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8-1 エルス国訪問

 

 -地球連合軍本部 アイリーン サイド-


 書類とにらめっこしながら頭を抱えている男ーールーカスが居た。

 山積みにされている書類をもの凄い早さでサインしていくが、城のように築かれた書類は未だ難攻不落だ。


 ルーカスがサインした書類を担当部署ごとに分けているアイリーンだが、この量に頭を抱える。


(はぁ……毎日やることと言ったら書類とにらめっこ。偶には外に出たいわね……)


 とため息を吐きながら、窓から見える青空が憎ましく見えて来る。


 再度ため息を吐いていると扉がノックされる。


 ルーカス長官は書類に必死でノックには気づいていない。

 気が付いた私が代わりに返事をする。


「はい、どうぞ」


 返事したのを確認して兵士は失礼しますと入って来る。

 その手には新しい書類が握られていた。


 ルーカス長官は忙しいので、私が代わりに受け取る。

 用件が終わった兵士にご苦労様と声を掛け、退出させる。

 声を掛けないと用があると思って出て行かないからだ。


 手元の新しい書類をため息を付きながら見る。


 ーーっ!?


 ガタンッと大きな音を鳴らして立ち上がったアイリーンにルーカスは顔を上げる。


「どうした?」


 との声にアイリーンは必死に落ち着こうと気持ちを抑えながら、報告する。だが、上がった口角は抑えきれなかった。


「報告します。エルス国から新型HAWについて話し合いたいとの事です」

「ーー何!?」


 これはルーカスも堪らず、大声で叫んでしまった。

 興奮を隠す事も無く、ルーカスはアイリーンから書類を引ったくる。


 書類に目を通したルーカスは書類を置いて、部屋を飛び出す。


 アイリーンは童心なルーカスに多少呆れながら、後を追うのであった。






 -----


 次の日の朝、ニューヨークにある地球連合軍本部からエルス国、ウェリントンに行く飛行機に乗るルーカスの姿があった。隣にはアイリーンも居た。


 もちろん専用機で飛んで行く。飛ぶ飛行ルートは戦線から離れているが一応護衛機を付けて行く。

 航路はニューヨーク→ハワイ→空中給油→エルス国だ。

 安全な航路だが、敵戦闘機が来ないとは言えない。

 表舞台から姿を消したといえども地上では偵察、奇襲、火力支援等1番使われてるのだ。


 そして二つの距離は14000kmにも及ぶ。さすがに途中で何度も給油して進む。


 到着したのは24時間後。ニューヨークに比べ、ウェリントンは16時間進んでいるので日時としては39時間進んだ事になる。


 だから朝出発してもどうやっても夜に到着してしまう。


 さすがに夜中に会談は失礼なので、朝まで待つこととする。






 -----


 次の日の朝、興奮を抑えきれなかったルーカスは一睡もしてない。

 遠足に行く子供だろうか。

 まあ、飛行機の中で沢山寝たから大丈夫なのだが。


 朝10時ぐらいから会談が始まる。

 待合室でワクワクしながら待っているとブライス代表が入室してくる。


 立ち上がり、握手する。


「お元気なようで、ブライス代表」

「まだまだ現役ですよ。この戦争が終わるまではやり続けますよ」


 お互いに微笑み合う。

 二人の気持ちは同じ。

 一刻も早く戦争を終わらせたい意思の元、今日も生きているのだ。


「今日はいきなり来て、申し訳ない。どうしても早く、新兵器を見たくて……」


 恥ずかしそうに苦笑いするルーカスにブライスは首を振る。


「いえいえ、ここまで早く来て下さる事に感心しました」


 一国の代表けしからぬ行動力に賞賛を贈る。


「さて、早速見せて頂こうか。新兵器の実力とやらを」


 そう言ってイタズラっ子のように微笑むルーカスはもう子供だった。







 -----


 -ウェリントン基地-


 ウェリントン基地はエルス国の本部であり、エルス国最大の基地だ。軍事力という点では北にあるオークランド基地の方が巨大だが、それ以外の点はウェリントン基地に有る。

 新兵器開発や、アカデミー、資材等あらゆる軍事関係の物がここに集結してるのだ。

 オークランド基地はあくまでも最前線のとても大きな基地に過ぎない。


 そんな中、ウェリントン基地のHAW開発部門に訪れる。


 外から見たらただの格納庫であるが、中には多くの組み立て中のHAWが存在する。骨格だけのHAWや腕のみ足のみ等があちらこちらに散乱していた。


 なかなか現場に行けないルーカスにとっては物珍しい光景だ。もう子供のようにキョロキョロしている。

 アイリーンが肘で小突いて注意するもルーカスはもう夢中だ。


 ブライス代表もアイリーンに目配せをして、大丈夫と伝える。

 アイリーンは無言で会釈し、ルーカスの代わりに謝罪する。


 こちらに気づいたのか少し汚れた白衣を着て無精ひげを生やし、丸い眼鏡を掛けた60代ぐらいの男が近付いてくる。


「あれ? ブライス代表じゃないですか? 今日は美人さんも連れて何の用ですかい?」


 チラッとアイリーンに視線を向ける男にアイリーンは会釈する。


 その疑問にはブライスが答える。


「こちらは地球連合国司令長官、ルーカス殿だ。そしてこちらが秘書兼護衛のアイリーン嬢だ」


 二人がお偉いさんという事実に男は全く動じなかった。

 さっきと変わらない様子で話しかける。


「ほう、ワシはゲオルク。2人ともよろしくな」


 とぶっきらぼうに言う。


 そんなゲオルクをブライスは嗜める。


「全く……ゲオルクさんはいつもこんな感じですから。……連絡したでしょう。今度来るときまでに綺麗にしときなさいと」


 やれやれとため息を付くブライスにチラッと顔を向けるが、直ぐに手元に目線を戻してしまう。


「ワシは出世には興味ない。だからへつらうつもりも無い」


 と言って無言になる。


 その対応にルーカスは感心する。


「その心意気、感服しました。その心意気がある者が欲しいです。地球連合軍には未だ、へつらう奴も多く居ます……ですが取り払うには現状の戦況では……」


 顔を伏せ、拳を握り締めるルーカスにゲオルクはほう……と感嘆の声を漏らす。


「あの地球連合軍にこのような人物がトップに立つとは長生きするもんだのう。……そんなに見たいか新兵器」


 この言葉に一瞬で目を輝かせるルーカス。


 ゲオルクは部下に指示を出し、1機の前まで案内する。


 その機体は特に普通のエルピスと変わらない見た目だ。いつも通りずんぐりしている。


 ルーカスとアイリーンは何度も見上げるが特に変わった点は見られない。

 2人が首を傾げているとブライスがふと呟く。


「……まさかこの機体、あの装置を搭載してますか?」

「「ーーあの装置?」」


 ルーカスとアイリーンの疑問の声が重なる。


 ゲオルクは顔を上げ、得意気に話す。


「うむ。あの装置というのは魔力増幅装置じゃ」

「ーー増幅!?」


 ルーカスは思わず声を上げてしまう。


 魔力の増幅はかつてからずっと研究されてきた事だ。しかし有効な方法は無く、人間を薬で底上げすることでしか方法は無く、昨今禁止にしたばかりだ。

 その増幅が可能になれば魔法師の優位性で戦況がひっくり返るかも

 しれない。


 ルーカスはゲオルクに詰め寄る。


「どうかこの技術を地球連合軍に!!」


 必死なルーカスにゲオルクは申し訳なさそうに断る。


「……済まない。これはまだ実用レベルでは無いのじゃ。これは魔力を増幅するのだが、操縦者のみじゃ」

「そんな……で、でも大きな魔力を使えるならば戦況を変えられるのでは?」

「確かにそうじゃが他にも色々と問題がある」


 ゲオルクが言うにはまず、この装置はとてもデカく、燃料タンクが余計に増えたような物であると。その為、エンジンの出力を上げたが次は燃費が悪くなり本来の性能を引き出せない。


 またフレームには魔鋼石を使用していて、特注の為コストが高くなる。


 更にパイロットの面も問題がある。パイロットには強力な魔法師では無いと魔力増幅装置は起動すら出来ないらしい。

 HAWで魔法を使うために全身魔鋼石で作る→魔鋼石が多い為かなりの魔力が必要→優秀な魔法師が必要となるのだ。


 優秀な魔法師を乗せたとする。だが本体はHAWとしての性能は期待出来ない→護衛を置く→多大な準備が必要。


 という風に自衛すら出来ないのに前線に居ないと運営出来ず、もし撃破された場合、多大なコストと優秀な魔法師を失うのだ。割に合わない。


 そんな膨大な問題にルーカスは頭を抱える。


「クソッ……これが逆転の一手かと思ってたのに……」


 落胆して膝を付くルーカスにブライスは冷静に諭す。


「ルーカス長官。まだこの技術は実用レベルでは無いにしろ、いつか技術の進歩次第では実用化のメドが立つかもしれません。諦めず希望を持ちましょう」


 この言葉にルーカスは自分の考えを恥じる。地球連合軍のトップである自分が諦めたらそこで敗北を意味するのだ。

 だから諦めず、現状でどうにかする策を思い付くしかない。


 ルーカスは立ち上がり、ブライスと握手する。


「……ブライス代表、目が覚めました。これからも良き同盟国としてよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 2人の同盟が更に確かな物になったと同時にルーカスはブライス代表に尊敬の念を抱いていた。


(これが神速の英傑か……英傑に恥じない意思の強さだ)


 と思いながらアイリーンの方をチラッと見るとどこか遠い目をしていた。

 それを見て、ルーカスは思い出す。


(そういえば、アイリーンはHAWに興味無かったな。ふむ、じゃあーー)


 ルーカスはブライスに何かをお願いする。アイリーンには小さくて聞こえない。


 お願いを聞いたブライスはアイリーンに優しく微笑む。


「ええ、ルーカス長官のご要望にお応えしましょう」


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