、素早い撤退されるとライン達の負けだ。

 だからここは一瞬で倒す!!


 魔法で強化された右ストレートを兵士の鳩尾に叩き込む。

 鳩尾を殴られると横隔膜が瞬間的に止まる事があり、呼吸困難になる。

 だから兵士からの口から出たのはくぐもった声だけだ。


 くぐもった声を出した兵士は跪き、四つん這いになる。

 そこに魔法の壁を使って、空中から飛んできたティナがかかと落としを頭に命中させる。

 その威力は兵士の全身を地面に叩きつけ、即死させるには十分過ぎる物だった。


「ふう……」


 目の前に血を出して死んでいる兵士を見ながら二人とも一息付く。

 初めて人を殺した二人は特に衝撃を受け無かった。


 今までその為に訓練していたし、いつかこの日は必ず来ると分かっていたのだから。もちろん罪悪感はある。そして心地良い物では無いし、これからもこの日の事は忘れる事は無いだろう。

 人を殺したという罪悪感よりも殺さなければ殺される、これは仕方ない事だ、という気持ちでラインとティナの心は埋め尽くされていた。また極限状態で分泌されるアドレナリンでの異様な高揚感も二人を動かしている要因だ。


 だから戦場ではアドレナリンが分泌されすぎて、痛みを感じなかったり、発狂する者も現れる。

 初めての戦場でもちろん全員が発狂する訳では無いが、発狂する者が居ても可笑しく無いのでこの二人が発狂しないのは僥倖だ。


 死体を見て、不快感で顔を歪めた二人は早く立ち去りたい所だが、ここは戦力増強の為兵士の武装を剥ぎ取る。


 腫れ物を触るように兵士の武器を取っていく。やはり罪悪感が二人を苦しめているのだ。


 ハンドガン、アサルトライフル、ナイフ、グレネードを回収した二人は逃げるように女子トイレに向かう。


 そして女子トイレの目の前まで行って、今思い出したかのようにラインは中に入らないに足を止める。


 その様子を一目見たティナは何も言わず、中に入って行く。

 いつもは覚えてたのね? 等と茶化して来るティナだったが、さっきの事を引きずっているのか茶化さなかった。

 何となく女子トイレに対して回れ右をして背中を向けたラインは廊下を見つめるのだが、見ているようで見てなかった。






 -----


 女子トイレに入ったティナは大きなため息を漏らす。

 やはり女子トイレは女子にとっては落ち着ける場所であり、気合を入れ直す場所である。


 さっきは堪えていたがここで少し落ち着いたので罪悪感が襲ってくる。鏡の中の自分は何だか疲れた顔をしていた。それを振り払うように冷たい水で顔を洗って気を引き締める。


 個室へ向かうと全て扉が空いていた。一応、中を見るが特に異変は無い。

 ハズレかと思ってまたため息付いたティナは扉に足を向けるーーその足を空中で止めた。

 この時のティナの頭の中ではまだ探して居ない場所を閃いていたのだ。

 そう、掃除道具入れだ。


 回れ右をして掃除道具入れの前に立つ。扉を開くーー顔の前に拳が見え、咄嗟に腕をクロスするが威力を殺しきれず、飛び退く。

 もちろん強化魔法で強化した身体能力だったが、相手も魔法師らしく強力な一撃だった。


「やるわね。でも残念。不意打ちは失敗ね」


 ティナは皮肉を言いながら、顔を上げる。痛んだ腕を相手に悟らせないように。


 顔を上げたティナは相手を見て、驚愕する。


「え? ホントにここに居たのね」


 そう、相手はエマ先生だった。

 殴った相手がティナと気づいたエマ先生も驚愕していた。


「……ティナさん? あ、ごめんなさい、敵と思って」


 お互いに味方だと分かった二人は警戒を解く。エマ先生は謝りながらティナの体に触る。


「本当にごめんなさい。敵が強力だから隠密で一人ずつ倒そうと思って潜んでいたのだけど、なかなか来なくて、やっと来たらまさか味方だとは……先生失格ね」


 ティナの腕を治療しながら目を伏せたエマ先生にティナは首を横に振る。


「いえ、私も声を出すべきでした。余りにも警戒し過ぎてたのかもしれません」


 お互いにフォローしあった二人は笑顔になる。そんな所にラインが飛び込んで来る。


「おっ、やっぱりいたか。エマ先生どうーー」


 もう治っていた腕でラインを殴るティナ。やっぱり女子トイレは入るべきでは無かったようだ。






 -----


 エマ先生を連れ、部屋に戻る。

 もちろんエマ先生という強力な助っ人に残っていたメンバーは目を輝かせる。


「これで勝てるね!!」


 と興奮気味のマナンにエマ先生は目を伏せる。


「ごめんなさい、それはまだ分からないです。正直厳しいと思います。敵の魔法師の実力は不明。それに敵には銃火器はあるから……」


 もちろんエマ先生はウォールシールドは使えるし、実力もある。

 だが相手は魔法師複数人。いくら優勝な魔法師のエマ先生でも複数人はどうなるか分からない。そして問題の銃火器はエマ先生にしか対処出来ない。

 強化魔法はもちろんものすごい速さで駆けるが、音速で動くわけでも目に見えない訳でも無い。単純に少し早く、硬くなっているだけだ。

 もちろん優秀な魔法師は化け物のような速さと威力を持つが、ライン達は覚えたての新米魔法師。

 銃を乱射されれば避けられない。


 かと言って銃火器の相手をエマ先生にやらして、魔法師とライン達が闘おうとしても使える魔法師は強化魔法とファイヤーボールしかないライン達はすぐにやられてしまうのは目に見えてる。


 だから真正面から戦うのは馬鹿らしく、何かしら作戦を立てる必要がある。

 それにこれ以上時間も無く、仲間も居なさそうなので戦力を増強することは出来ないだろう。


「……エマ先生にはやはり魔法師の相手をして貰うのが一番だ」


 魔法師はやはり強く、万能で欠点が少ない。ならまだ銃火器を持った兵士の方がやりやすい。


 さっき回収した銃火器を場に出す。マナンはアサルトライフルを手に取る。やはりハンドガンよりも長身の銃の方が良さそうだ。


「僕はこれ使うね。……やっぱり遠くじゃないと怖いや」


 戦力を最大に生かすならマナンは狙撃に就かせるべきだろう。アサルトライフルでも単発で撃てばある程度狙撃は可能だ。そんな長距離では無いが。


 残った武器に3人組は首を横に振る。確かにエドウィンはレイピア使い。ファルクは格闘。トムは機械いじり。これらの武器は俺が使った方が良いな。


 ハンドガンとナイフを腰に挿し、ポケットにグレネードを入れる。


 エマ先生にも何か必要か聞いたが必要ないとか。流石魔法師。


 後は肝心な作戦だが、そう簡単に考え付く物では無い。初めての実戦で緊張気味のライン達には余裕は無いかもしれない。


 沈黙がこの場を支配する中、ふとマナンが質問する。


「そういえばラインが回収した装備はあれで全部?」


 装備? そんな事作戦に関係あるのか? 


 とりあえず質問には答えとく。


「いや、防弾ベストと迷彩服、後は暗視ゴーグルがあったな」


 その答えにマナンが目を見開く。


「そっか、やっぱり完全装備だね!!」


 防弾ベストに迷彩服、暗視ゴーグルとか弱点無しだよなあ。隠れたら見えにくいし、暗闇でも暗視ゴーグルで昼間のように明るいし。

 こちらだけ見え放題だよ。


 考えれば考える程、絶望的な状況に頭を抱えるラインにマナンはニコニコ微笑む。


「何で、笑顔……何だ?」

「うん、それはねーー」


 マナンはラインの目を覗き込む。

 その目はむしろ自信に満ちていた。


「ーー弱点を見つけちゃった」



 その言葉は重い雰囲気を一変させるには十分だった。

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