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8-3 異例の試合



 

 既にやる気満々なグレンとアイリーンは多くのギャラリーを連れて、アリーナに行く。この異例な試合にアカデミーは休講になったので上級生や教員が集まり、アリーナは既に満席だ。


 ライン達も座席に座り、応援する。


「グレン、頑張れー!!」

「いつも通りに女落とせー!!」

「グレン君、買ったらパーティーよ!!」


 と観客のグレンへの応援は熱い。


 グレンは手を挙げて応える一方、アイリーンへの応援は無い。

 正確にはルーカスの応援がものすごく効果的なのである。


 ルーカスはアイリーンの肩に優しく手を置き、言葉を掛ける。


「アイリーン、お前ならやれる。俺の自慢の護衛だ。勝ったら焼肉でも奢ってやる」


 とルーカスは微笑むが、当の本人は微妙な表情だ。


「ルーカス長官……女性に焼肉を奢ってもそんなに喜びませんよ。むしろデザート系の方が喜ばれますよ?」

「ううむ。確かに今まで焼肉で喜んでたのは男連中だからな……デザート系にするか?」


 顎に手を当て、悩むルーカスはアイリーンの提案に乗る。

 だがアイリーンは横に首を振る。


「私は別に構いませんよ。焼肉なんて暫く行ってませんから」


 と微笑むアイリーンにルーカスは笑顔になる。


「そうか、じゃあ焼肉にしよう」


 そう言ったルーカスはアリーナを出て行く。


 その背中を見送ったアイリーンは心の中で思う。


(ルーカス長官と2人で行けるならどこでも嬉しいですけどね)


 ニヤッと笑ってしまう顔を慌てて隠すが、グレンはそれを見て、イタズラっ子のように微笑む。


「ほぉ……そういう関係か。さっさと言わないと貴方の彼はモテるから大変だぞ?」


 全く真剣さの無い忠告にアイリーンは目を鋭くさせる。


「貴方に忠告に従う義務はありません。全てが終わるまで待ちます」


 アイリーンの答えにグレンはせせ笑う。


「ふんっ、戦争中に何を言ってるんだ? 明日死ぬかもしれないんだぞ? 片思いのままで良いのか?」


 更なる忠告にアイリーンは自分の考えを述べる。


「片思いのままで死ぬ方がマシです。相手を傷つけなくて済みますから。だから言うなら、全てが終わった後に……」


 会場の何処かに居るルーカスに思いを馳せながら、頭を切り替えて剣に手を掛ける。


「そうか、それがお前の決めた答えなら何も言わん」


 グレンもどこからかナイフを取り出す。


 お互いに構えた時、ブザーが鳴り試合開始を知らせる。


 だがお互いに様子を伺って動かない。お互いに実力が計り知れないのだ。


(グレン君の能力は不明。実力も私と同等ぐらい。これは近接戦は危険ね)


 能力が分からない以上、一瞬の対応ミスが命取りに繫がる近接戦は避けるのが懸命だ。


 アイリーンは掌をグレンの方に向ける。


「ファイヤーボール!!」


 手の前に描かれた魔方陣からは灼熱の炎の玉が撃ち出される。真っ直ぐグレンに向かうーー


 ーーが直前で火の玉がグレンを避けるように何処かに飛んで行ってしまう。

 因みに観客席との間には透明なウォールシールドによって仕切られているので安全だ。


 ファイヤーボールがグレンを避けているような光景に会場は騒然とする。


「一体どういう事だ!?」

「避けたようには見えなかったが……」


 そうグレンはピクリとも動いていないのだ。涼しい顔をアイリーンを見つめている。


 会場が騒然となる一方、アイリーンは冷静だった。


(ファイヤーボールの進路が変わった? 動かされたのか? 阻まれたのか、どういう原理だろうか……)


 ファイヤーボールの進路が変わったのは二つの原因が考えられる。


 1、魔力の操作によってファイヤーボールを制御し、ファイヤーボールが自ら進路を変えた。


 2、ファイヤーボールの進路先に何かが有り、逸れた。


 この二つがぱっと思い付く理由だ。前者は聞いた事は無いが後者ならウォールシールド等あり得る。

 だがウォールシールドの形跡は見られず、そのような高等魔法が使えればそもそもアカデミーに来る意味は無いだろう。


(という事はやはり彼は独自の魔法で、それもここまで性能の高い魔法を……)


 尊敬の念を少し抱くが、今は敵同士。相手を崩す事を考えなければならない。


(ここは魔力操作の可能性を考えてーー高速な魔法で!!)


「ーーライトニング!!」


 掌の魔方陣から稲光が放たれる。

 光速の雷撃がグレンに向かっていく。その速度は光と同じで、もはや反応すらままならない。


 ーーがグレンの目の前で何かに当たって消滅してしまう。


「ーーっ!? まさかライトニングが防がれるとは……これは驚きましたね」


 アイリーンは驚きを隠せない。

 魔法界最速と呼ばれる魔法に反応出来る魔法師は存在しないと言われている。勿論ウォールシールドを事前に用意していたら別だが、何のアクションも表さないグレンにますます謎が深まる。


(予備動作も無しで防御魔法を使うなんて聞いた事が無い!!)


 カラクリが分からないままだが、得意な接近戦を挑むしかないアイリーン。


 不敵に微笑むグレンに会場は様々な議論が飛び交う。ブライスもその一人だ。


(不思議な魔法だな……あの魔法は常時発動系なのか? それとも無詠唱なのか?)


 常時発動系ならばその消費魔力は激しく、長時間使える物では無い。確かにグレンには魔力の多さは有るものの、常時発動の防御魔法は燃費が悪すぎる車のようだ。すぐにガソリン切れしてしまうだろう。

 一方無詠唱の場合は必然的に効果が激減すると言われている。例えばファイヤーボールではアイリーンでもライターの火ぐらいしか出せない。

 どちらもアイリーンの魔法を防ぐには非現実過ぎるのだ。


(……何だ? 一体どうやって攻撃を防いでるんだ?)


 ブライスすらも分からない問題にアイリーンが分かるはずも無い。


(……どんなトリックか分からないけど接近戦でなら!!)


 身体を低く沈ませ、溜めた力で一瞬でグレンとの距離を詰める。

 目の前のグレンは驚いた顔をするがどこか余裕が見える。

 余裕を見えるグレンにアイリーンは警戒するが、アイリーンは全力を叩き込むしかない。


「一刀一閃!!」


 右袈裟斬りを近距離で飛ばす。

 高速で飛ぶ斬激にグレンはこの距離では躱せない。


 当たる瞬間ーーグレンが不敵に笑う。


「ーーこれは見事だ」


 その直後グレンが右袈裟に真っ二つに切れて、地面を赤く染め、地面に転がる。

 その様子に会場は誰もが口を開けて、呆然としている。

 カラーンというアイリーンの剣が手から滑り落ちた音で観客が我に返り騒然とする。


「どういう事だ!? なぜ|AMA《アンチ-マジック-アーマー》が発動していない!?」

「おい、治療魔法が使える奴はすぐに治療しろ!!」

「……真っ二つか、これは治療は無理だ」


 と様々な怒号と悲鳴が上がる中、アイリーンは力が抜けて座り込んでしまう。


「えっ……嘘でしょ? 何で発動してないの? 私は……この手で……」


 顔を手で覆い、泣き出すアイリーンにルーカスは飛んで来て無言で肩を抱く。


 AMAーーアンチマジックアーマーは訓練、実戦で使われる戦闘用の鎧でその防御力は並外れた物では無い。もちろん発動には本人の魔力が必要だがその消費は少なく、長時間使えるという素晴らしい物だ。

 確かにアイリーンの一刀一閃は凄い威力だが、AMAは一度ぐらいなら防げるはずで、この自動防御が発動した時点で負けになる予定であった。

 だが現実は発動すらせず、力を殺し切れなかった一撃は易々とグレンの身体を切り裂いた。


「私は……私は!!」


 罪悪感に苛まれるアイリーンを只々、抱きしめる事しか出来ないルーカスだった。


次回、グレン死す!? デュ◯ルスタンバイ!!

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